ドキドキとモヤモヤと その日、約束していた時間よりだいぶ遅れて透の家にやってきた兄は最近では随分と珍しい格好をしていた。
グレーのベストに白のドレスシャツ、黒に近い濃いグレーのクロスタイと同色のスラックス。
首から上は手拭いを頭に巻き口元を覆面で覆っているいつもの姿なのに、首から下は何故かフォーマル寄りの装いだ。
(兄さん、かっこいい……っ!)
何故だかわからないけど兄さんが……兄さんがまともな格好をしている!
昔みたいな、ちゃんとした高等吸血鬼に相応しい服装を!!
この国に来てからはとんとお目にかかる機会なんて無かった盛装姿の兄を認めた私の頬にじんわりと熱が集まっていく。
興奮に速まる鼓動を持て余し、微動だに出来ず無言で食い入るように兄を見つめる私と違い、透とあっちゃんはこたつから兄さんの足元へと這い出して物珍しげにその姿を見上げて歓声を上げた。
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