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    yu__2020

    物書き。パラレル物。
    B級映画と軽い海外ドラマな雰囲気になったらいいな

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    yu__2020

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    吸血鬼イドとアズのイドアズパラレル。
    美味しい血を持つアズを巡る吸血鬼達の攻防とそこに復讐やらなにやらでいずれは潰してやろうとするアズと付き従う事になる双子の少年期の話。ダイジェスト版

    ##吸血鬼イドアズ

    セラータとアルバ追憶

     
     真っ暗闇の中、彼はガタガタと震えていた。膝を寄せて小さくなって息を殺し、戸板一枚向こうで繰り広げられる蛮行を、ただ終わるのを待っていた。喋るな見つかるなと口に押し込められた父のハンカチを噛みしめながら、涙がこぼれるのを止められない。
     生臭くて吐き気が出そうなむせ返る血の匂いが隠れている彼にも分かった。
     さっき父の悲鳴が聞こえてきた気がする。
     母はどこに隠れたのだろう。
     どうして、自分は……人間は蹂躙されなければならない?
     ごぼ、と咳き込む音とともに水の中に何かが落ちた音がした。
    「派手に食らって……。どうすんだこの惨状」
    「良いだろう別に。どうせ犯人なんて分かるわけ無い」
     声は軽い調子で、わずかに聞いたことの無い訛りの響きがあった。
     人喰らい、吸血鬼が戸板一枚を隔てて立っている。靴音が父の血を踏んで水音を立て、あちこちを物色している音がした。ここ最近、お金持ちの家が何軒も強盗に押し入られて、住んでいた人が殺されていたという話を、両親がしていたのを思い出した。
     多分、こいつらがやったのだろう。
     ここで自分が生き延びれば、こいつらを牢にぶち込める事も出来るかもしれない。
     そう、考えてどうにかこの場を乗り切ろうとした。
     食器棚の中は狭くて自分のぷよぷよした身体は正直言ってかなりきつい。でも、ここで文句は言っていられないのだ。
     こつ、と足音が近くで止まった気がした。
    「女の方は?」
    「クローゼットの中に隠れてたのを見付けた。血はまあそれなりだから今回収してるところだ。金目の物はあんまり無かったな」
    「まあ、普通の家ならこんなものだろう」
     言葉の意味を理解したくなく、彼は膝に頭を寄せて耐えるようにして縮こまった。ごつ、と戸板に靴がぶつかったのか、わずかに揺れた。
    「そんじゃ、そろそろ撤収だな」
    「ああ。さて、じゃあ僕もそろっとそこから出てこないとねぇ」
     足下の戸板が蹴り飛ばされて外れ、うっすらと月明かりで真っ暗な棚の中がわずかに明るくなった。声が上げられないまま手が伸びてきて男の手が腕を掴んで無理矢理身体を引きずり出された。
    「お、なるほどこれは中々よく育ってるな」
     腕を検分する男の爪の先は尖っていて、にや、と笑う歯は尖っていた。
     ぶつ、と尖った爪が柔らかくムチムチした腕に食い込み、皮膚が簡単に裂けて一筋血が流れた。
    「うー!」
     抵抗しようと呻いた自分を、男が驚愕の眼差しでじっと見つめていた。気のせいか、空気がやけに張り詰めているようだった。
    「……おい、そいつどうするんだ」
    「そりゃ、決まってるだろ。採取して……」
     ごく、と男の言葉がそこで止まって、じっと見つめてきた。ただならぬ光を宿す目が怖くて、思わず後ずさる自分の背中を、そっともう一人の男が触れた。
    「まあ、落ち着け。これは売れるぞ」
     ――売る?
     思わず後ろの男を見上げると、この男も興奮した様子で、口元を拭いながら、それでも言葉を続けた。
    「採取したらそこで終わりだろう。だが、これは貴族様に高く売れるぞ。生き餌で、しかもこの食べ応えで希少血ときたら一生遊んで暮らせるレベルだ」
     しゃがみ込んで、男は肩を馴れ馴れしく触り、押さえ込んで自分を見つめてきた。
    「なあ、僕。名前はなんて言うんだ? 今から良いところに連れてってやるよ」
     口に噛まされていたハンカチを取り払われ、放り投げられる。血に染まっていく父のハンカチを見つめ、言うものかと睨んでそっぽを向く。
    「何だ、ご機嫌斜めか。んー」
     男は部屋の中を見渡して何かに気付いて、ゆっくりと写真立てを手にしてこちらに目を向けてきた。
    「アズール君。良い名前だねぇ。大丈夫。これから行くところは天国みたいな所だからさ」
     ふるふると首を振って抵抗すると眺めていた男がけたたましく笑い
    「ほら振られただろ。ひとりぼっちでどっか行くよりここで仲良く全員食われた方が良いよなぁ」
     恐らく父を食ったのはこいつなのだろう、滴る血を拭って自分の足を掴み引き寄せようとする。その男を背後にいた男が腕を伸ばした。
     吹き飛ばされて反対側の壁にめり込んだ男は呻いて倒れ込み、身体が浮き上がる。
    「さて、音に気付かれるからさっさと行かないと」
     陽気に自分を見つめて、男は足取りも軽く家の外に出た。
    「はーい、お休み-」
     最後にもう一度だけ、見ようと車に乗せられる前に男の肩越しに見た家は、煙が窓から立ち上り始めていた。
     布をかぶせられ、腕が一瞬痛みを感じた後のことは何も思い出せなかった。


