すぐちゃんの恋 幼児期編 すぐちゃんはマンションの隣に住む女の子。
お母さんが言うには、すぐちゃんは春から通う附属幼稚園に行くためにこの町に引っ越してきたんだって。「春っていつ?」って母さんに聞いたら桜が咲く頃だよ、と教えてくれた。今はまだ咲いてない、マンションの近くの公園に桜が咲いていて、桜の下でお弁当を食べるのが俺の楽しみだから俺は春を知っているんだ、すごいでしょ。
すぐちゃんはマンションの隣に住む女の子。
家族三人で引越しの挨拶にやってきた夏油さんと言う家の女の子、元気で気さくにあいさつをしてくれた、ちょっと照れくさくて母さんの後ろに隠れちゃった俺にも、俺の目を見つめて、やさしく声をかけてくれた女の子。
「げとうすぐるです、春から幼稚園生になるの」
笑顔がかわいくて肩まで伸びた黒色の髪の毛がきらきらしていて生まれて初めて母さん以外の女の子をかわいいと思った。恥ずかしかったけど、きちんと挨拶できた。
「ごじょうさとるです」
一言だったけど、すぐちゃんの真似をして、黄金色に輝くすぐちゃんの目を見つめて挨拶ができた。そしたらすぐちゃんがね「さとるくんの目うんと綺麗だねラムネの瓶にはいったビー玉みたい」そう言ったんだ、何だかわからないけどすごく恥ずかしくなってまた母さんの後ろに隠れちゃったけどとっても、とーっても胸がドキドキしたんだ。
すぐちゃんはマンションの隣に住む女の子。
「ねぇ、母さん俺も春からすぐちゃんと同じ幼稚園に行けるの?」
そう聞くと母さんは困ったわねぇ、とほっぺたに手を当てて首を傾けた。何だか様子がおかしいぞ?と感じたのだが、それは当たっていた。
「すぐちゃんは桜が一回咲いたら幼稚園に行くけどね、悟は二回咲かないと幼稚園には行けないの」
衝撃的な一言だった。なんで?どうして?何で一緒じゃないの?俺もすぐちゃんと同じ幼稚園に行きたい!と母さんにお願いをしたら今度は顎に指を添えてた、俺は知っているんだ、これは母さんが考える時にするポーズって事を。
「すぐちゃんと同じ幼稚園に行きたいなら受験をしないといけないの、お勉強よ?出来る?」
俺はもちろん!と答えた。すぐちゃんと同じ幼稚園に行けるなら頑張れる気がした。
すぐちゃんはマンションの隣に住む女の子。
この前すぐちゃんを誘ってマンションの近くの公園に行ったら蕾が咲いていたんだ、だから得意げにすぐちゃんに「もうすぐ桜が咲くね!桜が咲いたら春になるんだよ!」と教えてあげたら「さとるくんはロマンチックだね」って言われちゃったんだ。ロマンチックって何だろう?あとでこっそり母さんに聞いてみよう。すぐちゃんは年上の女の子だから俺より色々な事を知っている。
すぐちゃんはマンションの隣に住む女の子。
すぐちゃんが隣に引っ越してきてから父さんが仕事で居ない日のお昼寝までの時間はすぐちゃんと遊ぶようになった。母さんにそんなに毎日遊びに行ったら迷惑だから辞めなさいと言われたけれど、何だかんだ母さんとすぐちゃんのお母さんは気が合うらしく、二人で良くおしゃべりをしている。「ほんと夏油さんには悟がお世話になっちゃって、すぐちゃんに懐いてくれて良かったわ、このマンション子育て世帯が多いでしょう?なのに公園に行っても誰とも遊ぶ気配もなくて困っていたのよ」「あらそうなの?そんな風には見えないけど?引っ越して来てからまだ友だちも居なかったから毎日傑と遊んでくれて助かるわ」などと会話をしていた。すぐちゃんに出会うまでは誰と遊んでも楽しいと思わなかっただけだし!みんな子どもっぽいし、すぐちゃんは年上だけど、えらぶらないし、優しいし、お日様みたいにあったかいんだ。だから、一緒にいたいんだもん。
すぐちゃんはマンションの隣に住む女の子。
それから俺の大好きな女の子!絶対に結婚する!すぐちゃんに出会うまで母さんと結婚する!って思ってたけど母さんより、すぐちゃんと結婚したい!そう思った。
桜が咲いた。すぐちゃんが幼稚園に通いだした、すぐちゃんの入園式の日は母さんに、わがままを言ってすぐちゃんと幼稚園まで一緒にお散歩に行った、さみしくて着いて行ったわけじゃない。断じて違う。いつもより、おめかしをしているすぐちゃんはとてもかわいかった。他の女の子より身長が大きくてスラリとしている、良いな俺も早く大きくなりたい。すぐちゃんに追いつきたい!
