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    yu__2020

    物書き。パラレル物。
    B級映画と軽い海外ドラマな雰囲気になったらいいな

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    yu__2020

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    ブラボパロなイドアズ。
    イメージ的には聖堂街辺りをうろついてエミーリアに向かう所辺りですー。ゲーム内容語はあまり使ってないので知らない人でも多分大丈夫です。何故かアズがショタになりました。おにショタ風なイドアズ……???

    ##イドアズパロ企画2

    狩人達の夜明け双子の狩人
     
     その街は遙か遠く、海を越えた二人の住む国でも噂には聞いていた。曰く、独特で発達した医療によって普通ならば治らない病すらも治すという医療の街。
     しかし場所は知らず。
     もとより求めていたわけでは無かった二人はその場所へ行くことなど無いと思っていた。

    「皮肉なものですね」
     扱うには大きすぎる鎚を石畳の上に置き、一汗かいたにしては涼しい顔をしてジェイドとは呟く。辺りには頭部が砕けて潰れた、人間というには奇怪な生き物の死体が転がっている。
    「なにがー?」
     自分の背と同じくらいの柄の長さを持つ斧を豪快に振り回し、襲ってきたそれを切り裂いて、フロイドが振り返る。
     独特の意匠と、近隣でも見かけるタイプの家々と少し変わった形の教会。整備された水道設備すらも見受けられ、文明の匂いがするただ中だというのに、二人の立つ場所は毛に覆われた人間と言って良いのか分からない者達の死体が転がっていた。
     夜気の湿った匂いの中に濃い血の匂いも混ざった独特の匂いに、二人はポケットから出した獣よけの香水瓶の蓋を開けて立ち上った薬草の香りを嗅ぐ。
    「ここで死んだ人間も治療を受けるためにここに来た人間達でしょう。その結果がこれですからね。逆に、僕達は今のところ正常です。そんな者に興味が無い人間だと言うのに」
    「まあ、ねえ」
     フロイドは武器のトリガーを引くと、斧の柄が金属の軋みをあげて短くなった。肩にトントンとそれを乗せてフロイドは首をかしげる。双子故のそっくりな顔だが、二人の上にひっそり光る月と同じ金の瞳は左右対称で、見分けるとすればそこを見る事になるだろうか。
    「あー疲れた」
     フロイドは開け放たれている家のドアの方に目をやった。かすかな音に耳を澄ませて、ジェイドの方に目をやり首を振る。
    「中の物は有効に利用させて貰いましょうか」
    「そーだねぇ」
     ジェイドは鎚の柄を捻って引っ張ると、カチンと金属が外れる音がして抜き身の直剣を柄から抜き出した。
     後ろから明かりで照らし、フロイドはジェイドの後に続いて中に入る。
     血の匂いが部屋の中に広がり、二人は思わず息を止めてカンテラの明かりを奥に向けた。恐らく家族だろう人間達がひとかたまりになって転がっている様子を見つめ、二人は脈を取った。
    「これは駄目ですね」
    「だね。今楽にしてやるよ」
     わずかに息がある男に、フロイドは短銃を向けた。うめき声と、もはや言葉も発せないそれは、血が指先にべったりと付いていて、爪は異様に長かった。溶けた瞳孔をフロイドは見つめた。てっきり押し入った群衆に殺されたのかと思ったが、恐らくこの男が病を発症したのが先なのだろう。他人に対してそこまでの感情を持たないフロイドでも、わずかに哀れに思って男を見下ろし、引き金を引いた。

     火薬の匂いと発砲音が響き、フロイドは短銃を腰のホルスターに収めて立ち上がった。
    「なんかある?」
    「備蓄した食料がありますね。これは貰っていきましょう。それと、弾が少しと丸薬ですかね」
     バッグに詰め込んだ物を見せてジェイドは奥から出て来て、階段の方に目をやった。
    「何? まだ見てく?」
    「ええ、アズールが欲しがりそうな物があるか見ていきましょう」
     わずかに声に張りが戻っている兄弟に、フロイドは思わずため息をついた。


