「愛しています」キッチンでお湯を沸かすと、何も音のしない氷織くんの部屋の扉の横でひとり座った。
僕たちの出会いは、ブルーロックの二次選考だった。ゲームをやっている氷織くんとは話が合って仲良くなり、その後のU-20戦や新英雄大戦などを経て、僕は氷織くんが好きになってしまった。
ブルーロック内で告白してしまっては振られてしまったときにどう対応すればいいかわからなくなってしまう。だから僕はブルーロック卒業の時に氷織くんに告白した。幸い、答えはOK。ただ、僕はイタリアに氷織くんはドイツに行ってしまったため、あまり会う機会がなかった。
しかし1年前、氷織くんはいろんなストライカーを自らの手でプロデュースしたい、という理由で僕のチームに入ってきた。その頃だろうか、氷織くんは僕に家族のことや自分の過去などをポロポロとこぼしてきたのは。何か言ってしまったら傷つけてしまうかもしれない、そう考えてしまい、苦しみを隠した笑顔を見つけてもなお何も言うことができなかった。
お湯が沸いたことに気がつくと、立ち上がってキッチンへ向かった。すると、部屋から泣いているような弱い声が聞こえてきた。
―――あぁ、そうか、忘れていたんだ。
僕は確かに氷織くんのことを傷つけたくなかった。けれども、何もしないよりかは何か行動を起こさなければ、彼に寄り添ってあげられないということを。
何をするべきか明確になっていたわけではないけれど、気づいたら僕は壁一枚の距離にいる氷織くんに電話をかけていた。
「急にどしたん?」
いつも通り
を繕っていることがわかる辛さを隠した声で聞いてくる。その声に苦しくなり
「お湯沸いたのでお茶飲みませんか?お菓子もありますし」
と聞く。それに対して戸惑った声で、
「ありがとなぁ、でも今お腹すいてへんから。ええかな」
と返ってくる。
やはり、苦しそう。
何かできないかな、と咄嗟に
「白湯ならどうですか?体、いいえ、心もあったまりますから!」
なんだかよくわからないことを言ってしまった。恥ずかしい。
「ふふっ。ほな、行こかな。ちょっと待っといて」
どうやら納得してくれた、らしい。
してしまったことはもう取り戻せない。今の自分にできることをしないといけないと思い、棚から色違いのマグカップを出し、お湯を注いだ。
カタカタと部屋から音がすると思うと、扉から氷織くんが出てきた。
「ほんま、急にどしたん?話でもあるん?」
何と返すのが正解なのか、わからない。でも、ここは自分の素直な気持ちを伝えるのがいいのだろう。
「無理、しないでくださいね。」
「へ?どういうこと?」
「僕は氷織くんのこと恋人であり家族だと思ってます。家族だから全部話せ、とか言うつもりはありませんが、辛くなったら頼ってくれてもいいんですよ。」
少し気まずくてマグカップの方に向けていた目線を氷織くんの方に移すと、大粒の涙を静かにこぼしていた。
やはり
これはダメな言葉だったのか。少し他人事でものを考えてしまうほど、僕はもう、精一杯だった。
「な、なぁ。僕が何言っても受け止めてくれるん?」
辛そうな、でも、さっきよりも少し明るさを持ったような表情でそう尋ねてくる。
「もちろんです」
そう答えると、少し微笑んで触角を揺らしている。
その愛おしい人の横顔に、一言、
『 ______ 』