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    SuzukichiQ

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    龍羽ワンライです

    #龍羽
    dragonFeather

    『聞こえた!』 実際のところ、普通の人はどのくらい聴こえるものなんだろうと考えたことがある。
     羽京にとっては生まれたときから自分の聴こえ方が自分にとって普通だったから、感覚的な意味で聴力の良さに気付くのは遅かった。
     両親はたぶん早く気付いていた。幼少期の自分はどうやら言葉の発達が人一倍早かったらしい。歌を覚えるのも物心がつくより前のことだった。それでも普通に育てられたから、まわりと自分の差異が分かってきたのは小学校に上がってからだったと思う。地獄耳と初めて言われたのもそのくらいの時期だった。
     気にしていた時期もあったが、専門機関で検査を受けてからは納得が出来るようになった。どんな小さな音でも聴こえる――ということではなくて、どうやらこの聴力の良さというのは、周囲をよく観察し、洞察する性分と掛け合わさった結果なのだという。その説明は自分のなかにストンと落ちて、以降は地獄耳だと言われても実際そうなんだと思うようになった。疲れていたり周りが見えていないときには他よりちょっと耳がいいくらいの人間だし、高い集中力が必要な環境になれば、拾った音の情報をより多く早く処理できる。それで周りに頼られることも増えた。
     悪い気はしない。
     だけど自分が理解している音世界の粒の細かさは、ある一定の程度を超えてしまうと誰にも共有できなくなってしまう。多くの人にとっての普通というのが、ときどき隔たりを生んでいる。

     太平洋に発つ準備のために今は羽京も忙しい。用意しないといけないのは保存のきく食料なわけで、特に肉類の確保は狩猟向きの者たちの仕事だった。羽京もそこに加わっている。はやく人が増えて酪農が始まったらいいのになあと思いつつ、今はどうにもならないのでせっせと森や山にでて肉になりそうな生き物をみつけていく。弓矢で獲って、川辺で血抜きをして、持って帰る。大きな獲物ならほかの人も呼ぶが、狩りの成功率はひとりで居るときのほうが高かった。耳が良ければ獲物よりも先に自分のほうが存在に気付けるし、人が増えると野生動物に気付かれやすいためだ。
     結局この日も、ひとりでも何とか持ち帰ることができる程度のオスの若い鹿を射た。慣れた手つきで血抜きをして、時間が過ぎるのをしばらく待つ。
     野生動物は危機に対して本当に敏感で、人間の足音ひとつすらも聞き逃すことはない。不思議なことに聞こえた足音だけで、そこにいる存在が危険なのかそうでないのかが分かっているようだった。野生動物のそういう鋭い感覚には素直に感心するし、だからこそ羽京も狩猟のときは極限まで集中する。鳴き声の聞き分けから始まって、その距離と方角の推測。今なにをしているのか、緊張しているのか穏やかなのか。
     自分のこの聴力は、意外と動物に近いかもしれない。
     血抜きが終わって少し軽くなった若い雄鹿をなんとはなしに眺めながら、ふとそんなことを思った。
     担いで帰って、精肉処理はフランソワたち食料班に任せた。別れぎわにフランソワから焼菓子を持たされた。これからの仕事用にということだろう。