     アズールは、目を開けて薄暗がりの中目をこらした。
     また同じ夢を見た。これで何度目かも分からない。
     起き上がって見下ろした自分の指先は、あの頃のような肉付きの良さはどこにも無い。
     かたん、と鉄で出来たドアの横の受け取り口から食べ物が置かれる音がする。血が滴るような見事な赤身の肉と、パンとスープ。クリスマスにしか食べられないような高給品が並んでいた。あるいは、母のレストランで出される料理などもこういうものが合ったかもしれない。
     お腹を押さえてみるが、相変わらず食欲は無かった。
     味を感じない。肉を噛みしめたときの旨味も滴る肉汁の味も、今はただのべたつく汁とゴムのようなものでしかない。パンはスポンジだろうか。
     
     家から連れ出されたあの日、アズールは貨物列車のようなものに押し込められ、日差しを見ないまま人間が売り買いされる市場に連れてこられていた。存在がある事も知らなかったそれは、日の光を浴びることが出来ない人喰い達と闇取引をするマフィアなどが作った地下街の中にあった。籠に入れられ、目玉商品としておかれたアズールの前には人だかりが出来、彼の腕から取った血に、砂糖に群がるアリのように奴らが集まってきた。
     籠に入れたのはどうやら商品であるアズールを守る為でもあったようだ。目の色を変えた奴らが檻の中に手を伸ばしてアズールを猫なで声で呼び、痛くしないからと囁きかけてきた。
    「ああ、なんていい匂い」
    「身体も随分育ってるじゃ無いか。あれなら一年は持つだろう」
    「いや、ここは育ててもう少し長く飼うのが賢いだろうよ」
     生き餌とは言ったものだ。血を最上の食料とする彼らにとってはアズールはきっと動く輸血用の巨大なパックなのだろう。首に管を刺されて牛乳パックを吸うようなイメージがふと思い浮かんで、アズールは狂気の中ふっと笑いまでこみ上げてきた。
    「いくらですか。その子供は」
     よく響く、アズールでもそれが見事な発音だと分かる男の声が聞こえてきた。
    「こ、これはリーチ家のご当主様。このような場所にいらっしゃるとは」
     アズールを売っていた男がやけに媚びるような声で応対を始めた。ちらと視線を向けると、海のような不思議な色の髪に、金色の目をした男と目が合った。彼はにこやかに微笑み、ひらひらと手を振って近づいてくると
    「ああ、これはいい。うちの子達と同じくらいじゃないか」
    「ああ、お子様の生き餌をお探しですか」
    「ん、んー。もうすぐ誕生日だからねぇ。何か良い物は無いかと探していたんだ。あの二人も本当に聡い子達だからねぇ。普通じゃ満足できないし」
     足を伸ばした甲斐があったと、男は小切手だろう紙切れを男に提示していた。金額に店主は相手を拝む勢いでへこへことして、
    「すぐにそれを出せ」
     鍵を開けられ、首についた枷を引っ張られて外に引きずり出されると、アズールは透明な箱に押し込められた。身動きできない、膝を抱えて丁度良いサイズ感のそれに。思い切り嫌そうな顔をすると、買った男は箱は良いと手を振った。
    「車で来ているから梱包は不要だ。歩けるだろう?」
     半ば抱えられ、はいともうんとも言っていないアズールは引っ張られて群衆の間を歩き出した。時折、ひっかこうとする手が伸びてくるが、脇に控えていた男の部下らしき男が問答無用で棒で殴りつけていた。
    「ああいうのばかりでは本来無いんだけどねぇ。何しろ君の血の匂いはとても強烈なんだ。我々の理性を奪うほどに」
     ぐっと、男がアズールの肩を強く掴んできて、アズールは思わず身を固くした。この男も理性で耐えているだけで、他の群がる奴らと変わりは無いらしい。
    「そう、だから他に渡る前に手に入って良かった。あの子達も喜んでくれるだろうし。短い間でも仲良くしてくれると助かるよ」
     短い、というのは恐らく自分の命の時間なのだろう。
     さながら短命なペットに言っているようなものだ。価値観がまるで違う。
     アズールは絶望感で足がふわふわとしたまま、引きずられて男の車に乗り込んだ。見たことの無い高級車に乗っているというのに殆どアズールの心はそこには無く、ぼんやりと太陽の見えない地下街の天井の方に目を向けていた。
    「僕の子供達も見た目は君と同じくらいでねぇ。双子なんだ。親馬鹿なんだけどとても賢くてねぇ……」
     子供のことをどうやら話しているらしい事は聞こえてきたが、アズールにはあまり興味ない話だった。



