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    SuzukichiQ

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    SuzukichiQ

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    石化の時代よりも前に邂逅している2名の話。中長編の導入。
    ※タイトル仮です。

    #龍羽
    dragonFeather

    【龍羽】未分化 相模湾から船で約二時間。
     本州を出て海上を東に進み、水平線でも陸地が見えなくなって暫くしたころ、小さな島々が現れる。多くの日本人が名前すら知らないような島のあつまりだった。日本にある島の数は実に約六千八百、位置や島名については公表されていないものも沢山あるというのだから、地図には載っていないような島々があってもおかしくない。
     そうした島のうち、龍水はひとつを所有していた。無人島として浜辺や森しか当時なかったその島に、自分のための別荘を建てている。娯楽用の設備はないし、電気もガスも通っていないが、海を楽しむには充分だし、フランソワがいれば食事に困ることもなかった。自分と同じように海が好きな友人や客人をときどき招き、マリンスポーツやキャンプを楽しむために使っていた。
     気温もほど暖かい季節で、空の様子もよかった。梅雨前の安定した気候のもと、明日やってくる友人たちを迎えるために龍水は先に島に来ている。具体的なことは業者やフランソワにやってもらったが、目で見て確かめるならば自分がいい。冬はこの島には訪れていなかったから、利用すること自体が久しぶりでもある。一冬そのままにしていると設備が悪くなっていることもあるし、何があって何がなかったか忘れている場合もあるし、もしも危険な動物が見つかった場合は、駆除を優先し、利用を中止しなければいけない。

    「えっ」
     そこで発見したのは、危険な動物はなかった。そして龍水の知らない人間だった。
     夜になって、浜辺のほうで火のあかりが見えることに気が付いて、行ってみたら人間がいた。顔を見てみたのだが思い出せず、初対面のように見えた。その初対面の人間は、ひとりで火おこしをして焚火にあたり、枝を組み合わせて火のうえに服を干していた。どうやら濡れてしまったものを乾かしているらしい。上半身はなにも着ていない男だった。年齢はよく分からないが、あまり年上にも見えないし、年下にも見えない。
    「ここでなにをしている」
    「ええと……野営」
    「ここは私有地だ」
    「……きみの?」
    「そうだが」
    「それは……ごめん、無人島だと思ってた」
     確かに、基本的には無人島ではあるのだが。建てている別荘も奥のほうに入っていかないと見つけられないので、夕方や夜ならば気付くことは難しいだろう。
     不法侵入、という言葉が頭をよぎる。おそらくは相手の頭のなかにも同じような言葉が浮かんでいるのだろう、表情には困惑がある。
    「もしや遭難者か?」
    「そう。流されてきちゃって。怪我は無いんだけど、明るくなってから助けを呼ぼうと思ってた」
     龍水はしばらく、その人間の様子を眺めた。遭難者にしては随分と落ち着いている。確かに見たところ大きな怪我はしていないようだし、なんらかの嘘をついてこんな場所に滞在する理由も思い当たらないのだが。
     ごく当たり前に出来ている火起こしと焚火、よく見てみれば傍らには捕ってきたらしい魚が数匹、それらがどうにもさまになっている。
     視線と沈黙とで察したらしく、先に口を開いたのは相手のほうだった。
    「野営は慣れてるんだよ」
    「趣味の類か?」
    「そうじゃない。自衛官なんだ」
    「なるほど」
     波音がひときわ聞こえて、風に火がゆれた。男が立ち上がり、干してある服を確かめる。まだ乾いていないようで、一瞬また困ったような顔にはなったが、それでももう一度、龍水のほうを見た。
    「きみの私有地に勝手に入ることになって申し訳ない。明日には後始末をしてどうにか出ていけるようにするから、この一帯だけ一晩使わせてもらえたら助かる」
     ふむ、と龍水は腕を組む。身元を証明するものは持っているように見えない。自衛官を自称する男が、実際にその通りであることを確認することは難しいだろう。信じる根拠としては、これで嘘なら男の役作りが出来過ぎているということと、噓を吐いてここで野営をする理由が見当たらないことくらいしかない。
    「いいだろう」
    「ありがとう、助かる」
    「だがその場所はだめだ。明日ここを使う予定がある。万が一にでも使った後の炭が残っていては危険もあるからな。部屋をひとつ用意させるから、そちらを使え」
    「部屋?」
    「別荘がある。先程も言ったが、ここは私有地だ。俺のな」

