ハロウィン神父「千石さん、僕、実家が教会なんです」
そうなのか。知らなかった。国都の真面目さと、天然ボケ、そして高校生にあるまじき品の良さは実家由来だったのか。納得だ。
国都は寮室の戸口に立ち、両手を腹のあたりで綺麗に揃え、背筋を伸ばして涼やかに佇んでいた。扉は閉まっていた。立ったまま説明する国都を、俺はベッドに腰掛けながらぼんやりと眺めていた。そうなんだ。国都って卒業後は神父になるんだ。
丈の長い学ランのような服の肩から白い布が垂れているその姿は、シンプルで上品だ。国都にとても似合っていた。肌がほとんど見えない仕様は、潔癖さを表しているのかもしれないが、逆に見えないからこそ、手首や首筋の白さが際立っていた。見てはいけないものを見たような気がして、俺は思わず目を逸らした。
「千石さん、いけません。大事なことなので、ちゃんと聞いてください」
俺が話を聞いていなかったのがバレたらしい。見透かされている。隠す気もなかったが、神父の国都に観察されている、と思っただけで、なんだか胸がドキドキとした。悪いこともしてないのに、お巡りさんに話しかけられた気分か?いや、グラビアを眺めていたら、本屋のお姉さんに見つかった時の気持ちか。
「千石さんは、実は、悪魔に呪われているんです」
俺がなんだって?洗濯当番と掃除当番がダブってるって言われたのか?俺が貧乏クジを引きがちなことを知っている国都は、自主練の時間が減るにも関わらず、いつも優しく手伝ってくれた。その話なのか?
「だから、僕が我が家に伝わる秘術を使って、千石さんについている悪魔を祓います」
あ?なんだって?
俺が理解できずに固まっているのを見つめ、国都は優しく、そして艶っぽく微笑んだ。切れ長の瞳と、その色っぽい目尻が印象的だ。
やべえ。エロい。これが背徳か。
俺が股間を硬くしたのと、国都が長衣を脱いだのは同時だった。
「あ……」
黒い長衣の下に、国都はほとんど何も身につけていなかった。赤い縄で立派な筋肉を縛りあげているほかは。
「さあ、この縄で、千石さんについた悪魔を捕縛します」
「はあ?」
という間抜けな叫び声で俺は目を覚ました。
時計は三時を指していた。
夢か。呼吸を整えながら、夢の内容を反芻する。
黒い服、白い首筋、赤い目尻と、暗い微笑み。
そうだ。そういえば、国都の実家が教会だという話、昨日の晩めしの時に二年生が話題にしていた気がする。向こうのテーブルで騒いでいたから詳しくは聞こえなかったが、たしか、そんな話だった。それでこんな夢を見たのか?安直か?
コツコツ。
誰かが扉をノックした。うるせえな、消灯後に部屋にくんなよ、と思って直ぐに気がついた。
いま三時だろ?
「千石さん?大丈夫ですか?」
板の向こうから、国都の低く柔らかい声がする。声自体は滑らかで落ち着きがあるものの、バカ丁寧な様子が逆に緊張感を呼び起こす。
「千石さん?大丈夫ですか?寝れてますか?」
国都はあくまで丁寧に呼びかけてくる。
いや、でも、国都……お前、なんで、俺が寝れてないことを知ってんだ?
ガチャ、という音ともにゆっくりと扉が開いた。
暗い廊下に立つのは、黒い服をした国都。妖しい微笑みを浮かべながら、静かに立っていた。
あ、これ、だめなやつだ。
俺、国都に捕まるんだわ。
〆