    セラータの双子

     カタカタと音がして、のぞき窓から目玉が見えた。
     ぱっと見えなくなったと思ったら、何かひそひそと囁く声がした。
    「あのアルバ、全然食べ物を口にしないんだけど」
    「調理方法間違ってないわよね?」
    「彼らの文化圏ではこれが良いはずなんだけど……。旦那様に相談かしら」
    「そうよね。このままだと坊ちゃん達に渡す前に……」
     ひそひそと囁く声はやがて遠くなり、アズールは窓の下に置かれたソファに座ってぼんやりと窓の外を見つめた。
     ――海の中なのに変な感じ
     地上の明かりは吸血鬼達には毒でしかなく、夜の闇の中でしか生きられない。それでも経済活動をしていく中で、半端に人間と共存している現状では不便だった。その結果、彼らは海の中に都市を造ったのだと、置かれていた本を読んでアズールは知った。
     見上げた空は見慣れた空の青はないが、薄ぼんやりと海の青が広がっていて、ほのかに光が降りてくることもあった。
     ――海の中じゃ逃げられないなぁ
     痩せて、骨が浮いてきた腕や足を見下ろして、アズールはぼんやりと考えた。味を感じない今のアズールには食欲というものは殆ど無く、あんなに丸かった身体の線は見る影も無くなっていた。このままでは買ってきた筈の本来の目的も果たせはしないだろう。
     ――ざまぁみろ
     どこの誰の餌になるかなんて知らないが、どうでも良いと、無駄な金を使ったあの男の姿がよぎる。
     こつこつ。
     まどろみの中、何かが窓を叩く音が聞こえた気がした。
     ――……鳥でも居るのかな
     だるい身体で顔を上げたアズールは、窓にへばりついている何かの目と合い、思わず悲鳴を上げた。
    「しー!」
     と指を立てて、それはさっと窓から見えなくなった。
     バタバタと人の走る音がして、鉄のドアが開いて中に男が数人入ってきた。
    「……今のは?」
    「あ、いや……なんでも」
     夢を見ていた、と言うと、男達はアズールにそれ以上近寄らず、顔を見合わせてから外に出ていった。
    「はあ……」
    「もう、駄目じゃん騒いじゃ」
     窓の外から、そう言ってまた何かが顔を出した。
    「……誰だよ」
     窓は細くしか開かない作りで、アズールはそっと開けて問いかけた。少年はどこかで見た顔だと思って少し眺めていると、アズールは自分を飼った男の子供達の存在を思い出して、もう一度少年を見つめた。
    「ねえ、何してんの?」
    「……別に何も」
    「なんで?」
    「なんでって……」
     閉じ込められているのだから何も出来るわけが無い。そういったアズールに、少年はふーん、と少し考えてから
    「じゃあオレそっち行って良い?」
     と身体を細い窓の隙間に差し入れた。
    「いや、無理だ……ええ?」
     霞のように身体がかき消え、少年の身体が部屋の中に現れた。
    「あは、何? こんなの出来ないの?」
    「出来ないよ」
    「ふーん、おもしれー。あ、ジェイド良いよー」
     返事を外に向けてすると、もう一人が窓にひょこっと顔を出して、やはり同じようにふっとかき消えて中に入ってきた。そっくりの顔の双子は、アズールを見つめて興味深げにじっと見つめてきた。
    「人間?」
    「人間ですね」
     初めて見た、と二人はアズールをじっと見つめ、そろりと手を伸ばして来た。
    「触るな!」
     ぱち、と叩いたアズールに、二人はきょとんとしてソファに座って居るアズールを見つめた。
    「なんで?」
    「僕達何かしました?」
