140×51『給料三カ月分の』
王馬くんに手錠を貰った。日く給料三カ月分らしいが、総統の平均年収なんか知らないから何の参考にもならない。反応に困るうちに片方の輪は僕の、もう片方は彼の手首にかけられる。すぐ飽きるだろうとげんなりしていたら鍵を預けられてしまって、自由を前に一瞬でも迷った時点で僕の負けだ。悔しい。
2『誰よりもその場所が欲しいの』
最原ちゃんの中に誰かが座るかもしれない空席がある状態が気に入らない。友人から宿敵恋人家族に至るすべての席にオレが座って、最原ちゃんを360°余すところなく見ていたいのに、オレ専用の席があってもどうにもならないんだって。そもそも百田ちゃんにも百田ちゃんの席があるくせに何言ってんだ。
3『怒るけど、嫌わないから大丈夫』
呆れた。それって怒ってすらないじゃん。王馬がクソヤローなのは当然として、最原も最原だ。傷付いたならもっとちゃんと怒りなよ。それとも許し続けるなんて停滞を、あの王馬が許しているのだろうか。だとしたらこいつらは破綻してる。あんたがいいなら別にいいけど、バカだねって言っておく。
4『ただの友達は、こんなこと、しない』
最原が歯切れ悪く零すのを聞いて、考えるより先に動く王馬の舌はすっかり沈黙してしまった。そうかこの男に興醒めしたのかと他人事のように感心する。常識を建前に思考を止めるなんてくだらない。あるいは期待しすぎたのかもしれない。腹癒せに噛み跡でも残そうとして、だけどもうどうでもよかった。
5『青春』
花火をしたがる王馬くんが出してきたのは、警戒に反して平凡な手持ち花火だった。炎色反応に気をとられる僕の隣で、王馬くんは光の塊を振り回して楽しそうだ。最後の一本に伸びる手を目で追ってしまう。さみしいの?と笑われて頷く勇気が僕にはないから、来年は譲ってねって困ったふりで誤魔化した。