     荷物を担いだ二人は、死体の転がる街の中を通り抜け、柵で囲まれた家に滑り込んだ。文字通り、細く柵を開けて中に身体をねじ込むようにして、侵入者が入らないように細心の注意を払っていた。
     ほのかに明かりの灯る窓に目を向けて、二人はわずかにほっとしてドアを開ける。
    「ただいま戻りました」
    「ただいまー」
     声にパタパタと軽い足音がして手前のドアが開いた。そろ、と顔を覗かせた人影に、ジェイドは明らかに先ほどまでとは違う、目尻の下がった笑顔で近づいた。
    「留守中、何か変わりはありませんでしたか?」
     日を浴びてないようなほの白い肌にまだ少年らしい丸みの残る顔立ちの青年は、ジェイドを見上げて首を振った。
    「いえ、特には。ここは相変わらず見付けられていないようです」
    「柵も高いし、ロックもかなりしっかりしてるからねー。正気の人間ならわかんないけど、外うろついてるようなやつなら大丈夫でしょ」
     フロイドはそう言って小柄な彼の頭を撫でる。慣れないそれに、一瞬身を固くするものの、青年はフロイドのするままに頭を撫でられていた。
    「……ん、フロイドはそれ好きですよね」
    「んー、アズールの髪はねぇさわり心地が良いから」
     アズールと呼ばれた青年は、ぎこちない動きでさらりと揺れるフロイドの髪に触れ掬った。
    「二人ともおかえりなさい」
     ジェイドとフロイドはにこやかに微笑み返事をした。
    「さて、服が汚れているので身体を洗ってきます」
    「ええ、お湯は用意してあります」
     風呂場に入る二人を見送り、アズールは再びドアを開けて部屋の中に戻っていった。
     ジェイドの持ってきた荷物を部屋の中に運び、アズールはリビングから外の方に目をやった。
     濃紺色の空に丸い月が輝き、窓の外から見る街の中心には煙が立ち上っていた。
     こんな空が、自分の体感でもう二週間は続いている。
     ジェイドとフロイドの言葉からすると、恐らくもっと前かもしれない。アズールには、その判断が出来ない状態だった。
     そもそも、暦という物を彼はちゃんと理解していただろうか、と考える。獣に成り果てた人間か、あるいは本当に野犬か、唸る声や、嘆き悲しむよう悲鳴のような鳴き声がどこからか聞こえてくる。
     恐らく、もう街に朝が来ることは無いのだろう。
     ――あるいは、僕達が夢を見ているのか
     鞄の中を開けて、アズールはジェイドの持ってきた食料を貯蔵スペースに移動させ、雑貨をしまって、残った本や外国の物らしいコインを手にしてソファに座る。
     バタバタと廊下から物音がして部屋にジェイドとフロイドがさっぱりとした顔で中に入ってきた。
    「荷物はこちらで中身を確認しておきました。しばらくはなんとかなりそうですね」
    「ええ、とはいえ、保存食であればいざ知らず、生鮮食品はやはり手に入らないですし、アズールは伸び盛りです。ちゃんとした食事が出来るようにしなければ」
     アズールはそういう物かと自分の手を見下ろした。十五の彼は、ジェイドとフロイドの基準からすると十二歳程度にしか見えない、らしい。病院にいた人間達は大体同じくらいだったアズールには、二人のいう基準が若干分かっていなかった。確かに、初めて見たときに感じたのはその身長の高さだったのは確かだが。
    「……僕も外に出れば二人と同じくらい高くなれるって事ですか」
    「同じ、はどうかなぁ。遺伝とかあるし」
     フロイドはそう言ってアズールの横に座って、彼の手を握って手を比べてみた。
    「んー、骨の大きさとか長さ考えると、平均よりは高くなると思うよー」
    「……平均」
     若干不満そうな彼に、ジェイドは仕方がありませんねと微笑んだ。
    「まあ、ですが運動をしたりすると伸びる場合もありますよ。アズールの年齢なら学校に行くのも良いでしょう」
    「学校って……」
     フロイドは思わず顔をしかめ、アズールは学校ねえ、と首をかしげた。
    「それは良いとして、そろそろ探索を更に先に進めた方が良いと思うのですが」
     アズールの提案に、二人は思わず渋い顔をした。
    「……そう、ですねぇ」
    「オレらだけでならまあ」
    「僕だって行きますよ」
     アズールの台詞に、二人は困ったと明らかに眉を寄せて見合わせた。
    「……アズール、それはどうかと……」
    「オレらが把握しているところなら良いけどさ、危ないって」
    「危ないのはどこも同じですよ。そもそも、お前達は誰のおかげで怪我を治せていると思っているんだ」
     問いかけに、二人は渋々と
    「……それは、感謝していますけど」
    「でもさぁ」
    「僕の血のおかげで怪我が治せているんですよ。なら、見ず知らずの土地に行くのに僕がいないでどうやって攻略をすると?」
     胸を張って腰に手を当てて問いかけるアズールに、二人はまあ、そうだけど、と渋い顔のまま頷いた。
    「輸血パックの保存容器だって消耗品です。拠点であるここから離れれば離れるほど、治療は難しくなります」
     真っ当な意見である。ジェイドとフロイドは呻くように頷き、お互いの顔を見合わせてから、諦めたようにアズールを見つめた。
    「……分かりました。次の探索場所はまだ街の近くですから……。そこで準備をしましょう。僕達もアズールも」
    「準備?」
     アズールはなんの? と問いかける。
    「アズールさ、まだあんまり外に出たこと無いじゃん。だからいきなり知らない場所を探索するってもちょっと大変だと思う。街の中もまあ、隠れる場所が多かったりいろいろあるから、ちょっと心配だけど」
    「拠点が近いので僕らも多少の無理が利きます。順を追って行くべきかと」
    「……なるほど。まあ、わかりました」
     ジェイドの言葉に納得したのか、アズールは頷いた。
    「そういう事なので、まずは少し休憩しましょう」
    「夜のまんまとはいえ、仮眠取らないとやっぱ疲れるからねぇ。外に出たらいつベッドで眠れるかもわかんないし」
    「分かりました」
     アズールは頷いて立ち上がり、その背中をジェイドがそっと導くように後に続いて立ち上がる。
    「……ジェーイド」
    「おっと」
     首を掴まれたジェイドはフロイドに酷いです、とむくれたように言って、立ち去るアズールをああ、と悲しげに見送った。
    「……それじゃおやすみなさい二人とも」
    「お休みーアズール」
    「おやすみなさい」
     アズールは自分が寝室として使っている部屋に入り、ベッドに横になる。家主もその家族もどうなったかは知らないが、そこが同じかもう少し年下の少年の部屋だったのだろう事は何となく分かった。置かれていた靴や服、積み木などのおもちゃが残されていた。
     どこも似たような感じだ。この家の住人達は狩りの夜の前に逃げていれば恐らく助かっているだろう。そうで無ければ。
     どこかでまた獣の泣き叫ぶ声が聞こえてきて、アズールはシーツを頭からかぶった。
     眠っても、きっと目が覚めたら今と同じ空と月を見るのだろう。
     青い空を最後に見たのはいつだっただろうか。
     四角い空しか見たことの無いアズールは、二人が良く自分を見て褒める青空と同じ瞳をまぶたの上からさすった。
     ああ、自分は、あの月と同じ金色の目が綺麗だと、あの日も思ったのだった。
     まどろみの中、アズールはそんなことを思って意識を途切れさせた。