すぐちゃんが毎日遊んでくれなくなった。俺にはすぐちゃんだけなのに、すぐちゃんは幼稚園で作った友だちとも遊んでいるみたい。すぐちゃんに会えない日は退屈だ。俺も早く幼稚園に行きたい。
同じ幼稚園に行きたいと言ったばかりに月に何度か知らない場所に連れて行かれ知らないおばさんに色々な問題を出されたり質問をされたりなかなかめんどくさい。
「悟くんは発達が早くて、とても賢い子ですね」
おばさんがそう言った。
「ちょっと他の子よりおませさんだなとは思ってたんですけど…あと協調性がない所も受験をするとなると心配で」
母さんは話を始めると長いから帰るのが遅くなる。どうでもいいので早く帰りたい、すぐちゃんの気配がしないここは、ひどくつまらない、すぐちゃんと同じ幼稚園に行くには退屈な事を沢山しないといけなかった。
「では合否の結果は後日、当園のホームページに掲載しますので」
あっという間に幼稚園受験の日がやって来て、あの時のおばさんがしていたような質問をされたり他の子どもと遊んでいる所をジロジロ見られながら過ごしたり偉そうなおっさんと話したり受験ってやっぱり退屈な事だった。
「受からなくても気にする事ないわ、同じ幼稚園に行けなくてもすぐちゃんはいつも隣にいるんだから」
母さんは帰り道、俺にそう言った、優しく手を繋ぎながら今夜の夕飯は何にしようかと続けた。
母さんが携帯電話を見つめながらガッツポーズをしている、どうしたのだろう?
「悟おめでとう、春からすぐちゃんと同じ幼稚園に行けるわよ」
毛が逆立つのを感じた、喜びが最大限に膨れ上がった、桜が咲いたらすぐちゃんと同じ幼稚園に行ける。今すぐ伝えに行かなくちゃ!今すぐ会いに行かなくちゃ。はやる気持ちを抑えきれなくて家を飛び出して隣のすぐちゃんの家のインターフォンを押した。「はーい」と言う、すぐちゃんのお母さんの声がした「さとるでーす!すぐちゃん居ますかー!」ちょっと待っててねと言ってしばらくしたら玄関のドアが開いてすぐちゃんが出てきた。思わずすぐちゃんの両手を掴んで言葉を発する。
「春からすぐちゃんと同じ幼稚園に通うんだ!」
「おめでとう、さとるくん」
ニコニコ笑うすぐちゃんが可愛くてたまらなくなって抱きしめる。
「ありがとうすぐちゃん!一緒に幼稚園行こうね」
「うん、一緒に行こう」
すぐちゃんは俺の頭をぽんぽんと撫でてくれた、うれしい。
そのあと母さんがやってきて、すぐちゃんのお母さんといつものように長話をはじめた、コレは長くなるなと思い、すぐちゃんを俺の部屋に連れて行き海の生き物図鑑を一緒に見て過ごした。そろそろ夕飯の時間という頃に母さんは帰宅して来てすぐ近くだけど、家はマンションの隣だけど、すぐちゃんをしっかりと家の前まで見送って、またねと手を振った。ガチャリと扉が閉まるその瞬間が寂しくて嫌いだ。すぐちゃんが見えなくなる、行かないで。ずっと一緒にいたいのに。
家に戻ると母さんが嬉しい報告をしてくれた。
「悟、今度の土曜日すぐちゃんのお家と一緒に悟のお祝いしようってなってね何がしたい?」
「えっ!本当に?すぐちゃんお祝いしてくれるの?」
「うん、そうよ」
うれしい!うれしい!さっきまでの寂しい気持ちはどこかに飛んで行った、今は次の土曜日が待ち遠しい。
「あのね!朝起きて夜寝るまでずーーーっとすぐちゃんと一緒に過ごしたい!すぐちゃんと居られたらなんでも楽しい!」
「ほんと悟はすぐちゃんが大好きね」
「うん!大好き」
それから俺はすぐちゃんのこんな所が好きだとか、こんな所が可愛いとか一方的に母さんに喋った。
「ほんと、すぐちゃんの話になった途端に饒舌になるんだから」
母さんは優しい目をして微笑んで、俺の頭を撫でてくれた。
ピンポーンと玄関のチャイムの音がした。
