握られた八木の拳がグイッとこちらに向けられる。
「手出せって。」
状況が飲み込めずしばらくキョトンとしていたが、言われた通り素直に八木の方に片手を差し出した。
(何だろう。)
小さくて軽い。手のひらに触れた部分が少しヒンヤリとする。
置かれた八木の手がそっと離れた瞬間、ドクンと心臓が波打った。
驚きと嬉しさで言葉が上手く出てこない。
「こっ、これって…」
「うちの鍵。最近遅くなるとき多いし、待たせてるのも悪いから。キャンパスもこっちからの方が近いだろ。」
(合鍵もらっちゃった…)
手のひらにちょこんと乗った何も付いていない銀色の鍵に目が釘漬けになる。
子供の頃、夏になると友達と一緒に海辺で綺麗な石を探すのに夢中になった。
時間が立つのも忘れる程、やっとの思いで見つけたキラキラ光る自分だけの宝物をまずは大事に手のひらに乗せて眺める。
太陽にかざすとさらに輝きを増していく瞬間を見るのが大好きだった。
押し寄せる懐かしさとあの時の幸福感にも似た感情に、隣にいる八木にまで聴こえそうなくらい心臓がまだドキドキと大きな音をたてている。
あまりに言葉を発さないので少し心配になったのか、八木がこちらを見ながら矢継ぎ早に話続ける。
「これからはお前の来たいときに来て待っててくれていいから。」
新学期から大学のキャンパスが変わり、一人暮らしの自分の家よりも八木の家からの通う方がうんと近くなった。
自然と八木の家で過ごす時間も増えたが、平日仕事で八木の帰宅が遅くなる時はバイトがなければ近くのファストフード店で課題をやりながら時間を潰したりした。
「家の中のものも勝手に使っていいし、置いときたいものあれば置いとけよ。あと絶対なくすなよ。」
リビングの蛍光灯にゆっくりと鍵をかざす。
今までに見つけたあの時のどんな宝物よりも、もっとキラキラ光って見えた。