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    do__kkoisho

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    do__kkoisho

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    漂+黒要(学パロのおまけ)

    改札に定期をかざして駅のホームに向かう。いつもの車両に乗る列を目指して歩く。あと5分で電車がやってくる。ちょうどだな、とふと笑いが出た。
    さて、彼はいるのだろうか。前に少し失礼なことをしてしまったから改めて謝りたいが、いつも参考書を読み込んでいるから話しかけにくい。温和な雰囲気な人だから話し掛けたらそれはそれで相手をしてくれそうだけど、勉強の邪魔をする程かと言われたら……というやつだ。
    イヤホンを外してケースに戻す。
    彼と話す機会があれば、と思って最近電車で音楽を聴いていない。
    ふわぁ、と欠伸が漏れた。昨日遅くまでアールトとゲームをしたからだ。いや、ゲームというかボイスチャットを繋げてゲームをしていたら、いつの間にかゲームそっちのけで彼との一悶着を喋らされた。学校一の噂屋に話したことは少し後悔したが、今日報酬として昼ごはんを奢ってもらったから良しとする。
    そういえば洗いざらい喋ったら「あー」とか「えーっと」とか何か煮え切らない反応だったな。あれは何だったんだろう。
    まあ話してしまったものは仕方ない。
    今日は早めに寝よう。2日連続寝不足だと秧秧たちに心配される。
    ポケットに入れていたスマホが震えた。確認してみると、妹から夕飯に使う卵がないと連絡が来ていた。帰りにスーパーに寄らないと。遠回りになるんだけどな。
    わかった、と短く返事をしていたら、ホームに電車の到着を知らせるアナウンスが流れた。スマホをポケットにしまって大人しく待つ。しばらくすると前髪をぐしゃぐしゃにする風と共に電車が来た。目にかかるそれを手で払って開く前のドアの向こうを見る。
    いた。
    相変わらず難しそうな参考書を読んでいる。俺だったら漫画とか読むのにな。
    相変わらずすごい、と心の中で拍手をして電車に乗り込む。
    ドアが開く音に気づいたのか、参考書から顔を上げた彼と目が合った。挨拶代わりに軽く手を上げると、彼は人の良さそうな柔らかい笑顔で小さく手を振ってくれた。
    …………?
    なんだろう、この違和感。
    いつもの場所に行って、ほんの少しだけ体を彼の方に向ける。
    何かが引っかかる。見た目はいつもの彼なのにさっきの笑顔がいつもと違う気がする。明確な根拠は無いし、ただの勘でしかないけれど、朝に見た笑顔とは少し違って見える。
    朝見たのは、人の良さそうな優しげな笑顔なのは同じだけど、もっと雰囲気が柔らかくて自然と彼を好意的に感じるような、でもどこか芯が掴めないというか見えにくいような不思議な雰囲気をまとっている、気がする。あと笑顔になる時、もっと目元が下がって嬉しそうな顔をしてくれる。
    けれど、今ドアの反対側にいる彼からは同じものを感じない。
    どちらかというと、壁があるというか、芯が掴めないというより、掴ませないという距離を感じる。
    でも、見た目は朝見た通り。
    シワひとつ無いシャツ。チリひとつ付いてないブレザー。柔らかい色素の薄い髪。キーホルダーも何も付いていない制定バッグ。
    何だろう。何が違うんだ?