「あっ!すぐちゃんだ!」
今日は楽しみにしていたお祝いの日、バタバタとダイニングから短い廊下を走り抜け玄関へと向かう、鍵を開けて満面の笑顔で「いらっしゃい」と歓迎をする。
「さとるくんおはよう、今日は朝ごはんに呼んでくれてありがとう」
「すぐちゃんが来てくれてうれしい」
「私もさとるくんと会えてうれしいよ」
さぁ、入ってとすぐちゃんの手を取って家の中へ促す。
「待って靴を脱ぐから」
離したくないけど手を繋いだままだと靴を脱げないからしゃーなしに、一度手を離す。すぐちゃんは靴を脱いできんちと靴を整えてから立ち上がりまた俺の手を取ってくれた。リビングの扉を開くと味噌汁のいい匂いがしたと同時ににすぐちゃんを歓迎する父さんの声がした。
「すぐちゃん、いらっしゃい悟がわがまま言ってごめんね」
「とんでもございません、本日はお招きいただきありがとうございます」
「すぐちゃん随分と難しい言葉を知っているんだね」
「お母さんと練習しました」
ちょっと恥ずかしそうな顔をしたすぐちゃんもかわいい。
両手を合わせて皆んなで頂きますと言って食卓を囲む。目玉焼きとウインナー味噌汁にサラダいつもの朝ご飯なのにすぐちゃんが居るだけで特別に感じる。
「すぐちゃん目玉焼きには何をかける?」
「塩コショウです父と母が塩コショウなので」
「すぐちゃん!ケチャップがおいしいよ!」
「さとるくんはケチャップをかけるの?」
「うん、甘くておいしいよ」
すぐちゃんは塩コショウ派、また新しいすぐちゃんを知ることができた、それがすごくうれしくて朝からニコニコしてしまう。じゃあ私もケチャップにすると、すぐちゃんは言い俺とお揃いのケチャップを付けた目玉焼きが横に並ぶ。
「さとるくんのお家のケチャップ甘くておしいしね」
器用に箸を使って目玉焼きを食べるすぐちゃんを見つめていた、すぐちゃんの口の中に赤が乗る、真っ赤な赤色のケチャップ。あぁ、俺もケチャップになってすぐちゃんの口の中に入りたい、そう思ったけれど、これは言わない方がいい気がしたから自分の中にだけに留めておいた。口端にちょっぴり付いたケチャップ、唇に伸ばしたら真っ赤な唇になるのだろうか、プルンとしたピンク色の唇じゃなくてツヤッとした真っ赤な唇を想像した。
「さとるーすぐちゃんばっかり見てないで早く食べちゃいなさい家出るの遅くなるわよ」
母さんの声で我に返る、幼稚園に行く前に箸を持てるようにと練習をした、まだ完璧ではない箸で目玉焼きをかじる、すぐちゃんと同じ真っ赤なケチャップをいつもより多く付けて食べた。甘くて少し酸っぱいケチャップが口の中を満たした。
俺が行きたい場所でリクエストしたのは水族館だった、この前すぐちゃんと海の生き物図鑑を見た時に煌びやかな魚や大きな哺乳類の写真を見てすぐちゃんが見てみたいとと言っていたのを覚えていたから。
父さんがレンタカーを借りてくれた後部座席にチャイルドシートが二台並べてられる大きな車、せっかくすぐちゃんが隣に居るのにチャイルドシートの隔たりが物理的な距離を感じさせる。
「すぐちゃん手つなごう」
すぐちゃんは笑顔で良いよって言う。手を繋ぎながら何の魚が見たいとかイルカのショーは絶対に観ようねとか夜は花火が上がるんだよって話をしていたらあっという間に目的地に着いた。
館内に入ると青い青い照明と大きな水槽、すぐちゃんが観たいと言っていた煌びやかな魚たちが迎えてくれた。青や黄色、赤、白、黒、すぐちゃんは「うわぁー」と声を上げながら夢中になって水槽を見上げている、魚を見るすぐちゃんの目はキラキラと輝いていて、とても綺麗だ、ここに居るどんな魚より綺麗だと思う。
「さとるくん、すごくきれいだね、誘ってくれてありがとう」
「すぐちゃんと観たかったんだ」
