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    osomatumint10

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    香音人さんと陸ちゃんが写真でわちゃわちゃする話

    Album香音人が愛猫であるシシの写真を撮るのが好きだということは、世界で陸太だけが知っている。
    お腹を仰向けにする野生の欠片もない寝姿だったり、棚の上で黄昏れる凛とした横顔だったり、写真のシチュエーションは様々。スマートフォンの中にシシのアルバムというフォルダがあるのだと、前に香音人自身が画像を見せながら陸太に教えてくれたのだ。
    虐待されていた陸太はアルバムと呼べるようなものを持っていない。見た目を揶揄されるなんて日常茶飯事で、写真を撮られたこともない。日々の成長や思い出を撮り溜めるなんてことが有り得るのかと疑うレベルだった。そのはず、だった。
    けれど、シシの写真を嬉しそうに撮る香音人を見ていると、ある考えが自然と浮かんだ。

    シシの写真を現像して冊子にまとめ、アルバムにして香音人にプレゼントしたい、と。

    電子機器は不意に故障することがあるし、壊れればデータも消えてしまう可能性がある。その点、写真という現物ならばある日突然消えてなくなることはまずない。忘れそうになっても見返して、思い出してあんなことがあったねと笑って、いつまでもずっと覚えていられる。陸太はアルバムを作る意味をようやく理解した。

    「というわけで、写真のデータを借りたいんですけど……」
    「うん。もちろんいいよ」
    おずおずと申し出た陸太に、素敵だねと、香音人はあっさりとアルバム作りを了承した。
    ためらいもなく差し出した手にはいつも使っているスマートフォン。プライベートな情報が詰まっている、大事なもののはずなのに。逆に陸太が心配になるくらいだった。写真データ以外には触らないので、と慌てて付け加える。
    恭しくスマートフォンを受け取り、まずは画像が何枚くらいあるのか確かめようと指でスワイプとタップを繰り返す。シシの写真が入っているであろう、シシのアルバムというフォルダはすぐに見つかった。
    「えっ?」
    見つかったのだが、その横にあったフォルダの名前に陸太は思わず声が出てしまった。

    陸ちゃんのアルバム

    何度読み返しても確かにそう名付けられている。陸ちゃんというのは自分のことであるはず。これは一体?という疑問で、自動的に香音人の方を見てしまう。
    陸太の声でスマートフォンの中身の状態にようやく思い至ったのか、珍しく狼狽えている香音人の両手がうろうろと空を掻いていた。
    「えっと……ね」
    口元を隠して香音人が気まずそうに目を伏せる。綺麗な顔も相まって絵画を切り取ったように見えた。どう説明しようかと迷っているようだ。
    「えっと、見ても……いいですか?」
    「う、うん……」
    陸太は恐る恐る指で画面をタップをしてフォルダを展開する。
    中に入っていたのは紛れもない陸太の写真だった。とは言っても、シシと一緒に写っているのが大半だ。陸太を狙って撮影したというよりも、シシの写真を撮る過程で陸太の映り込みが大きいものをピックアップした、という方が正しいかもしれない。
    「シシを撮るときに……陸ちゃんが入ったやつを消すのが勿体なくて……ごめんね……」
    申し訳なさそうに、香音人の声はどんどんか細くなっていく。さらに両手で顔を覆い、合わせる顔がないことを体現する。
    「あ、謝らないでくださいよ、香音人さん」
    香音人は無断で他人の写真を撮るような人間ではない。それは陸太が一番分かっているし、写真も盗撮の潔白を証明している。
    仮に無断で撮っていたとしても、香音人相手なら許すのにと、こっそり陸太は思う。
    「オレ、こうやって人に写真撮ってもらったことなくて……だから、その」
    謝ることなど万に一つもない。むしろ、陸太は香音人が写真を撮って保存してくれていたことが嬉しかった。
    出会ってきた者のほとんどから馬鹿にされ、母親からは視界に入るなと罵られるのがほとんどで、父親からは無視をされる。そんな扱いをされるのが当たり前だと、陸太は思って生きてきた。
    けれど、香音人は違った。命を助けて、必要としてくれて、その上で自分の姿を大切に保存してくれていた。その事実が与えてくれたのは、虐げられていた幼い頃の自分を包み込むような温かさ。陸太は自分でも微笑んでいるのが分かった。
    「でも、陸ちゃん。写真嫌いだよね……?」
    眉をハの字にして紡がれた香音人の言葉に、また驚く。香音人に写真が嫌いだと言った覚えがなかった陸太は、訳が分からず首を傾げた。
    「ずっと前に、陸ちゃんの写真を撮ろうとしたら「俺なんかよりシシ撮ってください」って言われちゃったからてっきり……」
    陸太は金槌に殴られたような衝撃に頭を抱えた。
    言った。言ったような気がする。正直なところ、記憶ははっきりとしないが、自分なら言いかねない。
    「誤解させてごめんなさい……」
    機微に敏い香音人なら何気ない言葉でも真摯に受け止め、陸太は写真が嫌いだと誤解するのも無理はなかった。
    「でも、良かった。陸ちゃんが写真嫌いじゃなくて」
    入れ替わるように両手で顔を隠して己の発言を悔いる陸太へ、苦笑いを向けていた香音人が表情を和らげる。
    「これからはちゃんと……陸ちゃんの写真を撮ってもいいかな?」
    ストレートな香音人の問い。陸太はバッと素早く顔を上げ、声を出す時間も惜しいと言わんばかりに、首を縦に動かして力強く頷いた。

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