この後しっかり怒られた「やっほ〜。UNDEADの羽風薫です。今週は零くんが撮影でお休みなので俺が一人で担当します。本当は晃牙くんかアドニスくんが代わりに出演するよって言ってくれてたんだけど、あの子達明日も早いからさ。断っちゃった。だから今日は俺一人です。お仕事頑張ってる零くんに応援メッセージとか、あ、あと一人で頑張ってる俺に応援メッセージ待ってます」
マイクの音量を下げると同時にBGMの音量が上がり、あらかじめ録ってあるスポンサーの読み上げが同時に流れる。
CMを挟んで、ブースの外にいるスタッフから合図が送られた。
CMの間に送られてきたメッセージはスタッフが確認し、薫の手元にあるタブレットに送られるようになっている。
「改めまして、UNDEADの羽風薫です。みんな早速たくさんのメッセージありがとうね。いやあ、今更だけどちょっと不思議な気持ちにならない? みんなと俺、離れた場所にいるのにさ、こうやってリアルタイムで応援メッセージをもらえる。それだけですごく勇気づけられちゃった。なーんて、今更だよね。いつもみんなありがとう。今日は零くんがいないから心細いのかも。零くんはこの間発表があったけど、映画の撮影が始まったんだよね。零くん、元々原作のファンだったみたいで、オーディションも緊張しながら受けてたんだよ。零くんと緊張なんて無縁だと思うでしょ? ぜーんぜん、そんなことなくってさ。すごい緊張してたの。なんかちょっと珍しかった。あ、これ、零くんには内緒ね。みんなと俺の、秘密にしてね。まあとにかく撮影もすごく楽しみだったみたいで張り切って出発してたよ。SNSに写真あげなよって言ったんだけど、写真撮ってくれるのかな。あの人自撮り下手でしょ。でもね、この間着いたってメンバー宛にお花の写真撮って送ってくれたんだけど、だいぶ上達してたと思うよ。……あ、そろそろみんなから来たお便り読むね。ラジオネーム『薫くんのファン』さん。ありがとう。初めましての人だよね。『今日は薫くんが一人でラジオ出演するときいたので思い切ってメッセージ送りました』本当? ありがとう。普段も気軽に送ってくれると嬉しいな。『いつも頑張っている薫くんが大好きです。今日……』えっと……ちょ、ちょっとちょっと!」
薫がブースの外を見ると「そのまま続けて!」とカンペが出ている。
「あー……ごめんね。続けます。『今日、我輩はその場にいないんじゃけど、番組、楽しみにしておるよ』……いやいや、これ、零くんじゃん!」
ブースの外でスタッフがにこにこしている。
「えーっ。なあに、零くん聴いてるの? もー。先に言ってよね! 今日も零くんの相棒さんは頑張ってます。じゃあ次のメッセージ読むね」
*
イヤホンから流れる彼の声に思わず口元が緩んだ。
『一人でラジオだからちょっと緊張してる』
番組が始まる前にいつもならそんな弱音を吐かない薫がそんなメッセージを寄越してきたものだから。気づいたら番組宛にメッセージを送っていたのだ。
以前の彼ならこんな弱音を吐くことなんてなかっただろう。それがこうして送ってきたことに彼との距離が間違いなく近づいたのだと感じる。持ちつ持たれつ、だとか、仲良くなれたら、とか。そんなことを言っていたけれど。
気づけば弱音を言えるそんな相手になれたことの何と幸せなことか。
『零くん、後で電話するからね!』
番組が終わった頃、薫からメッセージがまた入っていた。
*
ちなみにその日のSNSでは「薫くん、普段あそこまで零くんの話しないのにやっぱり寂しかったのかな?」「零くんいなかったのに零くん回だった」などの感想が飛び交うのだった。