浄紫SS供養◇
「そうなんですね。それなら、良ければうちで食べませんか?」
地区内だから、うちの方が近いと思うんです。ほら、もうお腹ぺこぺこでしょう?と深水は、準備を終えて立ち上がった。
「いいのかい?君たちの家だろう」
「よく伊織くんや魅上くんもご飯を食べに来るので、たくさん作るのは問題ないです」
それなら、甘えさせてもらうかな。浄は自分を待つ深水に追いつくために大股で近づいた。
◇
その日の深水家の食卓は、それはそれは豪華だった。
断る深水に半ば強引に材料費を渡した浄は、普段深水が使う格安スーパーではなく、駅前の高級スーパーに連れて行き、様々なスパイスや調味料をカゴに入れていったのだ。
「いいんですか、浄さん…?こんなにたくさんのスパイス…」
「君の手料理が食べれるだなんて、またとない機会だろう?偶には奮発させて貰えないかな」
◇
「なにか面白いことがあったのかい?」
気付くと水音は消えて、タオルを肩に掛け、ドライヤーを持った浄が出てきた。いつもハーフアップにしている髪の毛を後ろで一つ結びになっているのが新鮮だった。
「いえ、もう上がったんですね」
「烏の行水かもしれないけどね。それより、ドライヤーの場所を教えていなくて申し訳ない。これでは風邪を引いてしまうよ」
そう言って浄は、ソファの下に伸びている延長コードをひっぱり、かちりとドライヤーの電源をつけた。
やはりこんなところで使われてるドライヤーって静かなんだな。と思うまもなく横に座られた浄に深水は髪の毛を乾かされた。
「えっ、あ、浄さん。これくらい自分で乾かせます」
「髪の毛を乾かすのは得意なんだ」
それって、女の人にやってきたからかな。と深水はどきりとする。こうやって女の人を連れこんでいるのかと思うと、深水はもやもやした。
「それでも、自分でやれますから!」
タオルドライで半分以上乾いていた深水の細い髪の毛は、浄が軽くドライヤーをあてただけで、ほぼほぼ乾いていた。それでも、最後は自分で乾かしたい。半ば強引かもしれないが、深水は浄からドライヤーを取って、髪の毛を乾かしきった。
風音が消え、遠くから洗濯機の音だけがする。沈黙を破る為に深水は口を開いた。
「…いつも女の人にもそうしてるんですか?」
「そんなことはないさ。ギリギリまで寝坊して、急いでシャワーを浴びることなんてザラだからね」
見え透いた嘘はさらりと流す。深水は横に座る浄に拳一個分近づいた。
「かわいい後輩をこうやって心配させるのは、あまりいい先輩じゃないんですか?」
「深水」
「それに、食後の運動だなんて文言をそのまま受け取るほど僕も子供じゃないんです」
一応、お付き合いしてるんですよね。と深水はまた更に浄に近づく。
「何をしたいのか教えてください」
今度は浄から距離を詰めた。