一番の宝物「幸せそうだね、バーソロミュー」
「そうかい?」
「あぁ、とても。……彼女には、やはり敵わないな」
「うん? 何か言ったかい?」
「いや……ふふ。貴方は、本当にこの船を愛しているのですね」
「もちろんだとも! 彼女は世界で一番美しくて可憐な愛する船(ひと)だからね」
「……羨ましいな」
「おっと、駄目だよパーシヴァル。彼女は私の一番の宝物だ。決して奪わせはしないからね?」
「奪うなど! 恐れ多いことだよ」
(私が手に入れたいのは、むしろ貴方の方だと。そう言ったら貴方と──そしてこの船(ひと)はどう思うのだろうね)
ゆらり、と。風も波も無いはずのシミュレーターの海上で、僅かに船が揺れた気がした。
─────
夢を、見た。
桟橋の先端で、黒く夜に沈む水平線を見るともなしに眺めていた。
ふと、気配を感じて振り向く。そこには、背の高い女性が立っており、じっとこちらを見つめていた。
褐色の肌に、ダークブラウンの長い髪。緩くウェーブのかかったそれは、磨き上げられた甲板の木目のように艶やかだ。そして、強い光を湛えたアクアマリンの瞳。
(私は……知っている)
彼女を──この船(ひと)を私は知っている。直感的にそう思った。そしてその直感は、彼女の発言によって裏付けられる。
「あなた、ロバーツのこと本当に好きなのね」
凛と通る美しい声は、彼と同じように耳馴染みが良い。彼女──ロイヤル・フォーチュンの声に応えようと口を開くより早く、言葉が続けられた。
「彼を手に入れたい、と思ったでしょう?」
「っ! ……貴女も、彼に似てとても聡明なのですね」
あのとき、ただ少し頭をよぎった想いまで見透かされていたとは。気恥ずかしくなり、彼女から目を逸らす。
とん、とん、と軽い足音と共に彼女は数歩こちらへと近づいた。
「駄目よ。彼も言っていたでしょうけれど、彼の一番はわたし。誰にも渡さないわ」
でも、そうね。美しい声とともに、彼に似た褐色の手が頬に触れ、強制的に彼女の方を向かされる。それ自体が発光しているような、アクアマリンの瞳が嬉しそうに笑っていた。
「そうね、彼の隣で闘うことくらいなら許してあげる」
するりと横をすり抜けて、それだけ、と言いながら彼女は桟橋の先へ向かって行った……はずだった。彼女を追って振り向いたときには、艶やかになびくダークブラウンの幻影だけを残してその姿は消えていて、桟橋の下から微かな水音が響くだけ。水平線は、変わらず黒く沈んでいた。
おそらく、彼女と言葉を交わすことはもう二度とないだろう。けれど、この夢を私はきっと忘れない。彼の隣で闘う栄誉を許された、この大切な夜を。
「ありがとう、レディ。いつか貴女とも、共に闘う日が来るかもしれない……そのときは、私の一番大切な、想いあうふたりを護らせてほしい」
バーソロミュー・ロバーツ、ロイヤル・フォーチュン。あなた方は、私の一番の宝物なのだから。