マゴットセラピー・コンプレックスこんな命は、こんな最後がお似合い。
だからはやく、はやく。命を絶つ許可を。
この世でいちばん無価値な、この命を。
……もし、生まれ変われるのなら。
次はきっと、誰からも愛されるような。可憐な花にでも……なんて。
この命そのものが、価値を持たないというのに。
「ぐっ……ふ、………!」
猛烈な吐き気によって、意識が急激に覚醒する。ねむる家に来てから、最も悪い寝起きだった。
迫り上がる胃液を既のところで嚥下する。食道をビチビチと跳ね飛ぶ感触は、なんとも気持ちが悪い。
……もう、限界かもしれないの。
「マ……ママに、いわなくちゃ……なの…」
口元を抑えながら、ベッドを降りてゆっくりと立ち上がる。胃のむかつきは依然として留まる様子は無いようだった。
水でも飲んで、それから……考えよう。
トボトボと廊下を歩く。今はまだ早朝だから、ねむる家は静かだ。きっとみんな、まだ夢の中なのだろう。
椅子が全て綺麗に収められた円卓。洗った食器が重ねられているキッチン。おもちゃが箱にきちんとしまわれたプレイスペース。
昇ってきたばかりの朝日に照らされたねむる家は、普段とはまた違う雰囲気に見える。なんだか、まるで知らない場所のような。生まれたての世界のような。
こうしていると、この世界には自分しか存在していないのではないか、全てに置き去りにされたのではないかという錯覚に襲われる。
本当は、今までのことは全てが夢の中の出来事で……本当は、ビーちゃんは世界にひとりぼっちなのかな。
シンクの縁を指でつうっと撫でて歩きながら、食器棚の前に立つ。
ガラスに反射した自分の顔は、酷くやつれて見えた。
棚の中からコップをひとつ取り出して、水を注ぎ込む。透明な液体がとぷとぷ、と音を立ててガラスの内側を埋めていった。
それを一度にぐい、と飲み干す。ひやりとした感覚が喉から滑り落ち、身体の中に流れていくのを感じた。
「……ふう、」
笑えもしない。血迷った幻想だ。
「ビーちゃんのほうが、セカイにいらないの。」
廃棄が近いのは、なんとなく分かっていた。自分の身体のことは、自分が一番分かるから。
つくづく、己は失敗作なのだと思い知らされる。廃棄を待つだけの命なのだと。
……やっと、解放されるのかな。
「ビーネ。」
背後から声を掛けられ、思わずびくりと肩をすくめてしまった。すぐに振り返ると、ママが驚いたように立っていた。
入ってはいけないと、ママに何度も言われた扉の前に立つママが。
「マっ、ママ…!」
「おはよう、ビーネ。今日はとってもはやいのね?」
「えっと…!おはよう、なの!」
「えっと……」
口ごもるビーネを、ママは不思議そうな表情で見つめている。
話さなければいけないことはいざという時こんなにも躊躇してしまうのに、頭は不思議と冷静で、ママはこんなに早くから起きているんだなあとか、今日の朝ごはんはなにかなあとか。
考えなくてもいいことばかりが、頭の中に浮かんでは消えていった。
「のどが渇いて起きてしまったのね。」
「なにか飲み物でも先に作りましょうか。ビーネはなにがいいかしら?」
ママはビーネがコップを持っているのに気づいて、キッチンに近付いてくる。
「確か、人参と林檎と…ほうれん草があったはずだわ。それでスムージーにするのはどうかしら。」
依然として立ち尽くしたままのビーネには言及せず、ママは朝食の用意に取り掛かろうと冷蔵庫を開ける。
「あ……マ、ママっ!ビーちゃんも、お手伝いを……」
その様子に思わずビーネが口を開いた時。
「ゔっ……!」
口元を抑えてその場にうずくまった。喉奥を迫り上がってくる気持ち悪さに、思わず吐き出してしまいそうになる。
