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    めのう

    @Cy0UA

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    めのう

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    続きが一向に思い浮かばん話。

    二回目爆豪勝己は目が見えない ――は?
     爆豪勝己の内心は、その一言に尽きた。
     あの日あの時、確かに爆豪は死んだ。無事雄英を卒業し、三年ほどで事務所も立ち上げ、大阪を拠点として活動する切島を引き抜いた。雄英時代から燻ったままの切島への想いをぶつけて見事恋人関係を結ぶことも出来た。恋仲の人間がやることはすべてやって来た。あとは活動を続けながら、時期が来たら切島の一生を縛りつけるために指輪を贈るハズだった。言ってしまえば結婚まであと少しだったのだ。
     それなのに、そこまで行かずに死んでしまった。面倒臭い個性の持つ敵から幼い少女を守ろうとした結果だった。殺される前に救出出来たのは良いものの、どうやら当たりどころが悪かったらしく、爆豪は簡単に死んでしまったらしい。全然勝てる相手だったのだが、運も神もその時までは爆豪に微笑むことはなかった。
     ただ一つ懸念があるとすれば、切島のことだった。誰かに盗られやしていないか。目の前で死んだせいで沈んでいたりはしないか。個人の意見ではあるが、切島には死ぬまでヒーローとして生きてほしいものの、心のどこかでは追って来てほしいという思いもある。天国でも地獄でも爆豪は切島が居ればそれで良いのだった。あの世で二人、人生の続きを歩んで行きたいと。死人に口無し。ただの戯言である。

     そんなことを思い出しながら、リビングのソファーに腰掛けじっと耳を澄ます。車が走る音や行き交う人々の声、鳥の囀りも聴こえる。どこかで事件があったのか、パトカーのサイレンの音も微かに聞こえた。
     すぐ近くでは小気味良くまな板の上を歩く包丁の音が奏でられ、火に炙られながら油が元気に跳ねる音がした。隣では父のゆったりとした息遣いと、正面ではテレビから漏れ出る笑い声。聴覚の情報だけで、ここまで楽しめることに気づいたのは結構な発見である。
     人生二回目。爆豪は意外にも前世に未練は無いらしく、今世を満喫していた。
     ただ、今までと違うのは『高校生の爆豪勝己』ではなく『小学生に上がる前の爆豪勝己』らしいこと。それと、――目が見えないこと。
     これに関しては、今世でも爆豪と幼馴染で無個性な緑谷出久が変質者に攫われそうになった際に、助けようと腕にしがみついたももの、思い切り振り落とされて頭の打ちどころが悪く永久的に視力を失ったからに他ならないが、爆豪は特に気にしていないらしい。前世の時ならばどうにかして視力を戻そうと躍起になったのだろうが、何せ人生二回目である。視力が無いのは不便だが、それもまた運命なのだろう。
     それに視力が無い分、聴覚が発達しているため大変不便というわけでもなかった。ただ、もう二度とあの鮮やかな赤色が見えないのだと思うと、少しばかり変質者を殺してしまいたくなるが。

     それはそれとして、本日の予定は家族とピクニックである。ピクニックと言っても、場所は爆豪の視力を配慮して近場の公園だが、ピクニックはピクニックである。窓から差し込む日差しはぽかぽかと暖かく、外を飛ぶ鳥も元気に鳴いている。どうやら天気の心配はないらしい。
     ひと足先に玄関へ行き、手探りで靴を履いて待つ。心なしか楽しみにしている自分にらしくなく笑みをこぼした。と言っても、小学生である時点で年相応と言うものなのだろう。そして一番の理由は、『何か良いことが起こるかも』ということだ。それが現在の爆豪にとっての一番楽しみだった。
    「はよしろ!」
    「ちょっとくらい待ってなさいよ!」
     そわそわイライラ。二つの気持ちがせめぎ合っている。胸の奥の不明瞭な気持ちをとにかく解消したかった。

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