     ソファに向かい合って座り、ジェイドとフロイドは黙ってお互いを見合っていた。間には、この街の地図と、調べた情報が書き込まれていた。
    「ジェイドさ、アズールに甘いよねぇ」
     ペンで今日調べたことを書き込み、フロイドは静かな部屋の中で呟く。ジェイドは、お茶を入れてフロイドの前に置いて、少し間を開けてから
    「気のせいですよ」
     と答えた。
    「……ふーん? だって、学校がどうのとか言ってたのに?」
    「……それは」
     答える事が出来ずにジェイドは黙りこむ。
    「……おかしいのは分かっていますよ。アズールは本来ならば、きちんとした人間の元に送るべきですから」
     言ってから、ジェイドはチラリとフロイドを見つめ、フロイドはため息をついてペンを置いた。
    「思ってもねー事言うのやめたら」
    「ふふ、失礼。ですが、アズールが望むことは出来れば叶えたいのは確かですよ。フロイドもそうでしょう?」
    「まあ、そうだけど」
     フロイドは動かない時計を眺めてから、ソファに身を沈めた。
    「で、行くとしたらやっぱこの辺りだと思うんだけど」
     指さした場所を、ジェイドは覗き込んで頷いた。
    「この広場から先は上から偵察した感じ、人の気配があんまり無かった。獣狩りの連中のルートからも外れているから、アズールがいても取り敢えずなんとかなると思う」
    「問題は、この路地の近辺は少し狭いという所ですかね」
    「まあ、ねえ」
     偵察で今日回った限りでは、その場所は二人の持つ武器よりは小回りのきく武器の方が有利そうなのは見て取れた。
    「そうすると、ジェイドが先で、アズールが真ん中、オレが後ろって感じで……」
    「そうですね、そうするのが恐らく良いかと。目的地はこの大聖堂ですか」
    「うん、なんかこの辺り、アズールの話だと拠点の一つだったらしくて、教区長ってのがいるんだって」
    「教区長ですか。なるほど。何か知ってるかもしれないですね。ただ……」
    「生きてれば、ね」
    「そうですね……。聖職者はとても強い獣になるという噂もあるくらいです。あまり深入りをするのは避けた方が良いというか」
    「だねぇ」
     フロイドはそう言って、ごろりとソファに横になる。
    「フロイド」
    「オレも寝るー。ジェイドも少し寝た方良いって」
    「そうですね」
     ジェイドは微笑んで、だらりと身体を伸ばして眠り始めたフロイドに、毛布を掛けてやってから、自分もソファに身を預けて目を閉じた。
     夜が続くこの場所では、眠って起きるまでが夜という曖昧な時間の概念でしかなく、既にここに入り込んでから何日以上過ぎたか、正確な時間は二人には分からなかった。
     ――そうだ、あの時もそういえば
     ジェイドはふと記憶が蘇り、そのまま記憶を遡るように夢を見始めていた。