だけれども、ここはキッチンだ。世界中に吐瀉物をぶちまけていい場所などはあるはずもないが、キッチンだけは確実に嘔吐することが許されない場所ということは確かだった。
「ビーネ……!?」
ママがすぐにしゃがみ込み、ビーネの様子を心配そうに見つめている。ママは小さな手でビーネの背中を摩りながら、優しく、だけれどもそれでいて冷静に声を掛ける。
「ビーネ?具合が悪いの?」
ママの問いかけに、ビーネはこくこくと頷くことだけで精一杯だった。
「吐き気がつらい?」
ビーネはママの問いかけに、再度こくこくと何度も頷く。本当は声できちんと伝えたかったが、口を開こうとすると発声よりも気持ち悪さが優ってしまう。
だがそれで察したようにママは立ち上がり、先ほどのコップに水を注いでから、それとビニール袋を掴むとビーネの横に置く。
「ビーネ、つらいならこの中に出していいからね。我慢するものではないのよ。」
それだけを言うと、ママはぱたぱたとどこかへ走って行ってしまった。
ビーネはその背中を見つめると、ほんの少しだけ安堵するように肩の力を抜いた。
他人に嘔吐するシーンを見せるのも、吐瀉物を見せるのも気が引けたが、ママはそれを気遣ってかひとり残してくれたのだろう。
「おぇ……っ……」
ママが広げてくれたビニール袋に、今まで耐えていたものをぶちまける。透明なビニール袋の中には、血と、胃液と、それから。
「ビーネ…さん……?」
背後から聞こえる、ママではない声。びくりと肩を震わせることはできても、振り返ることはできなかった。
「ビーネさん、おはようございます。」
アルタイルは、ビーネの返答がないことを不思議に思い、再度声を掛ける。ビーネに近付きながら。
「ア、アルタイルちゃん…!きちゃダメ、なの……!」
なんとか口を聞けるようになったビーネが必死にアルタイルを制止するが、アルタイルはすでにビーネの隣まで来ていた。
「だいじょうぶ、ですか……?ぐあいが、わるいのですか…?」
ビーネの背中をさすろうと、アルタイルがかがみ込んだ時。ビーネの目の前に広がる惨状に、気付かずにはいられなかった。
「あ、」
「こっ、これは……」
ビーネはその視線に気付き、ビニール袋を慌てて結ぶ。けれども、透明なビニール袋では、それを隠し切ることができなかった。
「えっと……その…」
目を泳がせるビーネを、アルタイルは羽根でポンポンと撫でた後、ゆっくりとビーネを囲い込んだ。
「ビーネさん……しんぱい、しないでください」
「わたしは、だれにもいいません。それに、いきていれば、だれにだって…あることです」
「……ごめんなさい、なの…」
ふわりと羽根に包まれたビーネは、ぽつりと謝罪をこぼす。
「きたないもの、みせちゃったの…」
「きたなくなんて、ありませんよ」
アルタイルはそう言いながら、雑に結ばれたビニール袋を見つめる。赤い液体の中には、白くうねうねとしたものが何匹も。何十、いや、数百かもしれない。ともかく、その小さな幼虫のようなものが、びちびちと跳ね回りながら、ビニール袋をガサガサと鳴らしていた。
言われなくなって、これが”何”なのか分かってしまう。
これが、きっとビーネさんの”不調”なのだ。
けれど、ちっとも気付かなかった。ここにいるみんなが抱えていること、自分自身も抱えていること。それは十分に分かっている。
ビーネさんはいつも元気で、明るくて。微塵も、こんなことは悟らせなかった。きっとずっと、ひとりっきりで抱えていたのだろう。
……それは、きっとみんながそうなのだろうけれども。
「……アルタイルちゃん、」
「なんでしょう、ビーネさん」
しばらく沈黙していたビーネに、今までは聞いたことがないほど小さな声で呼ばれる。アルタイルは極めて優しく、悲しみを滲ませず。明るく返答する。
