箱待公園の首吊り死体(1) 箱待公園の銀杏の木の下には死体がぶら下がっている。
よくある光景だ。この街では特に。
駅前に建ち並ぶ、取り壊し前の廃テナントにでも足を向ければ、森に潜む甲虫を見つけるぐらいの感覚で見つけられるだろうそれ。
よくある光景なのだ。この世界では特に。
その言葉の前に、「午前四時から午前五時の間だけ」という制限時間がつかなければ、だが。
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「カブトムシってそんなに見つけられますかね?」
「そこなのか」
蝉の声が煩い、よく晴れた七月の昼だった。
思わず口から溢れた素朴な疑問が、随分と的外れな響きを持ってしまったことに遅れて気付き、真名鶴は恥じて口を閉ざす。
日の高い内から、こうして荒夜髭神社に集うのは珍しい事だった。常ならば現地集合現地解散が殆どだったが、この日は狙う獲物の都合で、少しばかり長めに事前の支度が必要だった。
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