     二人の住んでいた国は、街からずっと離れた海の向こうだった。お尋ね者、はみ出し者、言い方はいろいろあるが、ようは、怒らせてはいけない人間を怒らせて、海を渡って雲隠れする必要があった。
     ほとぼりの冷める頃まで逃げ切れば良いという話だったが、追手は案外しぶとく追いかけてきて、流れに流れてこの辺境までたどり着いていた。国境をもう一つ超えるべきと判断した二人は、考えた結果正規ルートでの国境越えは諦め、国境の向こうまで続く森の中を通ることにした。
     地図を見ながら道を進んでいた二人は、やがて獣道のような道に入りこんだ。地図にも見当たらないその道を、二人は誰か人が通っているのではと判断して進むことにした。まさか地図に無い街が獣道を進んだ先にあるとは、思いも寄らなかった。
     相当に大規模な街で、地図にも無いその場所に危険と判断した二人は、慌てて帰ろうと元来た道を戻っていった。が、何度道を戻っても街への出入り口に戻ってきてしまっていた。
    「……どういうことこれ」
    「……妙な話ですが……ここに入るしかないようですね」
     ひしゃげた鉄製の柵には馬車の荷台が突っ込み、中に入った二人はうろつく武装した人間達に思わず身を隠していた。
    「……え、何これどういう状況?」
    「妙な武器ですね……。それに、フロイドあれを見てください」
     ジェイドは広場のような場所に詰まれたかがり火の中に突き立てられている十字の杭をそっと指さし、フロイドはうげっと思わず呻いた。
    「うわー……何あれ。狼の毛皮? ここ悪魔崇拝とかのやばい村なの?」
    「だとまだ可愛げがありますが……住民の様子も何か……妙ですね」
    「武装してる割に所在なさげだし……なんか身体とかおかしくね?」
     のこぎりや鉈、ピッチフォークを持つ住人達らしき人々はどこかふらふらと動きが鈍く、火の周りに集まって突き刺した十字架を眺めていた。
    「どっちにしろ、よそ者の僕達を放っておいてくれる気がしませんねぇ」
    「だね。なるべくバレないように回ってこ」
     フロイドは辺りに目をこらしてジェイドの袖を引いて、そっと物陰から物陰へ移動していった。
     その後をジェイドが続き、二人は人の居なさそうな路地に入って様子を探ることにした。
     背筋が凍るような甲高い叫びが二人の耳に突き刺さり、二人は思わず耳を塞いで辺りを見渡した。
    「……何今の声? ていうか人の声あれ?」
    「分かりません。それと、あの……。覚えていたら教えて欲しいんですが、フロイド。僕達、まだ明るい時間に森に入りましたよね。今何時か分かりますか」
    「あ? 何言ってんのジェイド。朝早く出たから今なんてまだ昼になる辺り……」
     フロイドは、細い路地の上を見上げて黙りこんだ。
    「……あれ」
    「はい、僕も今気付きました。森の中が薄暗かったのは確かです。ですが」
     ジェイドは見上げた空に輝く丸い月を見つめ、首を振った。
    「僕達の時計は今日の朝お互い合わせました。そうして、九時に森の中に入った。地図の通りであれば十五時には国境を越えて下る道筋になるはずでした」
    「オレの時計、今十二時で止まってる」
    「ええ、僕もです。そうして秒針は全く動いていない」
     カチカチと音はし続ける時計を眺めて二人は思わず額を押さえた。
     現実におかしな事に巻き込まれたと、ようやっと理性が認識し始めていた。