     火の始末をしたあと、遭難者の男を連れて別荘にまで戻った。玄関に入ってすぐ、フランソワを呼び出して、客室を用意するように言って、自分自身は男をつれて玄関をあがった。とりあえずは着替えをもってきて男を浴室に案内し、身体を洗うのと着替えが済んだら一番広い部屋に来るようにと伝え、自分ひとりになってからダイニングルームに落ち着いた。フランソワが沸かしておいた湯をつかって暖かい飲み物をふたりぶん、準備をすることにした。ポットとカップふたつ、そして個包装になっている紅茶の茶葉をとりだし、茶葉ふたつをポットに放り込んで、多めに湯を注ぐ。普段であればポットを一度あたためるのだが、こういう場所だとそうはいかない。
     待っているあいだに、台所の隅で包んで置かれていたフランソワが夕方焼いたパンを幾つか適当に選んで大皿に載せて、テーブルに持っていった。
     ポットとカップもテーブルに運んだころ、足音が近付いてきて、先程の男が遠慮がちながらも部屋に入って来た。
    「……ここでいいのかな。着替えありがとう」
    「早いな」
    「いつもこれぐらいだよ」
     自衛官ならそういうものか。ひとりで納得して、男をテーブルに呼んだ。
    「簡単だが食べるものを用意した。部屋の準備が出来るまでここで待つといい」
    「……」
    「どうした」
    「……なんでもない」
     いったんは言葉をのみこんで、男は龍水と同じようにテーブルの前に来た。人ひとりが横になれそうな程度におおきなソファが向かい合っており、龍水はその片方にいる。少し考えてから、男はその斜めに位置する、一人掛け用のソファーに座った。龍水もとくになにも言わず、カップに紅茶をそそぎ、男の前に置く。
    「アールグレイだ」
    「あ、うん」
    「砂糖やミルクは」
    「大丈夫」
    「そうか。パンは今日、執事が焼いたものだ。シェフも兼ねている」
    「さっきの人?」
    「そうだ」
    「……きみ、相当いいところの人だな……」
     龍水が紅茶に口をつけたのを見て、男のほうも紅茶のカップをようやく手に取った。男が言おうとしていたことがやっと分かって、龍水は思わずふっと笑いをもらした。
    「いいところなのかは分からないが、財閥だ」
    「……七海財閥?」
    「知っているか」
    「うん。というか、きみが誰なのか分かった気がする」
    「そうだろうな」
     男がやっと笑った。苦笑いには近かったが、嫌悪感を持たれた感じはしない。七海財閥の跡取り息子というだけで難しい顔をする大人も多いから、龍水にとってはむしろ好ましい反応だった。
     フランソワが焼いたパンを勧めて、ついでに夜食として自分も食べた。一口食べて、おいしい、と素直に感想を漏らすので、好きなだけ食べていいと返した。
    「貴様は自衛官といったな」
    「そう。海自。地方のね」
    「基地はどこに?」
    「横須賀」
    「フゥン。ここに流れてきた経緯は?」
    「……うーん。事情により話せないとしか」
    「話せない」
     龍水は首を傾げた。
    「任務のことは話せないって意味」
    「機密情報?」
    「機密情報」
    「仕方ないな」
     納得して見せると、男は明らかに安堵の表情になった。申し訳ないとも思っているのかもしれない。
     しかし龍水としては構わなかった。自分の身近に自衛官はいないし、この男の人柄も、あまり知人にはいないタイプだった。ソファに座ったままで上半身を乗り出す。
    「名前は」
    「羽京」
    「どういう字を書く?」
    「羽根と京都」
    「羽京は海自でなにをしている?」
    「……」
    「話せる範囲で構わない。面白い話をしてくれたら、宿代はそれでいい」
     羽京と名乗った男は目を丸くした。龍水の表情をまじまじと見て、少しも冗談が感じられないのを理解したようだった。怒られるか呆れられるかと思っていたが、意外にも羽京は笑った。
    「きみ、おもしろいなあ」
    「龍水でいい」
    「そう? 龍水は船乗りだね。港できみの機帆船を見たことがあるよ。迫力があった」
     言って羽京は飲み干して空になったカップをテーブルに置いた。龍水はポットを確かめて、まだ中身が残っていることが分かると羽京のカップに紅茶を注ぎ、自分のぶんも追加した。羽京はカップに入った紅茶とその湯気をしばらく眺めていた。なにか考えている様子で、それを待つこと数秒、やっとその口が開かれた。
    「……僕がなにをしているのか、具体的なことは言えないんだけど」
    「構わん」
    「ひとつ特技があるんだ」
     ふふ、と羽京は笑った。
    「この家についてあててみよう。木造建築で、吹き抜けのある二階建て。一階はこの部屋のほかに、寝室ひとつ、もう一つは書斎か作業部屋かな? 二回に客室が恐らく四つあって、さっきの執事の人が一番奥の左側にある部屋を準備してくれている。部屋の広さは十二帖くらい。天井は二・八メートル。部屋にはベッドがひとつ、テーブルと椅子がひとつずつ、窓は東向きと南向きにひとつずつあって、今は開けて風を通しているところ。そして他の執事や客人は誰もいない。どうかな」
     すらすらと喋った言葉をもとに、龍水は頭のなかでこの別荘について思い出していく。一階はともかく、二階については頻繁に行くわけではない。窓がどの向きにあったかも思い出さなければいけない。しかしこの家の構造を考えてみれば、窓の向きについても自然と答えが分かった。
    「おそらく当たっている。部屋の広さも大体そのくらいだろう。聴力か?」
    「そうだね。生活に支障がでるほどじゃないけど、音を拾うのが得意なんだ。音から構造を分析することも」
    「ソナーマンだな」
    「まあ、具体的なことは言えないけど」
     妙に食えないところがある、と感じた。頭の回転がはやく、真面目で誠実ではありそうだが、人に騙されるタイプではない。友人にいたらきっと面白いだろう。
     聴力が良いと何ができるのか、羽京は経験談からいくつかを話してくれた。子どもの頃に窓ガラスの割れる音で空き巣に気付いて通報したこと、かくれんぼや鬼ごっこで捕まったためしが殆どないこと、部活動で弓道部を選んだこと、他人の内緒話が聞こえること。
    「自衛官を目指したのは活かせると思ったからか?」
    「そういうわけじゃないけど、選んでみたら意外と便利ではあったかなあ。それに英語とか歌とか、耳を使うものは人より呑み込みが早かったかも。特に英語なんかは仕事でも役に立った」
     そう話しながら羽京はパンをひとつ食べきった。
    「話せるのはこんなところかな。面白い話になっていたらいいんだけど」
    「新鮮な話だったぜ。自衛官と話したのは初めてだった」
    「自衛官らしい話はあんまり出来てないけどね。ちなみに龍水はどうしてここに?」
    「明日、友人たちがここに遊びにくる予定だ。今日はその準備だ」
     じ、と羽京が龍水の顔を見た。
    「きみって学生?」
    「そうだ。七海学園というところに籍がある」
    「ちゃんと授業でてるの?」
    「必要だと思うものはな」
     そういうこと、とボソっと呟いて、羽京は二杯目の紅茶に口を付けた。
     どういう意図の質問だろうか、と龍水が訊ねるよりも先に羽京が立ち上がり、扉のほうを見た。
    「部屋の準備ができたみたいだ」
    「分かるか?」
    「うん、降りてくるから。紅茶とパン、ありがとう」
     それからすぐに、フランソワが部屋に入って来た。客室の準備ができ、羽京を部屋まで案内すると言われ、羽京は素直にフランソワのあとをついていく。龍水も自分の寝室に入った。
     木造建築は音が響きやすいという。よく聞こうとすれば二階の足音くらいは聞こえるのではないかと思っていたが、龍水が就寝するまで、羽京の足音がここまで聞こえてくることはなかった。