「……気をつかわせちゃって、ごめんなの」
ビーネさんの声は小さくて、震えていて。なんだか、いつもよりも小さく、ずっと幼いように見えた。
「わたしなら、だいじょうぶです。ビーネさんがおちついたのなら、とてもうれしいです」
アルタイルは羽根を畳んで、ビーネの顔を見つめた。ビーネはそれに気付くと、ふいっと顔を背けた。
「あっ……いま、きっとヒドイ顔、してるの…!」
「だから、見ないほうがいいの……」
確かに、今日のビーネさんは、髪は下ろしたままだし、顔もなんだかやつれている。
でもそれは、ビーネさんの価値を落とす減点対象にはならない。
「ビーネさんは、きょうもかわいくてすてきです!」
アルタイルはビーネを見つめたまま、微笑みを浮かべる。
顔は少し強張ってしまったけれど、ビーネさんを安心させたかった。いつものビーネさんに、わたしのお姉さんのようなビーネさんに、はやく戻って欲しかった。
そして、きょうはわたしのかみのけに、お花をかざってもらうのですから。それで、おそとをさんぽしたいです。
そうだ、それから、きょうはひさしぶりに、”おそらをとぶ会”もひらきましょう。
ビーネさんのはねにはったらピッタリそうな、薄いかみ、みつけたんです。
「……、」
話したいことはたくさんあるし、今日やりたいこともたくさん思いついた。それなのに、その先が言葉になることはなかった。
ただ、口をはくはくと小さく動かすことしかできず、がんばって作った笑顔はきっとすぐに崩れてしまっただろう。目はその一点だけを見つめていた。
「……あ、……………」
ビーネの腕には、先程見た吐瀉物の中に蠢いていたような虫が這っていた。
ビーネの腕の肉壁を、円形に抉りながら。
「……っ、アルタイル…!見てはだめ!」
荷物を床に乱雑に置いてから、ママがアルタイルをビーネから遠ざける。
救急箱や氷枕、薬の入ったケースなど、たくさんの荷物を抱えたママが戻ってきた時に最初に見たものは、硬直したビーネとアルタイルだった。
……悪い予感がしたのだ。
ビーネから背を向けるようにアルタイルを引き離し、ビーネに振り返る。
それから、ビニール袋。……そして、ビーネの視線の先。
「……、アルタイル、少しだけ部屋に戻っていて、ね?」
その言葉にアルタイルは初めて視線を動かして、ママを縋るように見つめた。
「ママ…ビーネさんは、」
「ビーネさんは、だいじょうぶ……ですよね?」
アルタイルの問いにママは返答せず、静かにアルタイルの頭を二回撫でるだけだった。
それにアルタイルは俯いて、そうしてふよふよとキッチンから出ていく。
アルタイルが見えなくなるまで見送った後、ママはビーネの近くへしゃがみ込んだ。
「ビーネ、」
「マ、ママ……」
ママが近付いてくることにビーネはびくりと肩をすくめて、後退りしようとする。
「ビーネ、大丈夫よ。」
「苦しかったわね。」
ママはビーネに触れずに、優しく声を掛けた。本当は抱きしめてあげようと思ったのだけれど、きっとビーネは嫌がるかもしれないから。
「ママ、これ……」
「……そうね、」
ふたりが多くの言葉を交わすことはなかったけれど、ビーネが言いたいことは聞かなくても分かったし、どちらにしてもここに置いておくわけにはいかなかった。
「ビーネ、立てるかしら。」
ビーネは差し出されたママの手を少しだけ見つめたあと、こくりと頷いてから立ち上がる。
「えらいわ。さあ、行きましょう。」
ママはビーネに微笑みを見せてから、持ってきた荷物を再び拾い上げる。そうしてビーネの手を引いて、静かに歩き出した。
「ママ、ここって……」
ママに引かれるまま歩いていたビーネは、思わず焦って立ち止まってしまった。
だってここは、入ってはいけないとずっとずっと言いつけられていた扉の前。