     その街の噂は、実を言うと与太話として聞いたことがあった。
     辺境のどこかにあるという、変わった医療が栄える街。
     他に治療の当てがない病人達が最後に向かう場所。
     しかし、それがこんな地獄のような光景だとは聞いたことが無かった。
     落ちていた武器を手に、ジェイドは通りを駆け抜け一瞬振り返ってさて困りましたねぇ、と呟いた。あれから何時間経ったのか、そもそも時間の経過があるのかがジェイドには分からなくなっていた。
     ――いや、そもそも時間の経過が無ければ人の移動も、こうして僕達が街の中で移動しているという時間のその概念すら無くなる、のでは? 現状僕達の体力は減っているし、そういう意味での時間経過はあるはず……
     頭はまだ正常に動いていると自分を鼓舞しながら、ジェイドは少し走る速度を緩めた。若干遅れ気味のフロイドに、思わず手を伸ばそうとすると、フロイドは手を振ってそれを制した。
    「平気」
    「……ですが」
     街の様子を見ようと慎重に行動していたはずの二人は、どうしたことか隠れていた路地にあの徘徊する住人達が押し寄せてきて、どうにか突破して走ってきていた。その時、恐らく誰かが撃った銃弾がフロイドの腹を掠めたらしい。
    「もう少し行った先で少し処置をしましょう」
    「はーい。あーあ最悪」
     軽い調子で言うが、フロイドの顔色はあまり良くなく、ジェイドは他人には殆ど見せたことの無い不安げな表情を浮かべてフロイドの肩を支えた。
    「ジェイドさぁ、変なこと考えてる?」
    「そんなことは無いですよ」
     かすかに笑う兄弟に、フロイドはしょうがないなぁと呟いて、拾った鉈を振った。
     逃げた先でここで終わるのだろうか。
     ジェイドはぐっと胸が詰まりそうな感覚を味わい、はあ、と息を吐いた。ひとまず移動して静かな路地に入ったジェイドは、あちこちにある病院や治療院だったらしい場所から取ってきた清潔な包帯とガーゼでフロイドの怪我を一旦応急処置し始めた。
     カラカラと、恐らくピッチフォークか何かを引きずる音が近づいてきていた。逃げてきた方向からはまだ騒がしい声がしてきている。逃げ道はどうやら殆ど無いようだった。
    「……フロイド、どこか休める場所で隠れていてください」
    「は、何言ってんの。妙な気起こすならマジで怒るけど」
     よろけて、それでも立ち上がってフロイドはジェイドの肩を軽く叩いて鉈を握りしめた。
    「仕方が無いですね」
     ジェイドは、わずかにほっとしたような表情で呟いて、同じように拾った斧を手に取った。
     取り囲んだ人間達に、二人はああ、とわずかにほっとして
    「良かったぁ、飛び道具持ち居なくて」
    「ええ、流石にあれは頂けないですね」
     武器を振りかぶってきた男達にジェイドとフロイドはにやりと笑って武器を手にして振りかぶってきた男の胴を薙いだ。
    「丁度いいや。上手く行ったらこいつらの武器もちょっと借りちゃおう」
    「ああ、良いですね。汚れた服も換えてしまいましょう」
     武器を振り回して、疲れた身体に鞭打って、それでも二人は動き続けて目の前に立つ人間達をなぎ払い続けた。返り血か自分の血か、分からなくなっていったジェイドは、息が上がったまま、最後に残った人影に鉈を振り上げ、思わず手を止めた。
    「……あ、なたは?」
     思わず、声が出ていた。
    「ジェイド……!」
     フロイドはよろけて膝を突いていたが、それでも警告するように声を張り上げた。見下ろしたそれは、目の前の状況にはいっそ場違いで、ジェイドは混乱していた。フロイドもそれは同じようで、立ち上がってふらつきながら、それでも武器を向けるべきかを悩むように、それを見つめた。
    「……僕は、アズール」
     少年は、血にまみれてボロボロのフードのような物から顔を覗かせ、そう答えた。この街に入って、理性的な声を聞いたのはそれが初めてだったかもしれない。涼やかな声に、二人はどう対応すれば良いのか悩み、戸惑って少年を見下ろした。
    「……アズール、ですか。なるほど」
    「ジェイド、ですね。そっちはフロイド。申し訳ないですがずっとあっちで観察していました」
     あっちと、指さした先は木箱がいくつも置かれた場所で、彼はフードを脱いで、ジェイドと、後ろのフロイドを見やった。
    「取引をしましょう。あなた方は言葉の感じからきっとよそから来た人でしょう。そういう物なんでしょう?」
     アズールと名乗った少年は、月明かりとかがり火の光に照らされて、よりそのほの白さが際立っていた。子供の気配はずっと無かったから、この少年がどうやってここまで生きていたのか、二人は黙りこんで見つめるしか無かった。
    「……取引、ですか。具体的にはどのように?」
     辺りには人の気配はどうやら無く、ジェイドは用心しつつもアズールの話に乗ってみることにした。情報でも手に入れば、御の字だ。
    「……そこの人の傷を僕なら治せます。ええ、僕はそういう風に出来ているので」
    「そういう、風?」
