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    ししとう

    @44toshishi

    支部にあげるほどきちんと書いてなくてTwitterにあげるには文字数が多い書きたいところだけ書いたものを投げる供養場。

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    ししとう

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    こんな内容の漫画描きたかったな、という覚書。

    #反転ドラロナ
    invertedDralona

    「お加減いかがですか?おじ様」
    「ありがとうお嬢様。悪くないよ。」

     寝乱れた白い髪をそっと撫で、その白い御髪の合間からのぞく真っ白な毛に覆われた耳に触れた。

    「……戻っていませんわね。」
    「そのようだね。」

     数日前、おじ様とお茶会を致しましょうとお屋敷にお邪魔したわたくしの目に飛び込んできたのは、愛くるしいお耳とお尻尾をお生やしになったお姿。
     思わず、『なんて愛くるしいのでしょう!』と叫んでしまったわたくしに、『貴方は本当に物好きだね』とおじ様は肩をすくめ、『来てくれてありがとう』といつものように挨拶のキスをくださった。

    『そのお姿は?』
    『少し、ヘマをしてしまってね。』
    『お相手は?』
    『取り逃してしまったよ。』
    『まぁ。ではわたくしがお話し合いをしてまいりますわ。』

     そう言って踵を返そうとしたわたくしの手に、一瞬だけおじ様の手が触れた事に気付かないわたくしではありません。

    『おじ様?』
    『いや、すまない。なんでもないよ。』
    『おっしゃって?』
    『……本当に、なんでもないんだよ。』

     少し伏せた目。
     そらされた視線。

    『おっしゃって。』

     そらした視線が向く方の頬にそっと触れ再度促すと、おじ様はわたくしの手にその手を重ね、

    『……そばに、いてはくれないかね。』

     小さくそう呟きました。

     その言葉がどれ程嬉しかったか、ああ、お分かりになります?

    『もちろんですわ!』

     思わず叫んで、おじ様を抱きしめてしまいました。
     取り逃したお相手の足取りを探すのはあらゆるツテに頼り、おじ様のおそばで過ごして今に至ります。

    「……その、今日も?」
    「もちろんですわ。さ、もっとよくお見せになって。」

     そう言ってわたくしが二人を包んでいた寝具と共に体を起こせば、眼下にはおじ様の肢体が顕に。

    「とっても綺麗ですわ。」
    「お世辞はよしてくれないか。」
    「お世辞だなんて。」

     つま先から順に触れる。
     爪の形はもう完全に獣のそれ。
     体毛などなかった体は心臓の一番遠くから徐々に白い毛に覆われ、今日などはもう胸元まで肌が見えなくなりそう。

    「……おじ様、爪が。」

     手の指先にそっと触れる。
     紅く彩られた爪が、足の爪と同じようにその形を変えていました。
     おじ様はその手を見つめると、

    「……これでは貴方に触れられないね。傷つけてしまう。」

     そう言って爪を隠すようにぎゅっと手を握ってしまわれました。

    「そんなのは嫌です!」

     握った指の隙間に自分の指を無理やりねじ込ませ、なおも何か言いかけた唇を塞ぎました。
     絡めた舌はザラりとしていて、昨夜の素敵なお時間を彷彿とさせます。
     いつもと違うザラついた舌が身体中を這い、美しい毛並みから覗いた……わたくしを穿った……その……あの、その、ちょっとトゲトゲしていていつもと違って……とてもとても刺激的で……嫌ですわはしたない!

    「お嬢様?」
    「あの……おじ様。」

     おじ様を潰さないようにそっと体を重ねれば、わたくしの体の変化に気づいたおじ様が小さく笑いました。
     そのお顔の可愛い事と言ったら!

