年の瀬、吉日戸を開け放った大広間から続く庭には、薄らと白く雪が舞っている。
大晦日の夜。本丸内の全刀剣男士が広間と庭へ集まり、年越しまでの時間を思い思いに過ごしていた。
「主、寒くない?」
縁側で刀達の様子を眺めていた審神者へ、加州清光が小さな汁椀を差し出す。
「ありがとう。大丈夫よ」
「……ウチも、賑やかになったよね」
審神者の隣に座りながら、加州がぽつりと呟いた。
庭に植えられた桜の下では、舞散る雪も気に留めず酒宴が開かれ、温かな大広間では、この日の為に腕を揮った調理担当組の渾身の年越しそばが、ひと振りひと振りに配られている。
「そうねぇ……うふふ」
「なに?」
加州の横顔を見て、不意に笑う審神者。その理由がわからず、加州は訝しげに問い返す。
「ふふ、少しね……昼間のお餅つきの事を思い出していたのよ」
太刀や大太刀、薙刀……大柄な刀剣男士も増えた今年の餅つきは、確かに昨年以上に盛り上がった。イベント好きな鶴丸が対抗戦をしようと言い出したときにはどうなる事かと思ったが、最後にはみんな楽しんでいたようだ。
「あなたも頬に打粉を付けて……本当に楽しそうだったわ」
「ちょっとー! もう忘れてよそれは……」
両手で顔を覆った加州の「はしゃぎすぎた……」という呟きは、全員に蕎麦が行き渡ったかを確認する燭台切の声にかき消された。
「そろそろ、年が明けるわね」
庭の雪はいつの間にか止んでいる。
「来年もよろしくね、わたしの愛しい初期刀さん」
「こちらこそ、俺の大切な主」
大広間と庭とに、本丸全員の声が響いた。
『いただきます!!』