「いいのよ。……最後は、ここなの。」
ママは宥めるようにしながら、再び歩を進める。ビーネもそれに続いて、扉をくぐった。
扉をくぐった後は、廊下だった。
窓はどこにもないのに奇妙に明るく、ねむる家の内装とは違ってコンクリートを打ちっぱなしにしたような、無機質な空間だった。
廊下を歩いている間、ビーネは先のママの言葉を反芻していた。
最後。
最後だって。
長かった。
ずっとずっと、待っていたの。
この時を。
ビーネは自身の腕に空いた空洞を見つめながら、口角が吊り上がるのを耐えきれずにいた。
だって、だってね。
ビーちゃんははやくこうして欲しかったの。
「……ビーネ」
「どうしたの、ママ?」
「今からビーネがどうなるか、分かる?」
ママは言葉を選ぶようにしながら、振り返らずに問いかける。
「……だいじょうぶなの。」
「ビーちゃん、ずっとずっと、こうなりたかったから。」
「……そう、」
「ママは、」
「ママは、とても悲しいわ。」
ママはビーちゃんの言葉を聞いて、繋いだ手にきゅっと力が籠った。
……言葉にも気持ちにも、何も嘘はない。
ビーちゃんははやく死にたいと思うし、ビーちゃんはいらない子だ。
だけれど、ここに来て、みんなと話して、暮らしてみて。ビーちゃんの気持ちは、誰もが抱く感情ではないことを知った。
それならどうか、みんなには少しでも長く生きてほしい。
どうか、みんなには自分の人生を悲観しないでほしい。
ビーちゃんがこんな時に考えることではないし、ビーちゃん如きが願えるお願いでもないのは分かっているけれど。
だから、ビーちゃんが最初で良かった。
こんなに大好きになってしまったみんなの中の、だれかの廃棄を見届けることは。きっと悲しすぎて、ビーちゃんには耐えられないから。
「苦しいのに歩かせてしまってごめんね。」
着いたからね、そう言ってママはビーちゃんから手を離すと、突き当たりのドアのノブを回して開いた。
「おじゃまします…な、の……」
なんだか緊張してしまって、ぺこりとお辞儀をしてから扉を潜る。そうして見上げて。
「こ、れって……」
思わず目を見開いて硬直してしまう。
これ、って。こんなことって。
ママは想定内だとでも言うようにビーネを見てくすりと笑ってから、なんだか書類や機械が並ぶ一角へ向かっていった。
「はじめてここに入る子は、みんなびっくりしてしまうのよ。」
「でも大丈夫。怖いことは何もないわ。」
ママがバインダーに何かを書き込みながら続ける。
「ビーネ、最後の問診をさせて頂戴ね。」
そう言うと、ママは簡素なテーブルと椅子の置かれた場所を指差してからビーネの手を取る。
ビーネはそのままママに従った。いつも座る椅子よりも、大きくて、硬くて、冷たい椅子だった。
向かいになるように座ったママは、ビーネの顔写真が貼られたカルテのような何かに書き込みを加えながら質問をする。
「ビーネ、今の身体の調子はどう?」
ママの問いかけに、ビーネは一瞬俯いて腕を抑えてから口を開く。
「うでが、とってもいたいの。」
「穴があいたところはずっと、刺されたみたいにいたいの。でもほかのところも、ひふの中がモゾモゾして、なにか……いる、みたいなの。」
「……吐き気は?もうないかしら?」
「ずっときもちわるい感じは、するの……でも、さっき…吐いちゃったから、いまはだいじょうぶなの。」
「……分かったわ、ありがとう。」
ママはそう答えると、険しい表情でバインダーを閉じて机に置いた。
「ここまで、良くがんばったわね。」
ママは少し声が震えていて、瞳は潤んでいた。ママは今までいくつもこうして来ただろうに、ビーちゃんにまで同情してしまうなんて、感受性が豊かなのだな。
そんなことを考えながら、ぼうっとママを見つめていた。