    「……触れても?」
    「もちろんですわ。」

     何時になく長い時間おじ様のおそばに居て、こうして濃密なお時間を過ごしている間に気づきました。

     おじ様は、不安なのだと。

     いつも毅然としていらっしゃるおじ様の、その感情を窺い知ることはとても難しいけれど、お付き合いをさせて頂くようになってからは、少しずつその心内をお見せくださるようになったからこその気づき。

     おポンチな吸血鬼の能力ですから、少し経てば自然と元に戻るだろうと思っていたのに、緩やかとはいえ変化が止まらないことに、不安を覚えていらっしゃるのです。

     解除方法も分からず、吸血鬼の足取りも掴めない。

     ──もし、こんな風に貴方に触れられなくなったら。
     ──もし、姿だけではなく、意識までもがケダモノになってしまったら。
     ──もし、貴方の事が、分からなくなってしまったら。

     情事の合間にこぼされたその言葉に、わたくしがどれ程嬉しかったか。
     例えおじ様がどのようなお姿になられても、わたくしのおじ様への気持ちが揺らぐことなど有り得ませんが、もし、お姿だけではなく、その御心も失われてしまったらと思うと。

     ──面白くありませんわ。

     おじ様が日々不安を募らせていらっしゃるように、わたくしは日々、苛立ちを募らせています。
     わたくしの愛しい方に、こんな思いをさせる輩の足取りが掴めないことに。
     少しでも手がかりが見つかったなら、即座にお話し合いに行きますのに。

    「お嬢様?」
    「うふふ、愛していますわ、おじ様。」
    「……危険な事はしないでくれるとありがたいがね?」
    「ええ、しませんわ。」
    「約束だよ。」

     押し広げられ、トゲトゲが侵入してくる際にもたらす刺激に、はしたない声が漏れます。
     痛くないわけはないのに、それ以上に気持ちよくて。

    「おじ様……おじ様っ!」

     もっと欲しくて細い腰に手を回すと、手のひらに触れたのはいつもとは違う滑らかな毛並み。

     ──このお姿もとっても愛くるしいのですけれど、やっぱりわたくしは──。

    「お嬢様。」
    「はい……?」
    「笑って。」

     見透かされたようで、心が痛みました。

     でも、だって。

    「必ず、元に戻してみせますわ。」
    「ありがとう。」

     むつみあい、おじ様の熱を全て受け止めたその時、無遠慮な機械音が吊るされた上着のポケットから鳴り響きました。


    ***


    「行くのかね?」
    「ええ、もちろん。」

     身支度を整えたわたくしを見送るおじ様のお姿は、一段と美しく変化しました。
     白い毛並みが頬までを覆い、白い手袋に収まらなくなった手のひらには、柔らかい肉球が。

    「心配ありませんわ。おじ様。きっと元に戻してみせますから。」
    「……肉球を揉みながら言わないでくれないか……。」
    「あら、わたくしったら、つい。」

     足取りが掴めたと連絡があったのが数日前。
     お話し合いができるようにと策を講じ、やっと、その日が来たのです。

    「おじ様はここにいらして?」
    「いやしかし……。」
    「ちょっとお出かけして、美味しいお菓子を買ってくるだけですわ。お紅茶を用意して待っていて下さる?」
    「……危険だと思ったら、撤退を。」
    「分かっていますわ。」

     ご挨拶のキスをして、お話し合いの場へ向かいます。
     道中連絡を取りあっていた方々と落ち合うと、わたくしの顔を見て、皆様申し合わせたように同じ表情をなさいます。

     ──わたくし、そんなに怖い顔をしてますかしら?

     最新の情報に目を落とし、ようやくたどり着いたお話し合いの場。
     やっとお相手とあいまみえたことに、自然と口元が緩みます。

     ──かつてないコンディションですわ。
     怒りでこんなに血が滾るなんて。

     ご挨拶もそこそこにお話し合いを始めるなど不躾で申し訳ございません。

     そう口火を切りながらお相手との距離を一気に縮め、

    「でも、あの方の瞳を曇らせるなんて、万死に値すると思いません?」

     努めて笑顔でお話し合いを。

     でも、わたくし、本当に。

    「あなたの事が、許せませんの。」

     ごつ、と拳に伝わる骨の感触。

    「ねぇ?あの方のお姿を戻す方法を、あなたは知っていらっしゃるのでしょう?」

     コンクリが立ち並ぶ空間に響き続ける骨がぶつかる鈍い音。

     ぬる、とレザーグローブが濡れ、

    「ほら、早く教えてくださいまし。」

     ごぽ、とお相手の口から粘度の高そうな血が溢れます。

    「お口を割っていただけないなら、御頭をお割りしても?」

     怒りで、少々頭に血が上ってしまっていたのでしょう。
     追い詰めたという油断が、判断を鈍らせていたのかもしれません。
     長く伸びたお相手の尾が、背後から迫って来ていることに気づくのが、ほんの少しだけ遅れて。

