😈宛のラブレターを燃やして焼き芋を焼く学パロ典鬼※モブからもらったラブレターを燃やしています。つまり、あんまりいい性格ではないです。(ふたりとも)
ある晴れた休日。
鬼丸が運動がてら河原を散歩していると、見覚えのある後ろ姿と、彼の足元でこんもりと盛り上がっている落ち葉の山が見えた。
「……大典太?何してるんだ、こんなところで」
「あっ、お、鬼丸……こ、こんにちは」
鬼丸に声をかけられた大典太は、なにやら慌てた様子であった。大典太の態度を不審に思いつつも鬼丸は視線を地面へと下げる。
「落ち葉と紙を燃やしてるのか」
「あ、ああ……焼き芋だよ。さっき火をつけたところ……」
「ほう。焼き芋。……それ、燃やすには適さない紙だと思うが」
落ち葉の中に混ざる普通紙らしきその紙たちは、あまりよい燃料だとは思えない。なぜ燃えるのに非効率的な紙を焚べているのだろうか。
「新聞紙のほうがよく燃えるだろ。お前の家、新聞取ってないのか?」
「新聞は……取ってるけど……」
「じゃあなぜ」
鬼丸は、まだ火が回っておらず燃えていない紙を発見し、近くの火に注意してそれを拾い上げた。
「あっ……!」
「……『鬼丸くんへ』……」
あわあわする大典太に構わず、紙の内容を音読する。なるほどこれはラブレターだと、冒頭一行で察した。送り主は、隣のクラスの女子生徒のようだ。
鬼丸がちらりと横を向くと、大典太が観念したように重々しく口を開いた。
「……『あんた鬼丸と仲良いでしょ。鬼丸くんに渡して』って、よく女子にラブレターを託されるんだよ。頻繁に。でも、あんたにこれを渡すのは嫌だし……そもそも、あんたの恋人、俺だし……」
そりゃそうだ。鬼丸だって、「大典太くんに渡して」とラブレターを託されたら、大典太には絶対に渡さない。なんなら捨てるし。だってそいつの恋人、おれなんだもん。先客がいるんだもん。お前がひそかに思いを寄せる大典太くんは、おれにゾッコンだもん。
「……でも、なんでラブレターを捨てずに取っておいたんだ?」
「……」
大典太は恥ずかしそうに俯いた。
「……本当に……本当に情けない話なんだが、……ムカついてな……」
「お、おう……」
「モテるあんたにも多少ムカついたし……本人に渡す勇気もないくせにこんなんをいっぱい書いてくる人達もちょっと腹立ったから……燃やそうと思って」
そうして、ある程度ラブレターが溜まったので燃やしていたところに、ちょうど鬼丸が通りかかったということらしい。
「……ただ燃やすだけでいいのに、なぜ焼き芋までセットでやってるんだ」
「ああ、それは……」
『人間失格』の一節にて。主人公の超モテるろくでなし男が、女性と会話するシーン。
女が男の目の前で何かを書いている。それが自分宛のラブレターであることを、男はなんとなく察していた。
男が女に「ラブレターで風呂を沸かした男がいるらしい」と言うと、女は「あなたのことでしょ」と笑う。男は首を横に振り、
「ミルクを沸かして飲んだことはある」
と一言。すると女は「光栄だわ、飲んでよ」と返した……
「っていうのを読んで、ちょっと憧れて……!」
風呂を沸かすにはラブレターの量が足りない。かと言って、ミルクを沸かすのはなんか面白くない気がする。考え込んだ結果、「そうだ、焼き芋しよう」と思い付いたのだと。
話している間に、いい感じに火が通ったようだ。大典太は落ち葉をかき分け、軍手をはめた手でアルミホイルに包まれた芋を拾った。アルミホイルをはがし芋を半分に割ると、周囲に甘い香りが漂って、ほくほくと蒸気が立ち昇った。
「……美味そう」
「あんたも食べなよ。やけどに気を付けて」
「いいのか?ありがとう、いただきます」
ふたりでふうふうと冷ましながら焼き芋を頬張る。あたたかくて甘い。
「美味い!」
「うん」
「やっぱり普通に焼くのとラブレター込みで焼くのとでは味が変わるのか?」
「うぐっ……しらん……」
大典太は半端に焼け残ったラブレターから目を逸らした。真剣に書かれたであろう鬼丸宛のラブレターを、芋を焼く燃料にしてしまったことに負い目を感じているらしい。
(別に、おれは気にしないけど)
おれ宛の手紙なんだから、おれが「燃やしたっていい」と言えばそれでいいのだ。実際、それらの内容を読むよりも薪の料として使われるほうがなんだか……『さすてなぶる』?な感じがする。
ものを燃やしているのだから環境にはよくないが、おれの精神衛生的には『さすてなぶる』だ、と鬼丸は心の中で詭弁を弄した。
「……またおれ宛の手紙が溜まったら、今度は派手にキャンプファイヤーしよう」
「きゃ……なんて?」
鬼丸のいきなりの提案に、大典太が眉を顰める。あまりにも突飛すぎただろうか。しかし鬼丸は続ける。
「おれけっこうキャンプファイヤー好きだし……なんか……なんかこう、火を囲んでお前と一緒に歌でも歌いたいな……」
「俺とあんたが……?『燃〜えろよ燃えろ〜よ』って……?」
「そうそう、『炎よ燃〜え〜ろ〜』って感じで」
キャンプファイヤーの定番ソングだ。小学生の時にみんなで歌った記憶がある。鬼丸と大典太がふたりで火を囲み低音で歌うのを想像すると、ちょっと面白かった。
「『遠き山に〜日は落ちて〜』のほうでもいいけど」
もう一曲、ポピュラーなのを提案する。すると大典太はくすりと笑った。
「……ふふ。いいな。なんだか楽しみになってきた」
「うん。絶対いつかやろう」
「そのためにはあんたにもっとモテてもらわないとな。キャンプファイヤーできるだけの燃料が必要だ」
あんたとキャンプファイヤーするためなら、どれだけラブレター預かったって平気だよ。むしろガンガンモテてくれ。
そう言われ、鬼丸もつられて笑ってしまった。
通りかかったご近所さんに「火の始末だけはちゃんとしいや〜」と言われ、ふたりで気の抜けた返事をする。焼き芋を食べながらぽつぽつと陰気に会話したこの日のことを、鬼丸はずっと忘れないだろうなと思った。