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    uuuu_sa_gi

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    uuuu_sa_gi

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    初めての蘭カミュ
    ※まったく恋の予感もしてないです

    #うた腐リ
    #蘭カミュ
    dutchCamus

    リーマンパロ 蘭カミュ未満友人からのお題
    【蘭カミュでなにかパロ、優雅、夜】


     第一印象、なんかどっかの西洋画みてぇなヤツ。

     週に一回、金曜日の15時から1時間の新規事業会議。中途3年目の蘭丸が新規事業の立ち上げメンバーとして携わって3ヶ月が経った頃。リーダー的ポジションの取締役員から紹介されたのは先月まで海外事業部で主任を務めていたという2歳年下の背の高い男。今月から経営企画部に異動になり、本社で稼働するらしい。加えて新規事業にも携わるとのこと。新設で人手不足の経営企画部、そして新規事業にも抜擢されるとなればそれなりの力量を評価されての異動だろう。向かい合った会議机の正面に座ったそのカミュという男を、蘭丸は会議中何度も盗み見ていた。
     ハーフなのか完全に外国人なのか、瞳は冷たさも感じるアイスブルー。おまけに透き通るようなハニーブロンドの髪は鎖骨に触れるくらい長いが、きちんと手入れがされているのだろう、不潔感は一切ない。先ほど軽く自己紹介をしていた際も丁寧で紳士的な態度に見惚れる女性社員もいた。まぁそんなどっかの国のお貴族様のような見た目と振る舞いをされては、本人にその気はなくとも嫌でも周囲の人たちの関心を集めてしまうだろうなと感じた。結局社会人なんてのは他人からの評価が一番だ。一人黙々と仕事をこなしていても周囲と良好な関係を気づけていなければ出世の道は遠い。逆にコミュニケーション能力があれば多少業務上の能力不足があろうとも驚くほどにスイスイと上り詰めていく。
     さてこの男はどうだろうか。ただの外面だけか中身も伴っているのか。見極めて、利用できるようなら親交を深め、ぜひその名の力を自分の出世にお借りしたいものだ。蘭丸はさりげない仕草で口元を隠すと、不敵な笑みを浮かべた。

     第二印象、いけすかないヤツ

    「カミュさん、黒崎っていいます。今日からよろしくお願いします。俺の方が年上ですけどここはまだ3年目なので気軽に接してください」
     完璧な好青年ーといってももう28だがーを演じてお貴族様に近づく。
     会議終わりの16時。軽く休憩にと喫煙室へ向かう社員も多いこの時間。少しくらい雑談をするなら良いタイミングだろうと蘭丸は自席へと戻る途中のカミュに話しかけた。隣に並ぶと相手の方が少しだけ背が高く、それにあの煌びやかな見目のせいで会議室で見ていたよりも迫力があった。しかしその雰囲気に押されてなるものかと蘭丸は果敢に攻める。これも全て出世のためだ。
     蘭丸の呼びかけにカミュは返答より先に静かに視線を向けた。その時のカミュは仕事とは全く関係のないことー疲れた体に糖分を大量摂取する方法ーで頭の中が埋め尽くされていた。それが災いしたのだろう。ほぼ無意識に向けた顔に仮面をかぶることを忘れてしまっていた。そして口も勝手に動いてしまっていた。
    「……ふっ、たんぽぽあたま」
     一言そう呟くと、カミュは蘭丸を廊下に残し、一人優雅に自席へと戻っていった。
     残された蘭丸は自身の目と耳を疑った。向けられた顔は先程までの西洋画然としたものとは打って変わって他人を見下し小馬鹿にしたような冷たいもので、その口からは別人かと疑いたくなるほど低い声が発せられた。しかも恐らく悪口。
     蘭丸の頭の中で『たんぽぽあたま』というワードが回り続ける。徐々にそれを噛み砕いていって何度も考え直してみてもそれは悪口以外の何物にも思えなくて。蘭丸の中で沸々と怒りが湧き上がってくる。わなわなと体が震えてくる。その衝動を抱えたまま自席に戻ると、つい乱暴にPCを置いてしまった。叫び出さないだけ許してほしい。
    「ちょ、ちょっとらんらんどうしたの?」
     会社の借用品なんだから丁寧にね、と隣の席の上司が窘める。
    「……く、っっそムカつく、ので、ちょっと頭冷やしてきます」
     蘭丸はできるだけ声のボリュームを落として上司にそう告げると、返事も聞かないまま執務室を後にした。

    第三印象、変人

     あれから数日経ったがカミュからの謝罪などは一切ない。あの時の態度をどう弁解してくるのか楽しみにして一旦は怒りを鎮めたが、謝罪に来るどころかあれから一度も言葉を交わしていない。
     蘭丸も『アイツに暴言吐かれました』なんて子供じゃあるまいし恥ずかしくて誰にも相談できないでいた。アイツの本性を知るのは恐らく自分だけ。他の社員は皆カミュの“外面”に騙され群がっている。特に休憩時間や業務後などには女性社員からは囲まれていたりもする。蘭丸はそんな様子をみかけては「早く化けの皮が剥がれちまえ」と呪いをかけ続けていた。