     不思議そうな顔をする二人に、アズールはたじろいで、そんなことは無いけど、と視線を逸らした。
    「あれ、人間の食い物でしょ。なんであそこに置きっぱなしなの」
    「人間って、ああいうのを食べないと死んでしまうんでしょう?」
     不思議そうな双子に、アズールは食欲が無いと首を振り、二人はふーん? と首をかしげていた。
    「なんで?」
    「なんでって」
     戸惑うアズールに、もう一人が皿を持ってきてじっと見つめ
    「どんな味がするか食べてみても良いですか?」
    「え、良いけど……。その、お腹壊さないの……」
    「多分大丈夫じゃないですか。この肉とかなら」
     ぱく、と一口で一枚肉を口に運び、少年はもぐもぐと咀嚼しながら
    「んー、変わった味ですね。このふわふわしたのは?」
    「パン」
    「これが? オレも食べたいジェイド」
    「ち、ちぎって食べないと詰まるぞ! おい!」
     一口で一個を口に放り込もうとした少年に、思わずアズールは手を出して、小さくちぎって口に押し当てた。
    「んー、なんかパサパサする」
     んえー、と微妙な顔をする少年に、アズールはスープを渡し
    「普通はこういうのにつけるの」
    「ふーん?」
     ポタージュの中に浸して、口に入れると、今度はなるほど、と言う顔で少年はパンを飲み込んだ。
    「おもしれーね。色んな感触のもの食べるの」
    「僕達で人間の食事をするのは喉を通る感触までで、基本は吐いてしまいますからね」
     どこかで聞いた古代の人々のような食事法に、アズールは顔を引きつらせてから、
    「人間の食べ物食べるの」
    「ええそれなりに。最近の子は特に訓練しますね。そうそう。申し遅れましたが、僕はジェイド」
    「フロイドー」
     名乗った二人は、アズールを見つめて待った。
    「……アズール」
     仕方なく答えると、彼らはアズールの両脇に座って
    「アズール、ですか。この離れに随分前から来ていると聞いていたんですよ」
    「どんなのなんだろうってずっと二人で想像してたんだよねぇ」
     そう言って、フロイドがアズールを見つめて、
    「テレビで空の色見たけど、アズールのはそれににてる目だねぇ」
    「別に、似てない」
     ぷいっと顔を逸らすアズールを、フロイドはケタケタと笑い、やがてふっと元の表情に戻ると、パンを手にアズールに差し出した。
    「な、何?」
    「食べないと死んじゃうって、大人が言ってた」
    「……別に良いだろ」
     顔を背けるアズールに、ジェイドが助け船を出すように横から声をかける。
    「僕達、お互い以外と話をしたのは初めてなんです。だから、出来れば僕達とお話しして欲しいんです」
     肩に触れ、ジェイドがアズールを懇願するように見つめてきた。
     ここの至るまで投げかけられ続けた中で一番、普通とも言える言葉に、アズールは混乱してきて、触るな、ともう一度言って、二人から逃れるように立ち上がった。
    「どうせ餌にされるのに、何がお話だ! 出て行け! 触るな!」
     興奮と空腹でふらついて、アズールは数歩歩いてつんのめるように前に倒れこみ、床に倒れ込んだ。冷えた石に手を突いて、起き上がってアズールは膝をすりむいていることに気付いて呻く。
    「……っ、あ」
    「なに、これ」
     ジェイドとフロイドは呻いて、喉を押さえてアズールをじっと見つめた。
    「アズールの、それは……」
    「……何だよ。悪いか」
    「悪いというか、なんか、頭がぽーっとするっていうか」