     そうして翌日、日の出よりも早い時間に龍水は目を覚ました。フランソワも既に起きているだろうが、いつもの起床時間よりも早いのでまだ起こしには来ていない。
     奇妙な勘がはたらいた。
     部屋を出て二階にむかい、いちばん奥にある客室の前に立った。二回、扉の前でノックをして、しばらく待ったが、音も声もかえってこない。部屋の向こうはしんとしており、人がいないようにも思えた。扉をひらいた。
     ベッドの上の寝具は、きれいにたたまれていた。寝具のそばには、龍水が貸した服もたたまれて置かれている。
     東向きの大きな窓が開いており、外の波音が風とともに穏やかに流れ込んでいる。念のため窓から顔を出し、下も確かめたが、そこには誰もいなかった。
     フランソワを呼ぼうとしたが、机のうえに一枚の置手紙があるのを見て、思いとどまった。明らかにあの男が書いていったものだ。
     机に近づき、その一枚の手紙を手に取る。
    「……」
     その内容を上から下まですべて読み、裏面になにも書いていないのを確かめて、久しぶりに溜息を吐いた。
    「やられたな」
     すぐに捨ててしまうことも考えたが、思い直して、折りたたんでポケットに仕舞った。窓を閉じ、部屋になにも残っていないことを最後に確かめると、扉をしめて下の階に戻った。昨日のダイニングルームに入ると、フランソワが朝食用のパンを焼こうとしているところだった。
    「フランソワ」
    「おはようございます。お早いですね」
    「目が覚めた」
    「何かお飲みになりますか」
    「任せる。朝食は一名分でいい」
     フランソワは表情を変えずに、しばらくじっと龍水のほうを見た。やがて何かを理解したように小さく頷いた。
    「かしこまりました。飲み物は部屋にお持ちしましょう」
     すぐにフランソワは自分の仕事に戻っていった。龍水は部屋に戻り、再びベッドに入った。先程もちかえった一枚の手紙をもうふたたび開き、何も内容が変わらないそれを読みきったあと、ふたつに破いて捨ててしまった。


