第1回 ロイエドブートキャンプサインしている紙を一枚抜き取って隠したのに、気づいたら自分で紙のありかを見つけ出してまたもくもくとサインを続けた。お咎めはない。
ならば、と何度もペンの先が行き来する瓶の蓋を閉めた。一度ペンを置いて開けられるだけだった。やっぱりお咎めはない。
ワックスも何もついていない柔らかな髪を撫でても目の前で手を振っても、こっちなんて見もしない。
いつもねちねちと嫌味を言ってくる口は閉じられたまま。
真っ黒な瞳が熱心に見つめるのはつまらない用紙。
オレの胸倉を掴んで強引に前を向かせてくれ、時には焔を生み出す手は机上と大佐の頬に。
部屋にはカリカリとペンが走る音と、鳴り響く時計の秒針。
つまらない。
顔を見せに来いというからわざわざ来たのに。
見せたら見ない、なんてとんだ天邪鬼ではないか。
いっそのこと耳元で大声でも出してやろうか、これで反応がなかったら帰ってやるとい意気込んで真横に立てばふいに顔があげられ目が合った。
望んでいたはずなのに無言で、無表情で、ただじっと見つめられると戸惑う。
いくら呼ばれたからとはいえ、仕事中にちょっかいをかけるのはやりすぎたのだろうか
その顔は何を思っている?呆れ?怒り?それとも本当になんとも思っていない?
沈黙がつらくて何か声を発しようにも、いままでこんな顔は向けられたことがないから動揺してしまい声が出ない。
じっと見つめていると、わずかに口角が上げからかうような声で呟かれた。
「なんだ、いたずらはもうおしまいなのか?」
「なっ……だってあんたなんも反応しねぇから……」
「だって反応してしまったら君からのちょっかいが終わってしまうじゃないか。子猫がじゃれついてくるようで可愛かったのに」
だっれが生まれたてのネコと見間違うほどのチビか!!!!!!!
当初の目論見どおり、エドワードはロイの耳元でそう大声をあげた。
相手の鼓膜を破ろうとする勢いで。
でもロイからしたらやはり可愛いことだったようで、幸せそうな笑みを浮かべたのであった。