     フロイドはそう言ってアズールににじり寄って、そろりとすりむいた膝を見下ろした。
    「僕も、本で読んだことがあります。人間の中には僕らが抗えない血を持つ者がいると」
     ジェイドの手がアズールの頬に触れて、もどかしげに離れる。葛藤が見て取れて、アズールは膝を見下ろし、足を投げ出した。
    「……そんなに食いたいなら、さっさと終わらせてよ」
     投げ出された傷を、二人はごくりと見つめててから、アズールに視線を向けた。
    「……いいの?」
    「どうせこうなるのは変わらないんだろ」
     いずれこの二人に渡す贈り物だとか、そんなことを言っていた気がする。アズールの言葉に、二人は口元を思わず拭ってから、視線を交わし、フロイドが膝に顔を近づけた。
    「……っ!」
     滲んだ血をフロイドのざらりとした舌が舐めとり、彼の目が大きく見開かれた。次の瞬間には傷口に軽く歯を立て、吸い付いた。
    「アズール、平気ですか?」
     ジェイドがアズールをじっと見つめ、倒れそうな彼を支えて問いかけた。
    「……っ、平気、だけど……」
     ざらざらと吸い付く舌と口に、アズールはどう形容すれば良いか分からないむず痒さに身体を捻った。
    「はっ……、なに……?」
    「大丈夫ですよ。僕達の食事は野蛮な連中とは違うんで」
    「や、ばん?」
     自分が見た光景はもっと凄惨で、蹂躙される人間の姿だった。それとも死ぬ前というのは案外そういうものなのだろうか。くすぐったさと浮つく感覚に戸惑っていると、フロイドが顔を上げて、満足げに口に付いた血を舐め取った。
    「傷治った?」
    「え、あ?」
     すりむいた膝は気付けばつるりと綺麗に戻っていて、アズールは狐につままれた状態で見下ろした。
    「本来の食事はもっと色々あるそうですよ。僕達のやり方はかなり古風なので」
     ジェイドはそう言って、アズールの手を取り指先を軽く食んだ。
     尖った歯がアズールの指の皮膚を裂き、血が滲み、ジェイドの口の中にじわりと広がった。
    「まだ、あまり、上手くないんですけど……」
     ジェイドはそう言いながらアズールの指先を銜えて舌先で指先の傷口をなぞりあげる。
    「く……す、ぐった……」
     ぞくっと鳥肌が立ったような感覚にアズールは身をよじり、フロイドが薄くなったアズールの腹から胸に手を置いて
    「アズール心臓飛び出そうだよ。ジェイド」
    「それは困りますね」
     名残惜しげにアズールの指から口を離したジェイドは、口を拭ってアズールを見上げた。
    「アズール、大丈夫ですか?」
    「……ん、あ……、うん……」
     身体から力が抜け、頭に霞が掛かったようなぽーっとした感覚のまま、アズールは頷いた。
    「美味しかったです。アズール」
    「ねえ。でもアズール、今もここが弾けそうで危ないよ」
     とくとくと早鐘を打つ心臓を皮膚の上から撫で、フロイドが心配そうに呟く。
    「食事は、取った方が良いと思います。何があるか、正直分からないので……」
     二人に抱えられてベッドに移動し、二人は冷めた食事をアズール前に置いて、たどたどしくスプーンをアズールの口元に近づけた。
     味のしないそれを、仕方なく口を開けて、どうにか咀嚼して飲み込む。
     どれくらいか久しぶりに食したそれは、身体が求めていたのかじわりと指先に力が戻ったような感覚を覚え、アズールはため息をついた。自分の生への執着は、相当に強かったらしい。
     食べた、と喜ぶ二人は、いずれ手に入るペットを世話する楽しみでも覚えたのだろうかと、アズールはぼんやりと眺めていた


