現実のエが落ち着くデュの話 夢を見た。すぐに、先日ドラコニア先輩に眠らされていた時と同じものだと気付いた。
夢の中で、僕とエースは相棒だった。僕は〝スペードの一番槍〟、エースは〝ハートの斥候〟なんて異名で呼ばれていた。数え切れないほどの他寮生を共に本のカドで殴った。夢でのあいつも中々にムカつく奴だったが、現実とはとても比べ物にならない。それを指摘すると、エースは真っ黒でドロドロした何かに変わっていく。
「オレたち、マブ……じゃん……」
違和感だらけの言葉を残しながら黒いドロドロ——エースだったものは消えていった。
違う。違う。違う。俺も違うし、お前も違う。俺たちはもっと———。
「ふごっ」
息苦しさに目が覚めた。
「おはよ、優等生」
すぐそばにエースの顔がある。僕は鼻を摘ままれていた。
「らにしてんだ、えーす」
「お前、歯軋りうるせーからさ、もしかして口で息してんのかなって確かめたくなったの」
エースの手がぱっと離れていく。いちいち嫌な言い方をする、いつものエースだ。
「てか、始業三十分前だぜ。週初めから寝坊だなんて優等生が聞いて呆れるわ」
「何だって!?」
飛び上がって時計を確認する。本当だ、やばいぞ僕。遅刻しちまう。そういえばエースは制服姿で、鞄も持って登校の準備万端である。
「オレ先行ってるから。あ、遅れてもクルーウェルにはちゃーんと言っといてやるから安心しろよ。ゲームで夜更かししてました、ってね」
ニヤニヤ笑いながら息をするように僕を馬鹿にするエース。あんな夢の後だからか、それがかけがえのないもののように思われる。いつもはムカつく態度も愛おしく感じて、無意識の内に立ち上がりかけたエースの鼻を摘まんでいた。
「あにすんだ、でゅーす」
「仕返しだ」
すぐに手を放してやるが、エースの鼻は赤くなった。目も赤ければ鼻も赤い。心なしか頬まで赤い。このエースは例えドロドロになったとしても、チェリーパイの中身のように甘酸っぱい味がするに違いない。
それを口から零すと、何ソレ意味わかんないと返される。ぷいっと顔を逸らしたエースは振り返らずに行ってしまった。部屋の扉が閉まり、パタパタと足音が遠ざかっていく。
そうだ。俺たちは——僕たちは、これでいい。デュースは満足気に目を細めた。