     もうどんな妙な事が来てもと思っていたが、ジェイドはそれでも思わず聞き返していた。アズールは、今回は特別ですよ、と言って、フロイドの方に近づいて、ごそごそと服の中を探り、ナイフを取りだした。
    「……あなたは!」
    「黙ってみててください。フロイド、ですね? さあ、これを……」
     アズールは、ナイフを自分の手に向けてぐっと力を入れた。
     血の匂いが満ちる中、それでも二人は何か違う匂いが辺りに広がったような気がして、アズールを見つめた。
    「ちょ、ちょっと! もう少し顔を近づけてくださいよ」
     ぐっと傷口を押さえて上に手を振るアズールに、フロイドは思わずへら、と微笑んで
    「いいよー。こうすればいい?」
     と、アズールの方にしゃがみ込んで顔を近づけた。
    「本当は注射が良いんですけど……。これを少し飲んでください」
    「え、血飲むの。吸血鬼じゃん」
    「なんですそれ」
    「えー知らねーの?」
     フロイドはそう言いつつ、もうこの際とばかりにアズールのナイフで切った傷口に顔を近づけ、そろりと舌先でアズールの血を掬って飲み込んだ。
    「……っ!」
    「フロイド?」
     驚いた表情のフロイドに、ジェイドは不安になって思わず声をかけた。
    「ジェイド、あなたも怪我をしていますね。あなたもこれを飲んでください」
     そう言って、アズールは腕を差し出し、ジェイドは困惑して兄弟に目をやり、目を見張った。
    「……フロイド、それは?」
    「わかんねーけど……治ってきてる」
     腹に手を当てていたフロイドは、そろりと包帯を取って、塞がりかけている傷を見つめて、アズールへ視線を向けた。
    「当然です。僕の血は最高の治療効果を得るために調整されていますから。ええ、血の聖女のように」
     不穏すぎる言葉を平然と吐く少年に、二人は思わずお互い視線を向け、取り敢えずその場はそうですかと頷いた。
    「……あの、それで取引とは」
    「ああ、そうでしたね。あなた方はよその人でしょう。外に出るつもりですよね。なら、僕も連れて行ってください」
    「はあ」
    「は?」
     まさか自分たちにそんな事を依頼するとは、とジェイドとフロイドは思わず眉をひそめた。
    「しかし、何故」
    「見ての通り、この街は少し前から夜が明けなくなりました。僕は別の場所にいたのですが、何しろこの特殊な身体ですからね。身の危険を感じて一人どうにかここまで逃げてきましたが……。僕は外へ出たことがありません。護衛が必要と判断したわけです」
     どうだ、と少年は胸を張り、ジェイドとフロイドはもう一度、はあ、と呟いた。
    「僕は最初街から外に出ようとした調査員の話を聞いたんですよ。どうやっても門の外に出られない、とね。ですが、色々調べていた人間達の話では、手段が全く無い、という訳でもないようです。もっとも、その後彼らは行方知れずになって、僕を世話していた医者達はみんなおかしくなって襲いかかってきたんですけど」
    「調査を更に進めて、外に出るには一人じゃ無理って訳か」
    「そういう事です。二人は戦闘力もあるようですから、治療の出来る僕がいることはメリットになるはずです」
    「へえ、小さいのによく考えるじゃん」
     フロイドは、面白くなってきたのかアズールの頭をよしよしと撫で、アズールは狼狽えたように後ずさり
    「ち、小さいって……僕はもう十六になりますよ」
    「え、嘘でしょ。だってどう見ても十二歳くらいだけど」
    「……え、そ、そうなんですか……」
     二人のやり取りに、どうやらようやっと冷静さを取り戻せてきたジェイドが首をかしげながら
    「成長が遅れ気味なのかもしれないですね。こんな状況で良く生き延びることが出来ましたね」
    「正直何度か危なかったです」
     アズールはそう言って、ぐっと頭にかぶっていたフードを掴み、
    「これは大分薄汚れてましたけど、獣よけの匂いがしていたので、それでどうにかなっていたようです」
    「獣よけ? 熊とか?」
    「いえ、こういう風になった人間達や、あそこらに転がっている異形の事です。僕達はあれを獣と呼んでいます。いつの頃からか、この街ではこういう、人間で無い物に変化する病気が時折発生するようになったそうです。その治療について研究をしていた結果、よその国にも伝わる、医療の町に変貌していった、とか」
     よくわからないですけど、とアズールは言って、ジェイドの方に腕を差し出し
    「まあ、とにかく。僕と取引するのはお得ですよ」
     そういうアズールを、ジェイドとフロイドはどうする、とお互い目配せしあってから、小さく頷いた。
    「良いですよ。僕達で宜しければ喜んで」
    「外に出るときにはいっしょに連れて行ってあげる」
     二人の言葉に、アズールは、ほうっと息をついてその場にへたり込み、ジェイドとフロイドは彼が気を張っていたことに気づき、柄にも無く、思わず彼を労うように頭を撫でていた。