    じろじろ見るのは失礼だから視線をドアの外の風景に写す。でも気になるからドアに反射して映る彼を注視してしまう。
    何が違うのか……。
    はじめて感じる居心地の悪さに眉根が寄ってしまう。ドアに映る彼はいつも通り参考書を読み込んでいた。
    釈然としない気持ちのまま電車は最寄り駅に到着する。俺も彼も同じように電車を下りる。
    いつもならこのまま改札を出てお互いの家に向かうけど。
    「こんにちは」
    彼が話しかけてきた。
    やっぱり違う。
    なんだろう。彼から話しかけてきたことが今までない。全く知らない仲じゃないし、不自然な訳でもないけど、イメージとしてこうやって突然話しかけてくるような人ではなさそう。
    目の前の人は誰だ?と返事も出来ずに頭をフル回転させる。
    「……あ、弟?」
    「バレた?すごいね。要も人を見る目はあるみたい」
    彼によく似た目の前の人は俺の言葉で笑顔の種類を一変させた。優しそうな笑顔から少し意地悪な、からかうような笑顔になった。
    「変装、上手くいったと思ったんだけど」
    「なんというか、雰囲気が違った」
    「へえ……?」
    口角を上げた彼はネクタイを緩めてボタンをひとつ開けた。見た目はあの人なのに動作が予想もつかないものばかりで混乱する。きっと彼は家に着いて着替えるまでネクタイを緩めることはなさそう。
    「久しぶりにネクタイをつけたよ。苦しいね、これ。着替えてくるから待っててほしいな」
    「いいけど……」
    「ありがとう、すぐ戻るよ」
    そういった彼は駅のトイレに向かっていった。することもないからトイレの近くのベンチに座る。
    何が起こってるんだ?
    多分、今ここにいる彼は電車のあの人の双子の弟なんだろう。否定しなかったし。
    ちょっとわがままな双子の弟がいるのはこの前本人から聞いていた。
    そこまでは納得できる。
    会いに来た目的は何だろう。多分、兄から何か聞いたんだろうけど。何を話したんだろうか。
    あ……頭撫でる変なやつがいたとかそういうのだろうか。だとしたら制裁される……?
    もしそうだとしたら何も文句が言えない。甘んじて受け入れて謝罪あるのみだ。
    何を言われても良いように覚悟を決めた。元々ちゃんと謝りたかったし、弟から謝罪の意思はあると伝えてもらおう。
    1人で勝手な結論を作り上げていると「お待たせ」と聞いたことある声が頭上から落ちてきた。
    見上げると、黒と金のパーカーの上からブレザーを羽織って、彼とは違った黒い髪を風に揺らしていた見たことない人がいた。
    「兄がお世話になっています」
    「わざわざ変装を……?」
    「そうだよ。騙せたらそれで、と思ったけど気付かれたからね。わざわざウィッグと兄のシャツで変装したけど、いつもの僕はこっち」
    よく見たら目の色も違う。カラコンまで用意する徹底ぶりだったとは。
    制定バッグの肩紐は1本肩から落としているし、ポケットに手は突っ込んでる。絶対彼がしない行動をこの目の前の弟はやっている。
    「さて、気付かれたのならからかった謝罪をしないとね。良かったらそこの店で話さない?僕が奢るよ」
    「それはどうも……」
    声も口調もほとんど同じなのに全然違う。
    でもさっきに比べたら見た目にも違いがあるから感じる違和感は少ない。
    先を歩く彼について行って改札を出る。駅のバスロータリー沿いにあるファストフード店に入る。軽快なBGMと同じように学校帰りの学生の喧騒が出迎えてくれた。
    「何が欲しい?注文は僕がしておくよ。その代わりだけど、席の確保をお願いできるかな」
    「わかった。えぇと、じゃあチョコレートパイとコーラを」
    「それだけで足りるのかい?実は少食?」
    「照り焼きバーガーセットをお願いします。飲み物はコーラで」
    「わかったよ。すぐ持っていくね」
    ニコ、と笑った表情はやっぱり似ている。
    なんか変な感じだ。別人だと頭では理解しているのに、双子だから所々同じに見えて混乱する。
    店内を見渡すと幸運にも2人席が1つだけ空いていた。少し早歩きで向かって座る。
    スマホを取りだして妹に謝罪を表すスタンプだけ送っておいた。
