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    hasami_J

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    BJR二次創作。続きものなので1はリンク先をどうぞ。
    盤外視座より黒不浄、火霞羅州、真名鶴の話。
    これで終わりです。終われたー。

    #BJRportfolioDay さんのお題より「箱持公園」「命短きもの」を使用。

    箱持公園の首吊り死体(3) 桜の下には死体が埋まっている。
     都市伝説として、数多の小説の題材として、多く用いられてきたこの一節は、元を辿れば明治から昭和にかけて活躍した文豪・梶井基次郎の短編小説である。この小説が文学史に残した影響は大きく、以後、桜を表す題材の一つとして、死体は度々物語や噂話の中で桜に添えられてきた。
     ……いや、それより以前から、人は桜の美しさの中に、死と衰退を垣間見ていたのは確かか。少なくとも、その下で死ぬことを選んだ歌人がその一人であったことは、疑いようがない。
     実際は、桜は桜だし、死体は死体だ。紫陽花ではないのだから、桜の根の下に死体が埋まっていようといなかろうと、花の色に変化は生じない。そんなものだ。結局のところ、連想を共有し得る文化的教養の問題であろうと、黒不浄は思っている。
     では、銀杏はどうだろう?
     無いわけではない。人の想像力は無限と言っていい。だが、少なくとも──桜よりも、連想をもたらす力は乏しいはずだ。
     何故銀杏なのか?
     箱持公園の噂を聞いた時、黒不浄が真っ先に抱いた疑問はそれだった。
     それが興味の発端であったことは、否定できない。



     何のかんのと文句をつけながら、結局、羅州は帰らなかった。見ていくだけだと吐き捨てながら、不機嫌そうに後ろをついてくる男は、つまるところ妹弟子のことが気に掛かるのだろう。それが後進に対する心配なのか、己にない未来を持つ者への嫉妬なのかは定かではないが、真名鶴に一番甘いのは彼であろうと、黒不浄は傍目に思っている。
     スマートフォンが機械的に示す地図に従って人気のない夜道を進めば、やがて箱持公園が見えてくる。明滅する電灯に照らされた公園は、夜はカップルのたまり場やマフィアの取引場として有名だが、その日は怪しげな闇取引を行う者も、茂みの中から漏れる艶かしい声もなく、ひっそりと静まりかえっていた。街娼の姿もないのは、時刻的な問題か、はたまた噂の影響か。
    「誰もいませんね」
    「居られたらそれはそれで困るがな」
    「出歯亀にならずに済んだと思っておこう。お、時間だ」
     公園の中央に建つ古びた時計塔は、今まさに秒針が十二の文字へと至らんとしていた。公園の周囲には、園内をぐるりと囲うように銀杏の樹が並んでいる。夏も盛りである今は、皆、青々とした緑色の葉を茂らせていた。
     時計塔の秒針が動く。
     あと十秒。
     どれが問題の銀杏なのか。
     五秒。
     それらしいものは見えない。
     三。
     少なくとも。
     二。
     今は。
     一。

    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「……何も起きませんね」
    「マジか?」
     黒不浄はもう一度時計塔を見た。秒針は十二を回り三の文字へと差し掛かっている。懐からスマートフォンを取り出して電源を灯せば、デジタル時計の中には確かに「4:00」の表示がある。
     しかし園内は変わらずひっそりと静まり返り、ぐるりと周りを覆う銀杏にも変化はない。もちろん、死体など、どこにもぶら下がってはいない。
    「ガセかあ」
     あり得ないことではなかったが、いざ肩透かしをくらうとがっかりとした。想定していなかった訳ではないが、期待と好奇心が裏切られれば、落胆を感じもする。まして一人で足を運んだのではなく、それらしい噂話を二人へ振り撒いた身であれば尚更だ。
    「そんなこともありますよ」
     苦笑いと同情を帯びた真名鶴の労りが有り難くも照れ臭い。礼と謝罪のどちらを口にするべきかを考えた黒不浄の思考は、
    「おい」
     後方からもたらされた不機嫌な野太い声に遮られた。

