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    kazura12_R

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    kazura12_R

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    とく/梳く(髪を梳く)

    梳く(とく)

     ビームス家に着くなり体をきれいにしろと風呂に連れて行かれた。
     たっぷりのお湯に浸かって「ふぅ」と息を吐くと、少し緊張が解けた気がする。どこもかしこも初めて見るものばかりで、オスカーは本当にこれが現実なのか確かめるため自分の右頬を抓った。
    「痛い」
     やはり現実らしい。
     頭まで湯に沈み、全身を一気に洗ってバスタブから外に出た。
     普段は公園の水道や夏の暑い日には川で全身を洗っていたが、これからは温かいお湯で洗えるのだと思うと胸が弾む。特に冬が苦手なオスカーにとって蛇口を捻るだけでお湯が出るという状況は大変喜ばしいものであった。
     風呂から出てふわふわのタオルで体を拭き、用意された衣服に袖を通しているとドアをノックされた。
    「オスカー、風呂から上がったのか」
    「今着替え終わったところです」
     急かされたと思いドアを開けると、少し驚いた顔のブラッドが立っていた。
    「ずいぶん早いな。ちゃんと体と髪は洗ったのか」
    「えっと、一応」
     自分では全身きれいにしたつもりだが、ブラッドの目はあまり信じていないように見える。すると突然伸びてきたブラッドの手に頭を引き寄せられた。
    「わっ!」
    「石鹸の香りがしない。もしかしてただお湯で洗い流しただけか?」
    ──石鹸? 洗うって水できれいにすることじゃない?
     何も答えられずにいると、ブラッドは「最初に教えるべきだったな」と少し困ったような顔をした。よく分からないが、浴室に色々置いてあったボトルはきっと体をきれいにするものだったに違いない。
    「……もう一回入ってくる」
     服を脱ごうとボタンに手をかけると、ブラッドに止められた。
    「いや、明日風呂に入る前に教えてやるから今日はこのままでいい。それより、早く髪を乾かさないと風邪をひくぞ」
     あの気持ちのいい風呂ならもう一度入ってもよかったんだけど……などと思っているといつの間にか鏡の前に移動していたブラッドに呼ばれた。
    「それ何?」
    「これか、これはドライヤーだ」
    「ドライヤー?」
    「髪を乾かす道具だ」
     ブラッドがスイッチを入れると、機械から勢いよく風が吹き出した。
    「すごい……」
     初めて見る道具を興味深々で見ているとブラッドからドライヤーを手渡された。これで髪を乾かせということだろうか?
     先ほどブラッドがやっていたようにスイッチを入れると、勢いよく出てきた熱風が自分の顔に直撃した。
    「わっ!」
    「何をやっているんだ、それは顔に向ける物じゃない」
     驚いて床に落としてしまったドライヤーをブラッドが拾い電源をオフにした。
    「今日は俺がやってやるからここに座れ」
    「えっ」
    「実際にやって見せた方が分かりやすいだろ」
     確かにわからないまま間違った使い方をして壊して弁償しろ、なんて言われたら自分ではどうにもできない。一瞬で熱い風が出る道具なんて、一体いくらするんだ?
     ぐるぐる考えても仕方がないので、オスカーは言われた通り大人しく椅子に腰掛けると「いい子だ」と濡れた頭を撫でられた。
    ──きもちいい。
     温かい風はもちろんだが、何度も髪を撫でるブラッドの指があまりにも心地よく、オスカーのまぶたを重くした。
    「それは?」
    「これはクシといって髪をとく道具だ」
     そう言うとブラッドはオスカーの髪にクシを入れた。ドライヤーで少しボサついていた髪がとかれ、きれいになっていく。
    「すごい……」
     こんなにさらさらな髪は生まれて初めてだ。
    「出会ったときは気付かなかったが、思っていたよりもきれいな髪だな」
     これは褒められているのだろうか? 重くなったまぶたを保つことができず、オスカーの瞳は完全に閉じてしまった。
    「オスカー?」
     自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、返事ができたかは分からない。
     これも現実であって欲しいと願いながら、オスカーは夢の世界へ旅立った。
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    すいぎんこ

    DONEブラオス小話。こしのさんの素敵イラストのネタをお借りしました。エリ雄本編とは違うような似たような、なんかふわっとした設定です。友情出演で、今回も🍺がいます。
    一発逆転ジャックポット(ブラオス)「ええと、普段の時給は16ドルです。でも今日はホールなので、もう少し高いとは思うのですが」
     大真面目に答えたオスカーの言葉に、男は珍しいマゼンダ色の瞳を大きく見開いた。その後ろからは馬鹿笑いと称して良い声量の笑い声。最近入ったという怠惰なディーラーの声を聞きながら、オスカーは困惑に眉を下げた。


     時は遡ること数時間前。いつも通りオスカーは己が勤めているカジノに出勤していた。オスカーが今身を置いているカジノは繁華街の路地を入ったところにある、まあ言ってしまえば「あまりよろしくない」類の店で、ブラックとグレーの間をギリギリ綱渡りしているような店だった。
     カジノとしても違法性が高く、バックにヤバい組織が絡んでいると黒い噂があるとかなんとか。それだけ知っていても、身寄りもないストリートチルドレン出身の青年を雇ってくれる貴重な店であるだけに文句は言えず、今日も彼はお仕着せのガードマンの制服に腕を通して配備位置に着こうと従業員通路を歩いていた。
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