     目を覚ましたジェイドは空に目を向けて、変わらない空の様子をしばらく眺めていた。
     月は真上に存在している。
     何より、その大きさは街の狂気と同様、ここが普通では無い事を表すように丸く大きかった。
     いつもああだったと、アズールは言っていたが、ジェイドとフロイドからすれば正直に言って異様である。
     ――やはりここは、何かおかしい
     探索中に何人かまだ理性的な人間とも言葉を交わし、ついでに彼らを安全だという教会などへ案内したこともあったが、彼らの言う教会というのはそもそも妙ではあった。
     アズールは、その教会で、おそらくは違法――これは自分たちの国の基準ではあるが――な行為によって生まれた事は察しが付いていた。彼はいわゆる実験体、という物に近いのだろう。
     ジェイドは部屋を出てアズールを起こそうと彼が寝ている部屋に入った。
     眠っているアズールを見つめて、ジェイドはため息をついた。
     ――こんなにいたいけな子供に……
     身体が小さいのはその方が部屋の場所を取らない為なのだろうとジェイドは考えていた。詰まるところ彼は何も無くても長く生きることは出来なかったのだろう。
     ジェイドは、はあ、とアズールの頬に触れてからかがみ込んで
    「何してんだよ」
    「誤解ですフロイド」
     頭を掴まれてジェイドは両手を挙げて無抵抗のポーズをして後ろに目をやった。
    「おはようございます。フロイド」
    「おはよー……。で、何してんの」
     眠たそうに目を擦りながら、それでも兄弟が誤った道に転がらないように、フロイドはジェイドを押さえて首を振る。
    「アズールを起こそうと思って」
    「一々やることが思わせぶりっていうの? どうかと思う……」
    「ふふ、それは申し訳ない」
     にこやかな笑顔だが正直フロイドは本当に大丈夫だろうかと眉をひそめていた。
    「……なんですか」
     もぞ、と声がして二人は思わずベッドを見下ろした。
    「おはよーアズール」
     フロイドの声に、アズールは目を擦り、ぱちっと瞬きをしてからおはようございますと答えた。
    「アズール、起きれますか」
    「うん」
     眼鏡をアズールに掛けてやり、ジェイドは降りようとするアズールを抱えてあげた。
    「探索する場所を決めたので、出かける前にご説明しましょう」
    「……自分で歩けますが」
    「そう仰らずに」
     アズールを抱えてニコニコと出て行くジェイドを、フロイドは仕方が無いという顔で眺めて後ろからついていく。
     双子で、兄弟以外への人間の関心が余りなかった彼が随分変化する物だ。
     フロイドはそう思いつつも、自分とて、アズールに甘いのは否定は出来なかった。