    ……怒られる訳ではなさそう。
    いや、同じ学校に通う双子の弟なわけだし、きっと俺よりもずっと賢いのだろう。だから、俺の予想を超えるようなことは簡単に出来るのかもしれない。
    やっぱり怒られるのだろうか。
    意図が読めない。あ、ここも彼との違いかな。片手で数えるくらいしか話したことは無いけど、彼と話している時はこうやって頭を捻ったことはない。反応はすごく素直で、こちらの言葉も真っ直ぐ受けとってくれる。
    そういえばわがままというのと、性格が違うというのも言っていた。確かに全然違う。
    見た目に惑わされるが、きちんと全くの別人だと割り切って話さないといけない。
    うんうん、と一人頷いていたら彼がトレーを持って目の前に座ろうとしていた。
    「どうぞ。あ、チーズバーガーとジンジャーエールは僕のだから」
    テーブルに置かれたトレーには2人分のバーガーセットが乗せられていた。自分が食べる方をお互いに手前に寄せる。
    「いただきます」
    「遠慮なく食べてね」
    さっきの笑顔とは違うな。言葉こそ優しいけど面白がってるというか。
    だいぶと癖のある人なのかもしれない、とバーガーの包み紙を剥がして頬張った。
    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「……何?」
    彼は飲み物にも手をつけずにバーガーを食べる俺を見ていた。その目に温かさは一切なく、冷静に無感情に何かを見定めるような、語弊を恐れずに表現するなら、監視カメラのような目だった。
    「……いや、ごめんね。兄から聞いていた通りだと思って」
    「どんな話をしていたんだ?」
    「そこは秘密。僕としては話したいけど、兄弟仲は円滑の方が良いからね。変に恨まれたくないんだ」
    随分と他人事というか。変わった人だな。
    ようやく弟くんも包み紙を剥がしてバーガーを食べ始めた。あの人がこういうファストフードを食べている姿は想像できないけど、目の前の彼がバーガーを食べてジンジャーエールを飲む姿はしっくり来る。
    「さて、本題だけど」
    バーガーを半分ほど食べた彼はそれを置き、今度はポテトを食べ始めた。
    「兄とはどういった関係なのか教えてほしい」
    「どうも何も……」
    何回か話して、目が合ったら挨拶する程度だけど。
    それをそのまま素直に伝えると彼は「ふぅん?」と相槌を打って椅子に深く座り直した。
    「本当にそれだけ?」
    鋭い目が俺を射抜く。あの人からは感じたことの無い威圧感が咀嚼すら止める。
    真実を見定めようとする……いや、見抜いて全てを暴こうとするような、機械的な視線が真っ直ぐ俺の目を見る。
    背筋が震える。空調が聞いているはずなのに寒気がする。
    つっかえる喉を無理矢理開いて先日の暴挙を口に出す。
    「……あなたのお兄さんの頭を、撫でました」
    そう白状すると彼は数秒黙って。
    「ふ……ふふ、ふ……!」
    人間味のない表情から一転、口元を覆って笑い始めた。
    「だからか!ああ、納得いったよ。だいたい2週間前くらいじゃないかな?」
    「そうです……」
    「あはは!君は面白いね」
    ツボに入ったのか今度はお腹を抱えて笑い出してしまった。どうしたらいいか分からずコーラも飲めずに彼の様子を見守った。
    ひとしきり笑った彼は涙を指で拭い、口角に笑みを隠さず俺の目を見た。
    「初めて兄に嫉妬したよ。君みたいな人に先に目をつけるなんてね」
    「どういうことだ……?」
    「言葉通りだよ。でも、横取りは趣味じゃない」
    何故か嬉しそうに、少しだけ彼に似た笑顔でバーガーを頬張った。
    掴みどころがない。いや、掴める場所がない変な人だ。
    彼の視線が柔らかくなってようやく体が動くようになった。俺も食べかけのバーガーを口に運ぶ。
    「どんなものが好きなのかな?例えば趣味とか」
    「普通だ。ゲームとか漫画とか」
    「なるほど……ちなみに僕達の趣味は勉強だよ」
    「え……すごいな……」
    「分かりやすく引かないでほしいな。うちは両親が研究者でね、そういう教育が当たり前だったんだ」
    「英才教育?」
    「言うなればそうだね」
