8月12日午前5時 夜明け前に別れた末の弟と妹は今頃仲良く夢の中だろうかと想いを馳せながら、ミカエラと何度も口づけを交わす。
ガタイのいい男が二人乗ってもなお広いビキニ御殿のミカエラの寝台の上で、背後から抱き込む形で腕の中に閉じ込めているのは、俺の見立てた鉄紺色の浴衣を着たミカエラ。
この日のために俺が選んだとっておきのラッピングを施された、俺のためだけのとっておきのプレゼントだ。
「毎年思うんだがな」
「うん?」
「どうせ脱がすのに何故わざわざ着せるんだ? しかも貴様の誕生日だと言うのにいちいち私のために衣装まで仕立てて」
「毎年言ってるだろ? 俺が選んだ服で着飾ったお前を俺の手で脱がすのが良いんだって。男のロマンだよ、ロマン」
口づけの合間に毎年お決まりの文句をつけるミカエラに、これまた毎年お決まりの答えを返す。
俺好みの服を身に纏った弟の美しさに感じるのは満足感と優越感と独占欲。
この美しい恋人を着飾らせるのも、それを脱がせるのも俺だけの特権だと思うと実に気分が良い。
普段は襟で隠されている白いうなじに口付けて、胸の合わせに手を差し込む。
ビキニ越しに胸の頂きを柔く引っ掻くと、顎を反らせて俺の首筋に甘えるように頭を擦り付けた。
俺の手が、唇が触れる度にミカエラがうっとりと美しい顔をとろけさせる。そんな愛しい弟の姿を眺めていて思う。
昔、透に初めて誕生日の祝いをしてもらったあの時。
何が欲しいかと聞かれて答えた言葉に嘘はないし、今だってそう思っている。
兄弟が、弟が俺の側で笑ってくれるのが俺にとって一番の幸せだ。
でも、あの時はたとえ俺のそばに居なくても、幸せでいてくれるのならそれで充分だと……ここに居ないミカエラも、幸せでいてくれたらそれでいいと、確かに思えたはずなのに、今はお前が俺の知らないところで幸せに笑っているなんて、とてもじゃないが耐えられそうにない。
こうやってミカエラをこの腕の中に抱くようになってからは、どうしてあの時あんな風に思えたのかが全く理解できなくなっていた。
お前が幸せに微笑むのなら、その側には俺が居なければならない。そうでなければ到底許せない。
我ながら過ぎた執着だと思う。
透に対するように、優しいだけの愛情でお前の事も愛せたら良かったのに……と思った事が無いわけじゃないけれど。
幸せそうに美しい顔を綻ばせた弟がそっと顔を寄せ、お互いの鼻先が触れるか触れないかの距離で止まる。
「改めて、お誕生日おめでとう。兄さん」
どうかこの先の一年が貴方にとって幸せなものでありますように、と囁いて唇の端にチョンと可愛らしく触れられたミカエラの唇を追いかけて深く口づけた。
ミカエラに対する、あの頃と変わらない愛情とあの頃から変わってしまった愛情は複雑に絡み合っていて、時々俺ですら持て余すほどだ。
けれども願いは、望みはあの頃から変わらない。
「弟が笑っていてくれるのが俺の一番の幸せだよ。……できれば、俺の側で」
「……だったら、きっとずっと幸せだな。少なくとも、私はもう二度と貴方の側を離れたりはしないんだから」
はにかみながら笑うミカエラの愛らしさに、矢も盾もたまらず再び口づける。
ああ、ずっとこうやっていられたら最高だ。