痕 神崎にこてんぱんに負けて、クロノ達はユナサン支部を追い出された。
「…………とりあえず、戻りましょ」
「そう、だね……」
「だな………」
3人で、電車に揺られる。ふと、クロノの左肩に重みがのしかかる。
「? シオン…………?」
シオンはクロノの肩に頭を預けて眠っていた。普段はどんな時でも完璧であろうとするシオンが、無防備に眠りに落ちているというのは珍しい光景だ。
しかしクロノもトコハもそれを微笑ましいとは思えなかった。
「…………シオン、何があったのかな」
「わかんねえけど……酷い目に遭わされたのは、確かだと思う」
クロノはそっと、シオンの右手を取ってオレンジの石がついたバングルを外す。ユナサン支部の象徴であるバングルを外したシオンの右手首には、うっすらと赤い痕がついていた。
「…………酷い」
「あいつは、ちょっとファイトで、って言ってたけど……普通はファイトで、こんなのつかねえよな」
ドッグトレーナーに連れてこられた時のシオンも、顔を苦痛に歪めていた。相当な
ダメージだったことはクロノにもトコハにも想像はつく。
きっとシオンは、今後も詳細を話すことはないだろう。
「…………ちょっとは休めよな」
シオンの寝顔は、少し険しい。夢の中でも苦痛を味合わされているのだろうか。そっと頭を撫でると、ほんの少しだけ表情が和らいだ。
「……ねえ、肩じゃなくてちゃんと寝かせてあげたら?」「そうだな」
シオンの身体をずらし、クロノは自分の膝に彼の頭を載せる。そうして頭を撫でると、先程よりも落ち着いたのか、ようやく穏やかな寝顔になった。
「……重かっただろう、起こしてくれてよかったんだよ?」
「いや、あんだけ寝てるのは起こせねえだろ」
シオンは珍しく頬に朱を差していた。クロノとトコハの前でうたたねをしたのが相当恥ずかしかったらしい。
なにせ電車を降りる時も寝ぼけており、トコハが帰った後で再び眠りに落ちたのだから。ようやく意識が覚醒したシオンは自分がベンチでクロノに膝枕をされていたことに仰天した。
「いいんじゃねえの、たまにはこういうのもさ」「……馬鹿クロノ」
珍しく拗ねたような顔で、シオンは子供のような悪口を口にした。