「私もさとるくんと観れてうれしい」
水族館を進むと大きなシロイルカのモニュメントが置いてあって、そこで写真が撮れた。家族三人で、とすぐちゃんが遠慮をしたので今日の思い出にすぐちゃんが居ないのはおかしいと主張をして四人で撮ってもらった。もちろんすぐちゃんと二人でも写真を撮った、父さんにお願いをしてすぐちゃんと二人分フォトスタンドに入れてもらって購入した。自分の部屋に飾ろう。すぐちゃんとの思い出が増えるたびに心が満たされた。
迫力のイルカのショー、スイスイと泳ぐシロイルカ、ダンスをしているセイウチ、途中でお昼ご飯を食べてまだ観ていない水槽をみて、ふわふわ漂うくらげに何とも言えないゾクゾクした気持ちになった、けどすぐちゃんは綺麗だねって言ったから、きっと綺麗なんだと思う。何だか暗い照明とふわふわ漂うくらげを観ていたら少し眠くなってきた。すぐちゃんはアーチ型の水槽で泳ぐイルカを気に入ったみたいで、しばらくぼーっと眺めていた。
「気持ちよさそうだね」
「うん」
「水の中なのに空を飛んでるみたい」
チューブ型の水槽がそう見せるのか器用に泳ぐイルカがそう見せるのかは分からなかったけど、水槽で泳ぐイルカは窮屈さも感じさせないほどに自由に見えた。
「さとるくん?眠いの?」
「眠くない…」
「さとるくんは嘘が下手だね」
目をこすりながら言っても説得力がなかったのかすぐちゃんは微笑んで父さんを呼んだ。
「悟、帰ろうか?」
「やだぁ、夜のイルカショーも、花火も観て帰るー」
「さとるくん、また今度一緒に行こうね、大きくなってお昼寝しなくても大丈夫になったら」
「すぐちゃん…やくそくだよ…?」
「うん、絶対にまた来ようね」
すぐちゃんに指切りをねだって、父さんに抱っこをされながら意識を飛ばした。次に目が覚めたのは車の中ですぐ隣にすぐちゃんが居るかを確認して安心した。
「すぐちゃん…」
「悟?起きたの?すぐちゃん寝てるから静かにね」
今日は朝からすぐちゃんと一緒にいられて、うれしくていつもより沢山はしゃいだせいで疲れて眠ってしまったらしい。でもそれはすぐちゃんも一緒だったみたい。
帰宅したら、すぐちゃんのお家でお祝いパーティーをしてもらった、食卓には沢山の料理が並んでいたし見たことのない瓶に入ったリンゴジュースもあった。大人四人がダイニングテーブルに座り俺とすぐちゃんはダイニングテーブルのすぐ横に置いた小さな座卓に座った。
車の中で寝たおかげで復活した、もりもり食べてすぐちゃんのお父さんが悟くん泊まっていくかい?と聞いてくれた突然の申し出に両親は遠慮したが明日も休みだし気にしなくていいよと笑ってくれたから、なんと!すぐちゃんのお家にお泊まりをすることになった。寝るまで一緒ではなくて起きても一緒になった事実にひどく喜んだ。母さんがお風呂に入りに一回家に帰りましょうと言ったが家に帰ってしまったら、お泊まりがなくなってしまうんじゃないかと不安になり嫌だと言ったら、すぐちゃんのお父さんがすぐちゃんと三人でお風呂に入ろうと言ってくれた。祝賀会はお開きになり母さんは片付けを手伝って父さんはその間に俺の着替えとタオルと歯ブラシを持ってもう一度やってきた。
「じゃあ、迷惑をかけないようにな」
「はーい!」
「悟、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
すぐちゃんのお家のお風呂には沢山のおもちゃが置いてあって、ごっこ遊びをしたりして気がついたらだいぶ長い時間湯船に浸かっていたようだった。
「悟くんアイス食べる?」
「食べる!」
お風呂上がり、すぐちゃんのお母さんが冷凍庫から取り出した、温まった身体に冷たいアイスが口内に広がった、高揚した気持ちを鎮めるように優しくとけていく。あぁ、もう少しで今日が終わってしまうんだ、指先がチリチリした気がしてすぐちゃんの手を握る。すぐちゃんは俺を拒絶しない、手を握ると必ず握り返してくれる。