    バーガーを食べ終わった弟くんは丁寧に包み紙を折りたたんだ。手のひらサイズにまで折ったと思ったら肘をついてポテトを食べ始めた。マナーがいいのか悪いのかわからない。
    「そうだ、一番言わなきゃいけないことがあるんだった」
    ジンジャーエールを飲んだ彼は、あの人がしなさそうな悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
    「兄は君に頭を撫でられたのは怒っていなかったよ」
    「本当?」
    「本当。その代わりすごく照れていたけど」
    まあそれはそうだろう。あの時も夜道でもわかるくらい顔が真っ赤になっていたし。この歳になると頭を撫でられて褒められるなんてもう経験しなくなる。
    だが、彼が嫌な気持ちになっていなくて良かった。2週間ずっとつっかえていたものがすとんと落ちてほっとする。
    目の前の弟くんは俺のその様子を頬杖を着いて楽しそうに眺めていた。どうやらポテトも食べ終わったらしい。一方で彼の会話に振り回されていた俺はようやくバーガーを食べ終えたところだった。
    「食べ終わったし、話したいことも話せたし、僕はそろそろ帰ろうかな」
    ジンジャーエールを飲み干してそう言った。
    最後まで彼の真意がわからなかった。おそらく彼も意図して自分の気持ちを見せないようにしていたのだろうけど。
    随分と一方的な会話だったなと思ったが特にそこは伝えず、ご馳走になったことにお礼を伝えた。
    「最後に、1つお願いがあるんだけど聞いてくれるかな」
    今日見た中で一番嬉しそうな笑顔で告げられる。
    1時間もあるかどうかの会話だったが、感情を見せない彼からのお願いと言われると身構えてしまう。
    「内容による」
    「そう警戒しないでほしいな。君にとっても良い結果をもたらすものだよ」
    少しだけあの人に似た笑顔を見せた。
    「今日、21時くらいに駅に行ってほしいんだ。コンビニに行くとか、そういうのでいいから」
    「何か買ってほしい……?」
    「そういうのじゃないよ。君が21時に駅に行くだけで良い結果は約束されている。僕に結果が返ってくるとしたらその30分後かな」
    「……?よくわからないけどわかった」
    コーラを飲んで頷く。それを見た彼は静かに目を伏せた。自分の感情を笑みと無表情で覆い隠していた彼が初めて俺に感情を露わにしたように見えた。
    「これでも僕と違う人生を歩もうとする兄を応援しているんだよ」
    「……」
    「宝の持ち腐れだとずっと思っているけどね」
    ゆっくり目を開けた彼の視線はどこか遠いところを見ていた。
    「さて、今度こそ帰るよ。君はゆっくり食べていてね」
    「何から何まで急だ」
    「僕も本意じゃないよ。でも、長く君と話したと兄にバレるのは避けたくてね」
    乱雑にバッグを持ち直した彼は俺を見下ろして、あの人がしなさそうな笑顔で「またそのうち」と言って手を振って去っていった。
    彼が店を出るまでその背中を見る。俺から離れたらすぐイヤホンを装着してポケットに手を突っ込んで歩いていた。
    本当に性格が違った。
    双子でもこんなに違うことがあるんだろうか。
    彼のようにふわふわした、人を優しい気持ちにさせる暖かな雰囲気は一切感じなかった。
    今日の21時か。悪いお願いではなかったし、きっとあの人に関することなのだろう。それくらいは俺にでもわかる。
    そういえば、本物のあの人はどうしたんだろう。
    妹からの怒りの通知で震えるスマホを見て曜日を確認する。
    ああ、塾の日だ。21時と言ったらこの前駅で偶然会った時間だ。
    なるほど、そういうことか。
    そういうことなら喜んで向かおう。ちゃんと仲良くなりたいし、それよりもお互いのことを知らなさすぎる。
    まずは連絡先の交換かな。
    早く寝るつもりだったけど楽しい予定が出来上がった。
    そうと決まれば、だ。
    完食し、ゴミの片付けとトレーの返却をして店を出る。妹には悪いけど今日はこのまま帰らせてもらおう。急いで宿題や家のことを終わらせて彼の帰りを駅で待つとしよう。
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