BGM:テーマ/黒木渚「王馬くんは傲慢だよ」
耳を掠めた声の頼りなさは、彼なりの怒りのあらわれだったのだろう。
それを茶化すことはいくらでもできたけれど、王馬は先を促すに留めた。
どうしてそう思うの。つとめておだやかに訊ねたし、わざわざ人好きする笑顔を選んでやったというのに、最原はこちらを見ようともせずフローリングを睨んでいる。
泣き顔を見られたくないなんて今更だ。ここで煽って激昂させない理由について、その聡明な頭で一考願いたいものである。
相手のペースに合わせて待つなど、学生の頃からは考えられない譲歩であるのに今やそれが当然とされているのなら、最原は王馬の愛情にあぐらをかいているのではないか。
昔から妙に自己肯定感の低い彼を思えばわがままになって何よりではあるものの、腹が立つかどうかはまた別問題だ。けれど王馬は最原を待つ。
「きみはきみのつきたいだけ嘘をつくのに、そこにある本心を考えてほしいなんて傲慢だ」
「はあ?言うに事欠いてソレ?こーんなに健気な人間つかまえといて、よくもまあ」
王馬は王馬のやりかたでずっと献身的だ。ゆえにこの言い分も間違いではなくて、しかしそれが相手に伝わるかどうかは悲しいかなこれもまた別問題である。
元よりお互い理解者として傍にいるわけではない彼等に、相互不理解は必然だ。
「嘘つかないでほしいならさ、口塞いじゃえばいいんだよ物理的に。簡単でしょ?」
口を塞ぐ。猿轡で、ガムテープで、てのひらで、キスで。
同意の上でふれあう関係のふたりにとって、王馬の言うとおりそれらはとても容易いことだ。
それでも嘘が嫌というだけで口を塞いだことなど一度もないことを、記憶力に長けた頭で思い返してみてほしい。そう歯噛みしながらも最原は素直に答えを差し出すことにした。
顔を上げた視界のまんなかで、王馬の輪郭がぼやけている。まばたきすると彼の姿がはっきりする代わりに頬が濡れる感覚がした。今更強がるのもばかばかしいが、射抜く視線に声まで潤んでしまわぬよう息を吐く。
「そんなに簡単にきみを否定するような真似しない。したことないだろ、これまでも」
察して欲しいなんて傲慢だ。それでこじれる現実があるのならプライドなんて捨てられるくらいには王馬との関係を大切に思っていたが、どうにも自分の譲歩を頼りにされているようで腹立たしい。それも短くはない年数で得た信頼だと言い聞かせる自分が、時々とても惨めだった。
王馬は先の人好きする笑みとは打って変わっていたずら好きの顔をする。最原の献身は伝わったらしかった。
「オレが嘘しか言わないみたいな言い方するね」
「本当のことも教えてくれないだろ」
「だから?もう呆れたって?」
答えを誘導されている。
けれど、きみの望む言葉を、僕の意思で口にしている。
それが伝わっていてほしいとこいねがう。それさえあれば、いつまでも繋がっていられる。
最原は、そう信じている。
「いまさらだよそんなの。そんなのわかっててきみの隣にいるんだ」