     夕方になってからは航路の打ち合わせに向かう。かつて司帝国だった場所、今は龍水が使っている部屋に歩いて行った。夕日で空いっぱいに橙が広がり、明日の天気もきっと良いだろうと思った。龍水ほどではないけれど空の様子で天気が分かるようになった。
     なんとなく、龍水もそうなんだろうと思った。
     雲の動きや風の様子でこれからの空の変化が分かる。気温も分かるのだという。つまり解像度が高いのだ。分かったことのすべてを人に共有しようとはしていないだろう。必要なことを、ついていくことができる範囲でそうしている。だけど龍水だけが知っている世界の粒の細かさを、少しでも同じように理解出来たらそれはきっと楽しい気がする。
     立ち止まっていたことに気が付いて歩き出した。
     龍水がいる部屋はもう見えている。それでもまだ部屋には辿り着いていないところで、まだ見えていない部屋のなかから声がした。
    「羽京か?」
     へ、と思わず声がこぼれた。その返事はもちろん龍水には届いていない。
     驚いて目を丸くしていると足音が数歩聴こえて、部屋の二階のところから龍水がひょいと顔を出した。
    「思っていたより早かったな! まだ他は集まっていないぞ」
    「あ、うん。けど狩りのほうが終わったから」
    「なら上がってきてしばらく休むといい。服も汚れているようだし、着替えてはどうだ」
    「そうする。……。あのさ」
     聞こえる声で、二階の手すりに寄りかかっている龍水に声をかけた。ん、と龍水は首を傾げた。
    「なんで分かったの?」
     短い問いかけだったが、龍水にはそれが何か分かったようだった。いつものように口角を上げて笑った。
    「聞こえたぞ」
    「足音?」
    「そうだ。貴様のだと分かった」
     目を丸くしたまま、ぽかんと龍水を見上げた。その反応が面白かったのか、どことなく龍水は愉快そうな様子だった。指先で羽京にここまで上がってくるように招き、手すりから身体を起こした。
    「聞きたいものは聞こえるし、分かるものは分かる」
     言うだけいって龍水は部屋のなかに戻っていってしまった。羽京はしばらくそこに立ちつくした。
     聞こえた、と龍水は言っていた。たぶんそれは普通の人と変わらないくらいの感覚なのだろう。だけど聞こえるのは、耳だけの話ではないことを羽京はよく知っている。聴こうとしてはじめて分かるものが沢山ある。
     ぎゅっと目をつぶった。焼菓子の袋を持つ手で、自分の頬をたたいた。感情が顔に出すぎていると居たたまれない。
     よし、と小さく呟いて、上に向かった。

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    SuzukichiQ

    DONE龍羽ワンライです
    『聞こえた!』 実際のところ、普通の人はどのくらい聴こえるものなんだろうと考えたことがある。
     羽京にとっては生まれたときから自分の聴こえ方が自分にとって普通だったから、感覚的な意味で聴力の良さに気付くのは遅かった。
     両親はたぶん早く気付いていた。幼少期の自分はどうやら言葉の発達が人一倍早かったらしい。歌を覚えるのも物心がつくより前のことだった。それでも普通に育てられたから、まわりと自分の差異が分かってきたのは小学校に上がってからだったと思う。地獄耳と初めて言われたのもそのくらいの時期だった。
     気にしていた時期もあったが、専門機関で検査を受けてからは納得が出来るようになった。どんな小さな音でも聴こえる――ということではなくて、どうやらこの聴力の良さというのは、周囲をよく観察し、洞察する性分と掛け合わさった結果なのだという。その説明は自分のなかにストンと落ちて、以降は地獄耳だと言われても実際そうなんだと思うようになった。疲れていたり周りが見えていないときには他よりちょっと耳がいいくらいの人間だし、高い集中力が必要な環境になれば、拾った音の情報をより多く早く処理できる。それで周りに頼られることも増えた。
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    SuzukichiQ

    DONE1回書きたかったあさぎりゲンの話。五知将揃い踏み。
    カップリング要素はないけどゲンは千空が好き、千ゲンでもゲン千でもない。龍羽生産ラインの気配があるかもしれない。
    空想科学的要素を含みます。
    スワンプマン(仮)【あさぎりゲン+五知将】

     どうやら俺には偽物がいる。

     そのことを知ったのは、仕事が終わって日本に帰国して、数日の貴重なオフを過ごしている最中だった。本職はマジシャンだっていうのに、本格的な復興プロジェクトが動き出してからというものの、相変わらず技術者や政府要人がいる場所に引っ張り出されては交渉役や調整役になっている。重要で責任の重い仕事が終わったあとの休息。開放感が最高だった。遅めの時間に起きて、外に好きなものを食べに行って買い物をして、最近充実しつつある本屋で新しい心理学の本を手に取ってみたりして、夕方になったら仲のいい人と待ち合わせ。
     羽京ちゃんも以前と変わらず俺に負けないくらい忙しい。そんで今もやっぱり美味しいものが大好きなので、仕事終わりに美味しいものを食べに行こうって誘うと大体乗ってきてくれる。今日もそんな感じで、前々から決めていた約束の時間に羽京ちゃんはやってきた。
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