「……これにサインをすると、ビーネとは今日でお別れになるわ。」
ママは再びバインダーを開いてから、1枚の紙を目の前に差し出した。
「ママ、これは…?」
「……許諾書よ。」
思わず聞いてしまったけれど、キョダクショとは何のことだかさっぱり分からなかった。そのまま紙に目を落とすと、それには”投薬許諾書”と書かれていた。
「この右下にサインをしてくれるかしら。……できれば、正式な名前だと助かるわ。」
どちらでも良いけれどね、ママはそう付け加えてからペンを手渡す。それを受け取ってから、キョダクショの内容には目を通さずにペンを走らせた。
「……フルネームで書くのは、ひさしぶりなの。」
「とても素敵な字ね。ありがとう、それじゃあ。」
ママはペンと用紙を受け取るとバインダーに挟み込み、続けて卓上に何かを差し出す。
「これを。」
「……キャンディ?」
ママが机に置いたのは、一粒のキャンディだった。ビーネはそれを見つめて首を傾げる。
「ええ、そうよ。」
「これは、食べると楽になれるキャンディ。」
ビーネはママの説明にふんふんと頷きながら、そのキャンディを手に取って包み紙を開く。
「これをたべたら、ビーちゃんはおわれるの…?」
「……そうね。」
「わかったの!」
ビーネはママの回答ににこりと微笑んで、キャンディをからりと口に放り込む。
「いままで、おせわになりました、なの!」
ビーネが立ち上がってぺこりとお辞儀をする。ママはそれを見ると、瞳を潤ませて微笑んだ。
「ママの子どもになってくれて、とてもうれしかったわ。」
ママの言葉に目を閉じる。
そうして現れるのは、安寧。
……などではなく。
「ごふっ……」
「え?」
現れたのは、痛みだった。
先程までとは比にならないほどに、喉奥から迫り上がる気持ち悪さに耐えることができない。
膝から崩れ落ちて、その場にびちゃりとぶちまけた。赤の中で跳ね飛ぶ蛆が一匹、床についた手の甲によじ登る。
そうして自分の腕に視線を移してみた。
「……あっ、」
ビーネの腕には無数の穴が空いている。腕の表皮を食い破って、蛆が這い回っていた。身体中がじくじくと痛むのに、眼前の光景に理解が追いつかずに唖然とすることしかできない。
「いっ……た……」
なにこれ。
なにこれ?
ビーちゃんの身体の中から出てきちゃう!
「マ、マ……」
見上げたママは、先ほどと変わらずに優しげな瞳でビーネを見つめ続けていた。
……ああ。
ビーちゃんは失敗作だから。
廃棄物に安楽死を望む権利なんてなかったんだ。
これが廃棄物の末路。
死が。”廃棄”が。なぜ安心できると思ったのだろう。
「がっ……ふ、ぅ……っ」
絶えず口からは血が漏れ出し続けるし、身体中の表皮がもぞもぞとして。じくりと痛みは増していくばかりだ。
手足が痺れて、指先から感覚がなくなっていく。神経が急激に冷えていくような。さっきまでははっきりと見えていたママの顔も、もう白く霞んで見えなくなってしまった。
願ったものは焦がれれば焦がれるほど、叶った時落胆してしまうのはどうしてだろうか。
でも、でも。
きっと、この世の痛みのどれよりも。
優しい気がした。
ママ、今からビーちゃんもいくね。
「……ママ、おやすみなの。」
そうしてビーネは、小さな有象無象の命を育てて上げ、役目を終えた。
「…おやすみ、ビーネ。」
ママは、ビーネの最後の息の音が聞こえなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。
——— 起動、確認。
「廃棄対象児童No.███、ビーネ・ヴェルメ。」
「ダストドロップによる処分を完了しました。」
「廃棄対象児童の残数は5名です。」
——— 記録、終了。