     そしてあれから一週間が経とうとしていた。明日はまた新規事業会議でカミュのヤロウと嫌でも顔を合わせなくちゃならない。それならいっそあの場でどうにか本性を暴いてやるのも面白いな。
     そんなことを考えながら蘭丸は自宅まで帰りつき鍵を開けようとした。しかしいつも入れている場所を確認しても、普段は入れない上着やズボンのポケットを探ってみても鍵はどこにも見当たらなかった。どこかで落としたのだろうか。電車か道中か。もしかしたら会社かもしれない。誰かまだ会社に残っているだろうかと考えてみたけれど、今日は珍しく上司も先に帰っていた。他に誰か残っていそうなヤツは…思い浮かべながら社用スマホを確認すると一件の通知が来ていた。確認すると、総務部からの落とし物の周知。まさかと思い急いで詳細を見ると、まさに蘭丸の自宅の鍵だった。社員用ロッカーの近くに落ちていたとのことで、今は警備室に預けてあるらしい。
    「あぁ! くそっ!」
     もう自宅は目の前だというのにまた会社に戻らなければならないのか。それもこれもアイツのことを考えていたせいのように思えて、思わず舌打ちをしてしまう。このままホテルにでも泊まるかとも考えたが、そんな贅沢はできないと頭を振って切り替え、蘭丸は走って駅へと戻っていった。

    「お世話になりました」
     本社ビル一階の警備室で自宅の鍵を受け取った蘭丸は、腕時計を確認しため息をついた。もう22時を過ぎてしまっている。せっかく今日はそんなに残業もせず上がれたというのに。さっさと帰って風呂入って寝たい。日々鍛えているとはいえ、家と会社の二往復はさすがに疲れた。
     先ほどよりも幾分か重たい足取りで踵を返した時だった。視界の端に映ったものが気になって蘭丸は反射的に振り返った。
     警備室の向かい側、同ビル内のコンビニに、とても見知った姿が一人。今日も薄いグレーのスーツを身に纏った長身のお貴族様。あの見た目とコンビニってなんか不似合いだなと蘭丸は興味を引かれる。それにこんな時間まで残業しているとは知らなかった。
     気づいた時には足はコンビニに向かって動き出していた。
     向こうは自分のことなど気にもしてないだろうけど鉢合わせるのは気まずくて、こっそり遠くから様子を窺う。てっきり夕飯でも調達するのかと思っていたが、彼が立っているのはお菓子コーナー。ラックにかけられたグミの袋を一つずつ手に取っては即座にカゴへ入れていく。1、2種類ではない。そのコーナーにあるもの全種といっても過言ではない。蘭丸はそれを近くの飲料コーナーから盗み見るつもりが、あまりのことについつい凝視してしまった。
     次に彼は冷ケースへ向かった。冷凍コーナーの飲めるラクトアイス。そして冷蔵コーナーの練乳をカゴへと追加する。その光景を目にした蘭丸はさらに興味が湧いてしまった。いくら甘党でもあれはさすがに量が多すぎる。もしかしたらアイツ個人で消費するのではなく、誰かに配ったり何かを作ったりするのかもしれない。それを今調達しているということは社内で何かが行われているのだろうか。
     蘭丸は一刻も早く帰宅したい気持ちも忘れ、執務室へと戻るカミュの後を追うことにした。その顔は好奇心に満ち溢れていた。

     しかしまだカミュ本人にバレてしまうのは大変気まずい。十分な距離を保って後を追う。社員証をかざして入室する時の音でさえ、この静まり返った廊下には大きく響き渡る。カミュが執務室に入ったであろう時間の余裕をたっぷりとって進んでいく。
     そしていつもの倍以上時間をかけて辿り着いた執務室は、蘭丸の予想に反してとても静かだった。電気がついているのは部屋の4分の1程度で、恐らくその島はカミュの自席があるところだ。賑やかな声も聞こえない。ということはあの大量の菓子は一体なんだったんだ。蘭丸の脳内には疑問が浮かび上がるばかり。しかしせっかくここまで来たのだ。遠くから少し様子を探ってみるか。
     蘭丸が執務室に足を踏み入れた瞬間だった。
    「あの能無し愚民めがっ…!」
     バンっとデスクを強く叩くような音と共に、大変恨みの籠った怒鳴り声が聞こえた。それはあの日から繰り返し蘭丸の頭の中に巡る低い声と同じ。十中八九カミュのものだ。
     蘭丸の好奇心は最高潮に高まっていた。あんな暴言を吐くということは一人で残業しているということ。それに“能無し愚民”が一体誰のことを指しているのか、それが気になって仕方なくなった。本当は隠しておきたいだろうその本性を他人に知られてしまったとしたら、アイツはどんな顔をするだろうか。これをエサにあの時の謝罪をさせ暫くこき使ってやるのもいい。蘭丸はもう躊躇うことなくカミュのところへと向かっていった。