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    SuzukichiQ

    DONE龍羽ワンライです
    『聞こえた!』 実際のところ、普通の人はどのくらい聴こえるものなんだろうと考えたことがある。
     羽京にとっては生まれたときから自分の聴こえ方が自分にとって普通だったから、感覚的な意味で聴力の良さに気付くのは遅かった。
     両親はたぶん早く気付いていた。幼少期の自分はどうやら言葉の発達が人一倍早かったらしい。歌を覚えるのも物心がつくより前のことだった。それでも普通に育てられたから、まわりと自分の差異が分かってきたのは小学校に上がってからだったと思う。地獄耳と初めて言われたのもそのくらいの時期だった。
     気にしていた時期もあったが、専門機関で検査を受けてからは納得が出来るようになった。どんな小さな音でも聴こえる――ということではなくて、どうやらこの聴力の良さというのは、周囲をよく観察し、洞察する性分と掛け合わさった結果なのだという。その説明は自分のなかにストンと落ちて、以降は地獄耳だと言われても実際そうなんだと思うようになった。疲れていたり周りが見えていないときには他よりちょっと耳がいいくらいの人間だし、高い集中力が必要な環境になれば、拾った音の情報をより多く早く処理できる。それで周りに頼られることも増えた。
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    SuzukichiQ

    DONE1回書きたかったあさぎりゲンの話。五知将揃い踏み。
    カップリング要素はないけどゲンは千空が好き、千ゲンでもゲン千でもない。龍羽生産ラインの気配があるかもしれない。
    空想科学的要素を含みます。
    スワンプマン(仮)【あさぎりゲン+五知将】

     どうやら俺には偽物がいる。

     そのことを知ったのは、仕事が終わって日本に帰国して、数日の貴重なオフを過ごしている最中だった。本職はマジシャンだっていうのに、本格的な復興プロジェクトが動き出してからというものの、相変わらず技術者や政府要人がいる場所に引っ張り出されては交渉役や調整役になっている。重要で責任の重い仕事が終わったあとの休息。開放感が最高だった。遅めの時間に起きて、外に好きなものを食べに行って買い物をして、最近充実しつつある本屋で新しい心理学の本を手に取ってみたりして、夕方になったら仲のいい人と待ち合わせ。
     羽京ちゃんも以前と変わらず俺に負けないくらい忙しい。そんで今もやっぱり美味しいものが大好きなので、仕事終わりに美味しいものを食べに行こうって誘うと大体乗ってきてくれる。今日もそんな感じで、前々から決めていた約束の時間に羽京ちゃんはやってきた。
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