カーヴェ生誕祭20247/7昼下がり
カーヴェは、仕事の気分転換にウインドウショッピングを楽しんでいた。その中でも、グランドバザールで人気のアクセサリーショップは特に気に入っていて、定期的に足を運んでいる。シンプルなものからゴージャスなものまで多種多様のアクセサリーが揃っており、彼にとってインスピレーションの宝庫だ。
いつものようにアクセサリーを眺めていると、よく見知った姿…こことは縁遠い存在の男が視界の端に映った。驚いたカーヴェは、反射的に名前を叫ぶ。
「アルハイゼン！？！？」
「はぁ………声が大きい。耳障りだ」
アルハイゼンは、一本道でセミの集団に出くわした時のような、心底嫌そうな目をカーヴェに向けた。
「す、すまない。つい声を荒げてしまった…
君にこういうものを楽しむ心が残っていることがあまりにも意外でつい」
形式上の謝罪と精一杯の皮肉を投げる。
完全に興味をなくしたアルハイゼンは、カーヴェからアクセサリーに目線を戻した。
「おい！無視をするな！というかなんでここにいるんだよ。もしかして誰かにプレゼントか？珍しいな！」
「勝手に話を進めるな。自分用だ」
そう言いながらイヤリングを次々と手に取っては戻す。相当迷っているようだ。どれもゆらゆらと動く大きめのもので、アルハイゼンの好みとはかけ離れている。見かねたカーヴェは声をかけた。
「そうだよな〜他人に興味のない書記官様が贈り物なんてするわけないよな！
じゃあ、僕が君にピッタリのイヤリングを選んでやろう！」
「ほう？では任せよう」
断られるかと思ったが、すんなりと承諾の答えが帰ってきた。自分のものだしなんでもいいのだろう。そうと決まれば、最高に似合うものを見つけなければ！
カーヴェはアルハイゼンの手を引っぱり、店内を連れ回し始めた。
「君はじゃらじゃらした装飾品で飾り立てるよりも、シンプルなほうが映えるはずだ。いいやつがあるぞ」
次々と耳にあてがっては戻して、ぴったりのものを探していく。アルハイゼンはされるがままだ。長時間拘束されているのにも関わらず、帰りたがらないのも珍しい。普段は「無駄」の一言で拒否されるはずのアクセサリーに興味を持ってくれた。その事実が嬉しくて、時間を忘れてショッピングを楽しんだ。

7/9 朝
トースターのチン！という音で目が覚めた。
パンが焼けるいい香りが部屋中に広がる。
寝ぼけ眼でリビングに出ると、アルハイゼンが朝ごはんの支度をしていた。
「おはよう、アルハイゼン」
「おはよう、カーヴェ。もうじき朝食が出来る。顔を洗ってくるといい」
顔を洗い、身支度を整えてテーブルにつく。サラダにフルーツにオムレツ…今日は朝から豪華だ。
アルハイゼンが二人分のサンドイッチを持ってやってくる。朝食の準備が終わって、食べ始めるかと思いきや、彼は何かを思い出したかのようにおもむろに席を立った。
「少し待っていてくれ」
程なくして、何かを手に持って戻ってきた。
小さな箱………どこかで見たような…………
「カーヴェ、お誕生日おめでとう」
中には、先日自分が選んだイヤリングが入っていた。緑色の宝石があしらわれたシンプルなシルバーのイヤリングだ。
「これ、僕が選んだものじゃないか！？自分用って言ってたよな！？」
「プレゼント用と正直に話すと君は詮索するだろう。元から店員に聞くつもりだったからな。ちょうどよかった」
「お前なぁ…！！ちょうどよかったじゃなくて！君のために選んだんだぞ！！自分で選んだのを自分につけるなんて意味わからないだろ！これは君にあげるよ」
「いいや、君へのプレゼントだ。アクセサリーショップでの時間は案外退屈しなかった」
「はぁ…君ってやつは本当に素直じゃないな。たまにはこういうシンプルなのもいいか。君だと思って着けるよ。ありがとう」
冷めた朝食を横目に、二人は熱いキスを交わした。

Happy Birthday Kaveh