    「お前たち、本気でそう『見える』のか?」

     反射的に、真名鶴の首根を掴んで後方へと大きく飛び退いた。首でも締まったか、若い女の悲鳴と呻きが腕の中から上がったが、怪我は無いようなので問題ないだろう。
     公園は変わらずひっそりと在る。少なくとも自分にはそう見える。
     前に立つ形となった羅州の背へ問う。
    「何がある?」
    「……修行不足だバカタレどもが」
     苛立たしげに吐き捨てながら(しかし声に一抹の優越感が滲んでいたのを黒不浄は聞き逃さなかった)、羅州は公園へと指を差す。示される先にあるのはやはり、銀杏の樹だ。
     側では真名鶴が目を白黒させながら咳込んでいる。
    「そこと、その奥。それから時計塔の裏の一本。垂れているのはそれだけだ、だが樹の上にはまだいるぞ」
    「死体が?」
    「いや、あれは──…おい黒不浄。貴様、例の噂、最初にどこで聞いた」
    「なに?」
     羅州の唐突な問いに黒不浄は困惑したが、すぐに思考を切り替え、自分の記憶を探る。人間性はさておき、この男が火霞の集大成として、最高傑作といえる能力を有していることは疑いようもない。
     インターネット上の怪奇話の一つとして──三原山高校の学生たちの噂話の中に──銀座商店街の店主たちの世間話──いいや、それらはどれも、最初に話を聞いてから、興味を持って調べた中で得た情報だ。それよりも前、一番最初に耳にしたのは、そう、あれは……。
     ──そういえば、守屋先生。こんな話をご存知ですか。
    「確か、打ち合わせ中の編集から」
    「当ててやろう。その打ち合わせ、獄門街の、箱持公園が見える店かどこかでやっただろう」
     記憶の輪郭を辿る。確かあれは春先で、水晶の塔の二階にあるファミレス。窓の外には街路樹として植えられた桜が咲いていて、その先に──。
    「……あー、もしかして、誘われてたのか? うわ、マジか。恥っず」
    「修行不足だバカタレが!」
    「あ、あの!」
     ようやく呼吸が整った真名鶴が掠れた声を上げて尋ねた。
    「結局、何が見えるんです!?」
     黒不浄と羅州は顔を見合わせた。
     盛大な溜息をこぼしながらも、羅州が解説を始めたので、黒不浄はやはりこいつは妹弟子に甘いと思った。



     釣瓶落としという妖怪がいる。
     木の上から通行人目掛けて釣瓶を落とし、人を脅かし、時に喰らう。生首が落ちてくる、と語られることもある。
     妖怪を題材とした物語群の中でも、たびたび登場する、知名度の高い妖怪と言える。
     だが、この釣瓶落とし、語られる地方に応じて形を変える。
     東海・近畿地方では釣瓶や生首として語れる。だが場所を変えれば、釣瓶火とも呼ばれ、木からぶら下がる妖火とされ、それらと類似した妖怪譚は名を変えながら、全国各地で語られる。
     それらが全て釣瓶落としなのか。
     たまたま、似たような妖怪が複数居ただけなのか。
     それとも──樹の上にいる『何か』に、人がめいめい、好き勝手な名前を与えただけなのか。

