かけがえのない君へ僕は歩くのが好きだ。色々な景色を見て回って、そこで会う人々と他愛のない会話を交わす。一期一会の出会いにかけがえのない喜びを感じるのだ。
いつものように依頼を済ませ、スメールシティをぶらぶら歩いていると、遠くから聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
「セトスーーー!!!やっと見つけたぞ………」
振り向くと、セノが息を切らしながら走ってきた。よほどの急ぎの用事なのだろうか。体力のある彼がここまで疲れているのは珍しい。
「セノじゃないか!そんなに急いでどうしたの?」
「お前を探していたんだ…お前はすぐどこかへ行ってしまうからな。人に聞いて回ってやっと見つけた。」
「ごめんごめん。わざわざ探しに来てくれたってことは大事な用?もしかして教令院関係とか?」
探し回らせて申し訳ないと思いつつ、仕事のことならば早急に済ませなければ、と身構えながら尋ねると、
「いいや。今夜、いつもの男たちと飲みに行くんだが、お前も来ないか?」
返ってきたのは意外すぎる答えだった。
「………へ?飲み?もちろん空いてるけど…」
わざわざ街中駆け回ってまで誘いに来てくれたのか?
以前もセノから飲みに誘われたことがあるが、その時はたまたま側に居合わせたからだった。
飲みの人数合わせなら大得意だ。
初めて会う人とでもすぐに話を合わせられるし、盛り上げられる自信がある。
話のノリで誘われることは数え切れないほどあれど、初めから自分を必要として声をかけられることはなかった。
そもそも僕は身の上を明かせないから、初めて会った知らない友達くらいの距離感で付き合うほうが都合がよい。
「よかった。お前はいつも忙しそうに走り回っているから、また予定がある〜と断られるかと思っていたんだ。予約の人数を変えずに済みそうだ」
セノは僕の返答を聞いて明らかに安堵した。
自分が最初から人数に入れられていることが不思議でたまらず聞いてみる。
「これは興味本位なんだけど、なんで僕を誘ってくれたの?セノには友達が多いし、僕よりも誘いやすい人はたくさんいるはずだよね?」
セノはきょとんとして、不思議そうに返す。
「何故って、俺が誘いたいから誘った。それだけだ。俺達は友人であり兄弟だからな。」
「兄弟……………」
僕には今までじいちゃんしかいなかった。
血縁者はおらず、外界から閉ざされて生きてきた。
じいちゃんがいなくなった今、僕の中の深い繋がりはセノにしか存在しない。
「兄弟かぁ………そうだよね!ありがとう、セノ!これからも僕を誘ってくれていいよー!」
生まれて初めての仲良しを超えた関係に、むず痒さとにやけが止まらない。たまらずセノをぎゅっと抱きしめた。
「ああ、もちろんだ。」
セノは慣れないハグに少々照れつつもセトスを受け入れる。
人の温もりを確かめるように、二人はしばらくの間抱きしめ合っていた。