    「……!!」

     首を取られる。
     そう思った矢先。
     視界を覆った白い毛並み。

    「……おじ…様…?」

     わたくしの呼び掛けに振り返ったお顔の、見覚えのある義眼。
     迫り来る尾に食らいつき、噛みちぎった赤く染った口元の見慣れた牙。

    「おじ様!」

     その姿はまるで真っ白な豹。

    「わたくしがお分かりになる?」

     恐る恐る尋ねると、すり、と鼻先を頬に寄せてくださって、肯定の意を示してくださいました。

    「そのお姿もとってもお美しいですわ。」

     輝くような毛並みに触れようとして、血で濡れているレザーグローブを外し投げ捨てましたが、中まで染み込んだ血で、わたくしの手は汚れていました。

    「ごめんなさい、こんな汚れた手でおじ様に触れる訳には……。」

     ハンカチを取り出す為にポケットに手を入れるのもはばかられ、何か拭くものか手を洗える場所は…と視線をめぐらせるわたくしの手を、おじ様の長い舌がペロリと舐めました。

    「おじ様!?駄目です。わたくしの手は今」

     汚れていて、と言いかけたわたくしの目の前に、ぬっと出された口元。
     その口元は未だ赤く染っていて。

    「同じだよ、とおっしゃってくださるの……?」

     まるで、そうだよ、と言うように胸元にすり寄せられた額。

    「お優しいのですね。こんなわたくしと同じだなんて。」

     恐れることなくおじ様を抱きしめ、その柔らかく滑らかな毛並みに頬を埋めます。
     鼻先に香るおじ様の香水。
     もうあのお姿のおじ様とはお会いできないのでしょうか?

    「そうですわ!」

     血塗られたわたくしと同じ、とおじ様はおっしゃってくださった。

     ──そう、同じになればいいんですわ!

    「ちょっと貴方、起きてくださる」

     おじ様を抱きしめていた腕をほどき、地面で寝ていらっしゃるお相手の頬を少し叩きます。
     こころなしか顔が歪んだ気がしますがきっと気のせいです。
     小さくうめき声がしたので、きっとお目覚めになったのでしょう。

    「わたくしにも貴方の能力を使ってくださらない?」

     おじ様が驚いたようにお相手とわたくしの間にその体をねじ込んできます。

    「何を言っているのだねとおっしゃりたいのでしょう?でも、わたくしには聞こえませんわ。……そう、聞こえないのです。貴方の声が。分からないのです。貴方の言葉が。」

     涙が溢れ、そして、ぽた、と膝に落ちました。

    「どんなお姿でもお慕いしていますわ。」

     見上げてくる片方だけ紅い瞳。

    「でも、おじ様の言葉が分からないのは嫌です。」

     わたくしの言葉は届いているのに。

    「わたくしも同じになれば、もしかしたらおじ様の言葉が分かるようになるかもしれないでしょう?」

     同じ姿になって、二人から二匹になって。
     わたくしたちにしか分からない言葉で語り合って、むつみあって、同じ時を生きて。

    「そう出来たら、素敵だと思いません?だから、邪魔はなさらないで。」

     抗うおじ様の体を避け、お相手の胸元を掴み体を揺さぶります。

    「さぁ早く!」

     まだ意識が朦朧としているようなので起こして差し上げようと拳を振りかざした時、強い力で腕を掴まれ、拳を振り下ろすのを妨げられました。

    「お嬢様。」
    「邪魔なさらないでおじ様!わたくしは……。」

     言葉を続けようとして、はっとしました。

    「おじ様……?」

     振り返ると、そこには焦がれたお姿が。

    「おじ様!元に戻られたのですね!良かった!」

     おじ様を抱きしめるために手を離した時、お相手の後頭部から鈍い音がした気がしますが気になりません。

    「おじ様……おじ様、わたくしがお分かりになります?」
    「もちろんだよ。心配かけたね。ところで……。」
    「はい?」
    「その、少しの間、上着を貸しては貰えないだろうか……。」
    「まぁ!気づかなくてごめんなさい!」

     白豹のお姿から戻られたおじ様は、衣類の類を全く身につけておられませんでした。他の方にこんなお姿をお見せするなんてとんでもない!

