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    ヲしお

    @310osio
    メモとかプロット、デジタル(ペンタブ&クリスタ)自主練とか。
    ※一次&二次創作、今は二次創作が多いです。

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    ヲしお

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    #ひらいて赤ブー 添付用
    銃独オンリー、参加したいです。

    23時45分。

     華やかな色彩から一転、リビングのテレビ画面はライトアップされた寺院を映し出した。
     画面越しに除夜の鐘が響く。
     その音を合図にしたように、伊弉冉一二三はソファーから腰を上げた。
    「センセェー、お茶でも飲みます?」
    「そうだね、頂こうかな。こんなに美味しい年越しそばを食べたのは初めてだよ。ありがとう、一二三くん」
     神宮寺寂雷は「ご馳走さま」と一二三に微笑んだ。
     テーブルからスマホを取り画面を見るが、そこにはただ現在時刻が映し出されるだけだった。
    「なぁ、どっぽちんは?」
    「…………」
    「どっぽぉー? お茶いらねーの?」
    「えっ!」
     物思いにふけていた観音坂独歩は、一二三の呼びかけに、あやうくスマホを取り落としそうになった。
    「お、お茶? いっ いる!」
    「りょ!」
     一二三は敬礼するような仕草をすると、そのままキッチンへ行ってしまった。
     日勤で終わりだという寂雷を誘い、一二三も今年の年末は珍しく休みで、3人で夕食を取ったところだ。
    (入間さんは、今夜は夜勤だって言ってたしな……)
     独歩も立ち上がり、リビングを離れた。
     廊下はひんやりとしていて、独歩は肩を竦ませる。部屋の中だってこれだけ寒いのだ。こんな深夜の野外なんて、どれだけ寒いんだろうか。
     電気が消えたままの自室の椅子へ座って、独歩は再びスマホ画面を見る。変わらず時計だけが表示されていた。
    『年末に駆り出されるのは、毎年じゃないですけどね。まぁ独り身なので。』
     入間銃兎がそう言ったのは、12月上旬に食事をしたときのことだ。クリスマスイブも翌日は仕事だった、だから会っていない。
     机の端へ追いやっていた封筒へ手を延ばす。食事をしたときに入間から手渡されたものだった。傾けるとそれはチャリっ……と金属音がした。
     メッセージアプリでやり取りはしているが、着信時間を気にして返事をつい送りそびれてしまっていた。互いに仕事が忙しいのはあいかわらずで、最近は入間からの返信の速度も緩やかだ。
    ―― 来年は一緒に過ごしましょうね、クリスマス ――
     既読をつけたまま、1週間もあいてしまった。せめて、このメッセージには今年のうちに返信しなければ……!
     スマホに指を触れさせたまま、独歩は画面と睨めっこ状態だ。
    (クリスマスどころか今年も終わるっていうのに、なんて書けばいいんだ……。よいお年を? あと10分もないのに?)
     指を引っ込ませては伸ばすを何度も繰り返していると、入力エリアが消え、画面が切り替わった。
    「わっ!」
     リズミカルに端末が振動する。
     着信画面には『入間さん』と表示されていた。
     とっさに画面をスライドさせ耳へ当てると、『こんばんは、観音坂さん』と心地のよい声が響いた。
    「い、い、いるまさっ……!」
     電話口の入間は『今、休憩中なんです』と言って笑った。
    「入間さん、あの……! こんな年末までお仕事お疲れさまです!」
    『ありがとうございます、これは公務なので。観音坂さんこそ、ちゃんと休めました?』
    「年内に片付けたい仕事はなんとか終わったので、もう今夜は寝るだけです」
    (俺のバカ……!! いま言いたいのは、それじゃない!)
     封筒を握り締めて、独歩は天を仰ぐ。ぐしゃっとなった紙の下には手に納まるサイズの金属の感触がして、その金属の冷たさに独歩は身震いした。
     リビングへ続く廊下のほうから「どっぽー、お茶~~」と自分を呼ぶ声がした。
     ダメだ、一二三が来る前に言わなければ。
     独歩は大きく息を吸った。
    「あの…………! か、鍵、ありがとうございました。本当は今夜、入間さんの家へ行きたかったんですけど!」
     夜勤明けの入間さんを、出迎えたかったんです! と、独歩は一気にまくし立てた。
     ――間。
     スマホのスピーカー越し、ヨコハマのどこかであろう喧騒は聞こえてくる。回線が切れたわけではないのに、入間からの返答はない。
    (え……なんで入間さん黙ってるんだ? 鍵を渡されたってことは、そういう……あれっ?)
     自分は何か壮大な勘違いをしているんだろうか。独歩が不安になっていると、大きな溜め息が聞こえてきた。
    『――来なくて良かったです。あとその鍵、返してもらえますか?』
    「えっ!?!」
     思わず大きな声を出してしまった。はっとして独歩はとっさに振り返るが、一二三がこの部屋へ来る様子はなかった。
    『ああ、すみません。実は……先ほど酔っ払った左馬刻から電話がありまして、理鶯とふたりで私の家へ上がり込んでいるようなのです。』
     もう何度も勝手に自宅へ入られているので、もっと強固な形式の鍵に替えようと思いまして。
    「え、あ……?」
    『ちゃんと喋ってもらえません? 今年最後に聞いたあなたの声がそれって、私、寂しいんですけど。ねぇ?』
    「あっ はい! その、じゃあ……来年のクリスマスは……俺も、入間さんと一緒に過ごしたい、です……」
    『ふふ、そうですね。でもその前に――』
     入間の声に重なるように、リビングからの楽しそうな音楽が聞こえてくるのと、スピーカー越しにけたたましい爆竹の音がするのは同時だった。
    『明後日には、ちゃんと会えるでしょう? 出迎えはまた今度してください。』
    「! はい!」
     あけましておめでとうございます、ふたり同時に同じ言葉を吐く。
     仕事へ戻ると言う入間が先に電話を切った。画面の光量が落ち、独歩の部屋は再び薄暗くなった。
     ぐしゃぐしゃになってしまった封筒の皺を伸ばしながら、独歩は口元を弛ませた。今度はその封筒を丁寧に机の中央へ置き、椅子から立ち上がる。
     リビングにいるふたりにも、同じ言葉を言わなくては。
     もう一度封筒をひと撫でして、独歩は部屋をあとにした。
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    ヲしお

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    銃独オンリー、参加したいです。
    23時45分。

     華やかな色彩から一転、リビングのテレビ画面はライトアップされた寺院を映し出した。
     画面越しに除夜の鐘が響く。
     その音を合図にしたように、伊弉冉一二三はソファーから腰を上げた。
    「センセェー、お茶でも飲みます?」
    「そうだね、頂こうかな。こんなに美味しい年越しそばを食べたのは初めてだよ。ありがとう、一二三くん」
     神宮寺寂雷は「ご馳走さま」と一二三に微笑んだ。
     テーブルからスマホを取り画面を見るが、そこにはただ現在時刻が映し出されるだけだった。
    「なぁ、どっぽちんは?」
    「…………」
    「どっぽぉー? お茶いらねーの?」
    「えっ!」
     物思いにふけていた観音坂独歩は、一二三の呼びかけに、あやうくスマホを取り落としそうになった。
    「お、お茶? いっ いる!」
    「りょ!」
     一二三は敬礼するような仕草をすると、そのままキッチンへ行ってしまった。
     日勤で終わりだという寂雷を誘い、一二三も今年の年末は珍しく休みで、3人で夕食を取ったところだ。
    (入間さんは、今夜は夜勤だって言ってたしな……)
     独歩も立ち上がり、リビングを離れた。
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