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    ふんわりケーキバースの王最

    #王最
    wangMost

    🍰 王馬にとって食事とは、餓死しないための手段である。
    この世には味覚を持たない人間がいて、王馬は生まれながらにそうだった。ただそれだけの話、だから特に悲観することなく生きている。
    なにやらフォークと呼ばれるらしい体質を、名前がついたとて解決にもならないため気にかけたことはない。
    味覚がないとはよく知られるが、その実嗅覚も申し訳程度にしか働かない。切っても切れない関係にあるそれら、どちらかが機能しないならばもう片方も機能しないのは当然だ。
    ゆえに王馬の世界は、音と光、それから感触のみで構成されている。充分に豊かな感覚器官を憂いたことはないが、ゼリーとスライムを一目で見分けられるのはすごいと思う、そのくらいの認識。
    そして、フォークと呼ばれる人間がいるようにケーキと呼ばれる人間もいて、フォークは彼等を『あまい』と感じることができるらしい───が、味という概念のない世界で生きてきた身では、知識として得ただけの存在に焦がれることもない。興味はあれど、なくても困らないもののために他人の体液を舐めるなんてぞっとしない。とはいえ十年そこらで形成された価値観なんて、案外かんたんにひっくり返る。

    「…………」
    表情も言葉も忘れたような王馬を、最原が訝しげに見つめてくる。何を言いたいか手に取るようにわかったが、どうしたなんてこっちが聞きたい。
    驚かせたい、気を引きたい、なんか綺麗でむかついた、それら諸々ひっくるめて魔が差した。同性のクラスメイトに対し、ひとこと好きと言うには複雑に絡まった感情の行く末の、まちがいみたいな行動だった。
    最原が納得するかどうかはさておき、キスに関してはそんな説明をつけられよう。けれど、唇にふれた際の違和感の正体には説明がつかないのだ。生気のない肌色に反してきちんとあたたかくて、やわらかくて、それで───それで?
    自らの口元を拭おうと伸びる最原の手を咄嗟に掴んだ。どうしてしまったのか確かめるため、もう一度間違う必要がある。
    抵抗を軽くいなして再び口付けるも、うすい唇は頑なに引き結ばれている。くちあけて。そう伺い立てる声は掠れてほとんど吐息も同然で、王馬にはめずらしい余裕のなさを悟ってか悟らずか最原は顔を背けて逃げようとした。
    生憎と端から許可を得るつもりなんてない。空いた片手で顎を捕えて強引に目線を奪う。口を開けたら負けとでも思っているのか依然として黙り込む健気さも、王馬の前には無意味である。
    顎を掴む手はそのままに、親指を口の中へと潜り込ませた。
    驚いたような困ったような、言語未満のうめき声がする。睨んでくる目は鋭いくせに、噛む度胸のないお人好し。苦しそうでかわいそう、でもごめんねとは思わない。
    舌を押す指先が、さらさらしてぬるい唾液にひたる。やわらかい表面を擦る度に増えるそれが零れそうと思うより先に、半端に開かせた口を隙間なくふさいでいた。
    流れ込んでくる唾液、温度と感触のほかにある未知の情報に、いつぞやに知識として得たケーキという存在がふと王馬の脳裏を過った。『あまい』という感覚を、上っ面だけでも理解しようと辞書をめくった日を思い出す。やれ砂糖だ蜜だと、味覚のない人間には縁遠い定義付け。
    わかるものかと読み進めるうちに、それは幸福を意味する言葉でもあると知った。うっとりするとか心地いいとかそういう類の。ほとんど麻薬だと結論付けたのも、あながち間違いではなかったらしい。
    たとえこれがそうでなくとも、うるんだ粘膜同士がくっつくのは気持ちがいい。頭の中に綿が詰まっていくようで、馬鹿になりそうでおそろしい。
    夢中になって食らっていると肩を強く押される。邪魔するなと言わんばかりに両手で抑え込んだが、髪を引っ張られては適わない。品のない音を立ててほどけた舌を、とろりとした糸がつないでいる。掬って口に含むと、覚えたばかりの多幸感が脳を麻痺させた。
    空腹には程遠いのに口寂しい。唇に残る唾液に、こめかみに滲む汗に、目元を濡らす涙に吸いつく。どこもかしこも最悪なほど癖になるのに、知らなきゃよかったと言い切れない。
    「やめろ、って、ねえ、何、さっきからっ……」
    「ふ、あはは、どうしよこれ」
    こちらを探る瞳がべっこう飴みたいだ。触れた肌はマシュマロと同じ手触りをしていたし、食んだ唇はグミの食感と似ていた。これまで何とも思わなかった食べものが途端に魅力的に思えてくる。
    きっとこの先、それらを見る度にこの男を思い出す。人生に過不足なんてなかったのにとんだ誤算だ。魔が差した、衝動に任せてキスをした。王馬の世界はひっくりかえって、もう元に戻らない。

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