    「おじ様、わたくしにそのお体預けて頂けます?お屋敷までわたくしがお運び致しますわ。」
    「いや、自分で歩けるし…そこに寝ている同胞の始末もあるだろう?」
    「ご心配には及びませんわ。直ぐに応援が来ます。それよりも、おじ様のそんなお姿を衆人には晒せませんわ!」

     失礼、と有無を言わさずおじ様を横抱きに抱え、ちょっと揺れますわよと駆けだし、一刻も早くとお屋敷を目指します。
     その際、何か踏んだような気もしましたが、些細なことですわ。


    ***


    「わたくし、怒っていますのよ。」

     シルクのシーツに包まれ、元のお姿に戻ったおじ様との幸せな時間を過ごしながらも、そんな不平を口にします。

    「説明してくださる?」

     じろり、と精一杯怖い顔をしておじ様を見つめると、おじ様は困ったように眉尻を下げました。
     そのお顔もとっても可愛いのですけれど、わたくしは怒っているのですから絆される訳にはまいりません。

     あの後の取り調べで分かった、あのおポンチの能力の解除方法。

     猫化した姿でも愛して貰えると、対象が自覚する事。

    「──わたくしの愛を、疑っていらしたの?」

     そんな言葉を口にすると、悲しくてじわりと視界が滲みます。

    「……私が、馬鹿だったのだよ。」
    「……?」
    「怒らないで聞いてくれるかい?」
    「ええ、もちろん。」
    「……私はね、君から身を引こうと思っていたのだよ。」

     おじ様の独白に、心臓が跳ねます。

    「……何故ですの?」
    「君に、幸せになって欲しかった……人として、ね。」

     人間達が忌み嫌う種族の私よりも、もっと相応しい人間がいるだろう、と。
     あの同胞の能力を受けて獣の耳が生えた時、もしかしたら貴方に気味悪がられて、そのまま嫌われないかと思ったりもした。
     けれど貴方は耳の生えた私を見て、愛くるしい、などと言ってくれて。
     敵わない、と思ったし、やはりこの手を離さなければ、とも思ったよ。
     貴方のその愛は、私に向けられるには勿体ないとすら思えた。
     けれど私の執着は、全く反対の事を考えていたよ。

     離したくない。
     離れたくない、と。

     段々と獣に近づくうち、完全な獣になったなら、貴方はどう思うだろうかと不安を覚えた。
     完全な獣になった時、私の心はどうなるのだろうかと。
     貴方の事が、分からなくなるのだろうかと。
     自惚れかもしれないが、それを貴方が悲しいと思ってはくれないだろうかと。
     でもいっそ獣になったなら、そのまま飼われてそばにいられるのでは、とも思っていたよ。
     もしもそうなれるなら、小さく無力な猫よりも、貴方とともに戦える姿がいいと、そんなことまで考えていた。
     でも貴方が私と同じ獣になろうとしてくれて、貴方の愛の深さを知って、私も、貴方を愛していいのだと、やっと目が覚めたよ。
     ……こんなに心が乱れるなど、自分が思っているよりも、私は随分と未熟だったようだね。

    「おじ様。」
    「……怒ったかい?」
    「いいえ、嬉しいですわ。」
    「……何故?」
    「そんな風に心が乱れるくらい、わたくしを愛してくださってるのが分かりましたから。」

     抱きしめて、キスをして。
     細い手を誘って、触れて、と強請って。

     乱れた白い御髪を見るだけで、胸がキュンとしてしまうのはわたくしだけの秘密。

     熱を吐き出したおじ様が、その身をわたくしに預けてくださるのは、わたくしだけの至福。

    「ねぇ?おじ様。」
    「ん?」

     心地よい気だるさ。
     微睡むような幸せな時間。

    「愛してますわ。」
    「私も、愛しているよ。」

     もしもこの幸せを、どなたかが奪おうとするならば。
     私は笑顔でこう言ってさしあげます。

     さぁ、お話し合いを始めましょう?
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