     四時から五時。
     虎三つから虎四つ。
     夏の明け方。
     彼は誰刻。

     何でもいいのだ。
     誰でもいいのだ。

     『箱持公園の銀杏の樹には、死体がぶら下がっている。』
     少なくとも、どこかの誰かは、『それ』を『そう』語った。
     それだけの話。



    「だからさあ」
     S県安達ヶ原市。通称、獄門街。
     街唯一の寺社たる荒夜髭神社にて、能面同士の押し問答が響く。
     周囲はいつも通り、とっぷりと夜の闇に沈んでいる。
    「俺が聞いた時は首吊り死体だったんだよ。だから、そういうもんなんだなーって思ったんだって。だって獄門街だぞ? 違和感ないだろ。首吊り死体ぐらい、野生の甲虫ぐらいの間隔でその辺にあるし」
    「ええい、言い訳は聞かん。情けないとは思わんのか、盤外に名を連ねる者がみすみす誘いに乗せられ、あまつさえ現場に居てなお看破できんなどと!」
    「お前だって行くまでは気付いてなかったじゃないか。それにあのあと近づいてみたら俺も真名鶴もちゃんと気付いただろ」
    「俺が居なければ貴様ら二人揃って首を吊られていたと言っているのだ」
    「それは流石に自意識過剰じゃないか?」
    「表に出ろ貴様ァ!」
     悪びれない調子の黒不浄の言葉に、怒気を帯びた羅州の言葉が噛み付く。その言葉を聞きながら、真名鶴は身を縮こませながら思案していた。今回ばかりは、どちらに肩入れをするのも憚られた。黒不浄が自分の肩を持ってくれていることは分かるし、最終的な解決に、結局羅州の手を借りたことも確かだ。
     辟易とするが、奇妙な居心地の良さがある。能面を被り、ここにいる時は、いつもそうだった。その感覚に、真名鶴は未だ、名前をつけられずにいる。
    「で」
     ぎゃあぎゃあと交わされる二人の口論の間で、半笑いの男の声が真名鶴の耳に届く。真名鶴は慌てて居住まいを正して声の主を見た。言い争う二人にはその声は届かなかったと見えて、彼らはまだ口論を続けていた。
     今日の新聞を手にした首座・鐘馗が肩をすくめた。
     新聞の一面には、明け方に箱持公園で起きた火災騒ぎの報道が載っている。
    「とりあえず箱持公園の銀杏の樹を全部燃やしてきたと」
    「ええ、まあ、それが一番手っ取り早いということになりまして……」

    ──手招きをしている。
     見えたものを尋ねた真名鶴に、羅州はそれしか言わなかった。だから真名鶴は、あの銀杏の樹に何がいたのか、結局全貌は分からないままだった。
     樹の上にいるのが結局『何』であったとしても。
     樹の下にあるのが結局『何』であったとしても。
     それは結局、樹があるから成立するのだということになり。
     なので、全部燃やすことにしたのであった。
     火災に強いはずの銀杏の樹は、しかし火霞の集大成とも呼ばれた男の放つ炎にはひとたまりもなく。夜明けと共に突如として上がった業火は近隣住民と消防を大いに騒がせて。日の出後もしばらく続いた消化活動虚しく、箱持公園の銀杏の樹は一本残らず消失した。
     巻き込まれたカップルが、ホームレスが、悪党が、本当に居なかったのかは──はてさて。
     けれど大して噂になることもないだろう。
     よくある光景だ。この街では特に。
     夜中に上がる原因不明の不審火も、それに巻き込まれて振り回される人々も、結局その答えがどこにもないことも。
     よくある光景なのだ。この世界では特に。

    「お前らにやる気があって嬉しいよ、ホント」
     鐘馗はそう言うと、先日の仕事分の報酬を投げ渡した。
     いつもより多めに入っていた気がするのは、真名鶴の気のせいだったかもしれない。

    【箱持公園の首吊り死体 了】
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    タイトル通りの自PCの小話。

    ■ローンシャーク
     超人的な瞬間記憶能力と再現能力を持つ傭兵。瞬間記憶によって再現した武装と、トレースした他人の技を使って戦う。能力の代償に日々記憶を失い続けている男。
     金にがめつく、プライベートでの女遊びが激しい。
     セカンド・カラミティ以後はヒーローサイドの仕事を請け負うことも多い。曰く、多額の借金ができたからだとか。
    『ローンシャークの隣で女が死んでる話(2)』 例えば。
     切符を買おうとして、券売機の前で手が止まったとき。
     そうして考える。──『今、俺はどの券を買おうとしていたんだ?』
     東へ行くのか? それとも北? リニアに乗りたかったのか、それともメトロ? 疑問はやがてより根本的なものになっていく。つまるところ──ここはどこだ?──俺はどこから来た?──俺は誰だ?──そういう風に。
     振り返っても何もなく、前を見ても行く先は見えない。雑踏の中で立ち止まって泣き喚いたところで意味はないので、ただメモを開く。考えがあってのものではない。ただ手にした銃の銃口を自分に向けることのないように、空腹の満たし方を忘れないように、体に染みついたルーティンに従うだけ。
     メモの中には、今までのセーブデータがある。それをロードし、新しいセーブデータを残していく。その繰り返しで、ローンシャーク──あるいはシャイロック・キーン──少なくともそう名乗る誰か──は出来ている。
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