    ++++++++++++++++++++++
    アズの貴重なしおらしい状態。
    ショタアズは大人しくて状況にあたふたしてる感を出したかった
    その結果
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    💖🇱🇴🇻🇪💞👏💯💞😭😭😭😭😭💴💯💖💖💞👏💘🙏🍞💴💘☺☺☺👏👏👏👏👏👏👏☺👏👏👏💖💖☺💖💖💖🙏😍👏❤❤❤❤💗💖💕😭💜💜💜
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    ニシカワ

    DONE🦈のふりして🐙にちょっかい出そうとしたらとっくにフロアズしていたみたいで自爆した🐬のジェイアズ
    【ジェイド・リーチはフロイド・リーチがうらやましい】 誓って言える。決して下心などは無かったのだ。それはそれは可愛らしい、稚魚の悪戯のつもりだった。すぐにネタバラシをする気でいたし、そもそも続けられるほどの辻褄だって合わせていない。
     片割れに許可を取る前にタイを解いてシャツのボタンを二つ外した。目と声を魔法で変えて、髪に手を入れ分け目を変えた。好奇心は猫をも殺す。そんな陸のことわざを思い出したが、まさかウツボまでは殺せまい。そう思ったから。だから僕は、愛しの片割れに姿を変えて、VIPルームの重厚な扉を蹴破った。
     その時は、とてもわくわくとした気持ちで。
     幼い頃より何度か繰り返してきた入れ替わりのこの遊び。髪型を変え、口調を変え、態度を変えればそれだけで大抵の人魚は僕達の入れ替わりには気付かなかった。色や形を変える魔法を覚えてからは、両親ですら疑問を抱かず僕をフロイドと呼び、フロイドをジェイドと呼んだ。最近では魔法の精度も真似をする技術も上がっていて、自分自身ですらフロイドとの見分けが付かないほどだ。鏡ではなくガラスの向こうに片割れが居るのではないかと思うくらいによく似ている。そんな自分の姿を見て思ったのだ。果たしてアズールはこれが僕だと気付くだろうか、と。一度そう考えれば、僕の好奇心はおさまらなかった。
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