     高い塔の多くは教会に付随する建物が多い。
     その塔の一つから、小柄な人影が街を見下ろしていた。
    「……ターゲットを確認。行動規則性の確認。……行動に規則性を確認出来ませんでした。能動的行動予測開始」
     抑揚の無い声が鐘楼に響き、やがて人影は動き出して鐘楼の下の階段を下りていった。
    「兄さん、生存者がこっちに近づいてきてるよ? どうする?」
     かた、と作業をしていた手を止めて、男がゆっくりと振り返った。
    「……別に。どうもしないよ。僕達はここで、死んだように……。静かにしていればいい」
    「そっかぁ、でも、一人は背格好的に僕と同じなんだけど……」
     どうしよう、と問われて男はわずかに表情を変え、考え込むようにそっとカーテンを開けて窓から外を見つめた。
    「……そう。なら、仮にここの近くまで来たら、様子を見て、オルトが決めて良いよ」
    「分かった! じゃあ行ってくるね!」
     ふわりと階段を下りていく人形を見つめ、男はランタンの明かりの中、ため息をついた。
    「また、獣狩りが増えた、んだね」


    ++++++++++++++++++++
    BloodBoneなパロのイドアズ
    リベンジ版。

    話を前のは広げすぎたのでキャラとかをもうちょっと絞って目的をはっきりさせた感じ。結果アズがショタ化した。何故。

    ■ちょっとしたメモ
    アズール
    いわゆる血の聖女的なやつなのは前のお話と変わらず。
    何故かショタというか原作より年齢は一個下になり、見た目は少年というねじれ具合に。ジェイドとフロイドに拙いながらも取引を持ちかけてきた鋼の精神とただでは転ばないのは変わらず。海外のコインが沢山落ちている街なので拾って集めていつか使う場所に行くことを夢見る子。

    ジェイド
    元は逃亡犯。国でフロイドと色々商売をしていたが怒らせた相手が悪く、そういう連中から逃げていた。アズールと取引していっしょに行動するうち、何かに目覚めたのかどうなのか、アズールに過保護になる。何故。

    フロイド
    ジェイドと色々暴れ回った結果辺境まで逃げてきた。閉じ込められていたアズールに思うところがあって当初からかなり優しかったりする。今のジェイドの状態はどうした物かとちょっと考える事はある。

    他寮の人達もちらほら出る予定。
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