「そうだ、さとるくんに渡したい物があったの、ちょっと待ってて」
繋がれたてはすぐに離れてしまった、戻って来たすぐちゃんはお揃いのイルカのキーチェーンの付いたマスコットを二体取り出した。
「一体はさとるくんにあげる、おそろいだよ」
「えっ、うれしい!絶対に大切にする!」
俺が寝てしまった後に父さんにお願いをしてお土産屋さんに連れて行って貰って買ったらしい、合格祝いとフォトフレームのお礼だと言う。
すぐちゃんのベッドの横に布団を引いてもらいその日は一緒に眠った、いつも母さんか父さんが一緒に寝てくれるんだけど今日は居ないから眠れるか心配だったけど、すぐちゃんと会話をしていたらいつの間にか眠くなっていて気がついた時には朝になっていて、ベッドを見るとすぐちゃんがまだ眠っていた、無防備な寝顔、これは絶対に秘密にしたい、誰にも見せたくない俺だけのすぐちゃんだ。寝ているすぐちゃんの頬っぺたに触れる、すべすべで柔らかい幼少期特有のほっぺたがすごくかわいい。
秋が終わり冬が終わりを迎え、ついに桜が咲いた、園に背負って行くリュックにすぐちゃんに貰ったイルカのマスコットキーホルダーを付けた、よし!完璧。俺は知っていた、すぐちゃんも園のリュックにイルカを付けていることに。
この春から晴れて俺は幼稚園児となったのだが思ってたのと違う園生活だった。だってすぐちゃんとずっと一緒にいられると思ったんだよ?なのに登園とたまに降園は一緒だけど、同じ敷地内なのに全くすぐちゃんに出会わないのだ、想定外すぎる、たまに園ですれ違うとうれしくて名前を呼んであいさつをする、その隣にいつも一緒に居るのがしょうこと言う友だちだった、俺のすぐちゃんなのに!すぐちゃんの隣は俺のなのに!ずるい!羨ましい!
彼女がしょうこと言う名前なのは、ななみから聞いた。ななみは幼稚園でできた友人である。あと一人、はいばらと言う園児とも仲良くなった、ななみとはいばらがもともと仲が良かったのだ。歌の時間、外で遊ぶ時間、お弁当の時間どれも楽しかったけど、そこにすぐちゃんはいない。毎日が同じようにすぎる中、運動会はとても楽しかったし、すぐちゃんが走っている姿を見て応援したり音楽に合わせて踊っている姿を見てとても満足した気持ちになった。
楽しみにしていたお遊戯会はお歌を披露した。たくさん練習した。すぐちゃんのために歌った、すきだから きみがすきだから ともだちさ いつも いつまでも。すぐちゃんは劇をした三匹のこぶたの三番目のこぶた役、一人ではない四人いるのだ、もちろん狼だって五人いた。頭に手作りの豚のお面を付けている、すぐちゃんは恥ずかしがり屋な女の子の手を握り一緒にセリフを喋っている、大丈夫だよって言ってるみたいだった。誰にでも手を伸ばすのか。なんだかもやっとした。
幼稚園生活の一年は思ったりより長く、それほど退屈もしなくて、充実していた。すぐちゃん以外の友だちと遊んだりしながら時間は過ぎて行った。
桜の花が咲いて桜の花が散って逝く、ひらひらひらひら風に乗って飛んでいった。
すぐちゃんは年長さんになって俺は年中さんになった、どうしても追いつけない追いつきたいのに、置いていかないで欲しいのに、どうしていつも先に行っちゃうの?先に行っちゃ嫌なのに。
すぐちゃんの卒園式、俺はたくさん泣いた、誰よりも泣いた、真っ赤に目を充血させ周りの目なんて気にならないくらい泣いた。せっかく同じ幼稚園に行けたのに、またすぐちゃんが離れてしまう、どうやったら追いつけるの?教えて欲しい。
すぐちゃんの事ばかりを考えて過ごした俺の幼少期はこれで終わったのだ。