甘い酒は果実の如く オロルンの唇を濡らしたのは赤い血。
切り裂かれた隊長の頬から風を切って懐にいたオロルンの顔へ落ちてきた。
かすかにオロルンは肩を揺らす。
しかし。
「オロルン」
呼ばれた瞬間弓を引き絞り、巨大なアビスを顎下から撃ち抜いた。
アビスは原型を留められず霧散していく。
ヒルチャール王者よりも大きな個体へと変化していたアビスは剣で仕留めることが難しく、何より通常の攻撃では特殊な鎧をまとっているようで刃が立たない。
そのため隊長が引きつける間にオロルンが撃ち抜く戦法になった。オロルンの視界ではアビスが纏う鎧の中で一番無防備だったのが顎下だったため、確実に狙うため咄嗟に足下へ座った。
だからこそ、隊長の頬を掠めた血飛沫が偶然にも口に触れた。
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