    「愚民なんて言葉使うかよ普通」
     蘭丸はカミュのデスクの向かい側から声をかけた。もう変に好青年を演じる必要もない。最初に失礼な態度をとってきたのはカミュの方だ。だからこちらも自声でいかせてもらう。自分の存在に驚いた間抜けな顔を見せてみろ。咄嗟に面白い言い訳でもしてみろ。蘭丸にはカミュを嘲笑う準備が整っていた。
     しかし相手の反応に戸惑ったのはカミュではなく蘭丸の方だった。
     モニターの向こうからチラリと視線だけ上げて蘭丸を見遣ったカミュは、驚く素振りなど全く見せなかったのだ。まるで壁のシミでも見るくらいに興味のない瞳。そしてすぐにその目線はモニターへと戻される。
    「愚民に愚民と言って何が悪い」
     相変わらず腹の底に響くような低い声。蘭丸は思わず声を荒げてしまう。
    「お前なんで俺にはそんな態度なんだよ!」
     ガキくさいとはわかっていても止められなかった。カミュに対する感情はシンプルだ。ムカつく。ただそれだけ。こんな単純な憤りは小学生以来、いや、生まれて初めてかもしれない。
     カミュはそんな蘭丸の怒鳴り声にもまた、つまらなさそうな視線を投げるだけ。
    「貴様ごときに気を遣ったところで俺の利益にはならんからな」
    「なっ……!?」
     蘭丸はカミュの席の方まで回り込み、衝動的にその胸ぐらを掴みそうになった。が、それは社会人として自分にデメリットしかないと、ギリギリのところで踏みとどまった。怒りのあまり歯を噛み締める蘭丸を、あの時のような他人を見下したような目で見て、口元には冷笑を湛えるカミュ。
    「貴様は黒崎蘭丸といったな。中途3年目の平社員。営業2課所属。以前働いていたところが倒産してウチに来たらしいがコネクションもなし。この業界も初めてならば貴様など恐るるに足らん」
    「おまっ、なんでそんなこと知ってんだよ」
    「社員の情報は知っていて損はない」
     カミュはふいに手元にあった練乳のチューブを取ると、蓋を開けてそのまま口に咥えた。そして片手でチューブを握り込む。蘭丸は顔を引き攣らせた。練乳を直接飲む人間になんて出会ったことがなかったからだ。信じられない光景に体が固まる。しかしそんなことなどお構いなしにカミュは再び忙しそうにキーボードを叩き始めた。
     数秒後意識を取り戻した蘭丸は、苛ついていた気持ちも思いだし、カミュにもう一度噛みつく。
    「俺がテメェの本性を暴露することだってできんだからな」
    「ほぅ、それは面白い」
     カミュは初めて蘭丸に興味を持った目を向ける。くるりと椅子を回転させ蘭丸の方へ体を向ける。腕を組み、足も組んで見上げてくる様はとても偉そうで、さらに蘭丸を苛つかせる。
    「やれるものならやってみるといい。誰も貴様の話など信用しないと思うがな。俺が普段の行いで得ている信用、それを塗り替えられたなら褒めてやる」
     時間の無駄だと思うがな。カミュは最後にそう付け加え、髪をわざとのように靡かせながら体の向きを直した。蘭丸の苛つきは沸点に達し、やり場のない衝動で地団駄を踏みそうになる。だけどそれもガキっぽくて悔しいので、爪が食い込むほどに拳を握り込んでやり過ごすことにした。一番腹立たしいのは、カミュの言っていることは間違っていないということ。カミュがあの外面で築き上げてきた信用というネットワークに、今の蘭丸では勝てっこない。最悪の場合、自分の方がカミュを侮辱したと批判される可能性もある。だからここで言い負かすこともできない。
    「いつかぜってぇテメェのその鼻へし折ってやるからな! 覚悟しとけ!」
    「いつかがくるといいな、たんぽぽあたま」
     鼻で笑われ蘭丸はまたカチンときてしまう。このままではひたすらストレスが溜まるだけだ。もう帰ろう。蘭丸は足を踏み鳴らしながら執務室から退散することにした。だけど最後にもう一度カミュを振り返る。
    「おい、能無し愚民って誰のことだよ」
    「加藤部長のほかに誰がいる」
     経営企画部所属のもう一人、加藤部長。他部署で小さなヘマを繰り返していたことは蘭丸の耳にも届いていたが、なにせ起業当初から在籍しているような古株。新部署設立の人員として抜擢という名の島流にあったようなものだと蘭丸の上司が言っていた。だけどまともな働きが期待できず、上はカミュを引き抜いてきたというとこだろう。無駄にプライドの高い加藤部長のことだ、カミュの存在が気に入らず仕事を押し付け自分は先に帰ったのだろうと容易に想像できた。蘭丸は関わりはないがそういう人間は好きじゃない。だから早くカミュに役割を奪われてしまえばいいと思う。
    「テメェも大変だな。ま、精々頑張れよ」
     その言葉にカミュが珍しく目を丸くしたことを、すでに背を向けてしまった蘭丸は知らないのだった。
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