楽器演奏の話(🪐⏳☔カプなしの予定)――♪♪―――♪
音が重なって、また離れて。それぞれが場面に合った役割をこなしては手を取り合うように、時に競い合うように混ざり合っていく。そうして奏でられる音が鼓膜を揺らすたび、音楽に全くと言っていいほど疎い自分にもそれは心地よく感情を揺さぶる何かがあるとわかった。
(演奏もそうだが、絵面がえげつねぇな)
レインは音色から意識を離すとちらりと演奏する同僚達を見た
流れる星のように煌く高音はランスが息を吹き込むフルートから。大地を滑る温かく豊かな中低音はオーターが上品かつ丁寧に弦を震わせるチェロから、それぞれ発せられている
演奏に没入する二人は伏し目がちに真剣な顔をみせており、いつもの不遜な態度は鳴りをひそめている。彼らの趣味の域を遥かに超えているであろう音色に劣ることなく本人達もため息が出るほど美しい。彼らの普段の中身を知らない人々が見たらきっと涙を流して震える口を押さえるだろう
(そういえばコイツら、顔と教養だけは一級品だった)
生憎、自分は二人のなかなかにクセの強い内面をよおく知っているので涙までは流せないが、他に観客のいないレインの為だけの演奏会を贅沢に独占しているのはなかなか気分がよかった
そうこうしているうちに音は止み、彼らも楽器から手を離すと同時にレインに視線を向けた
礼儀として一応拍手を送る。この演奏は金を払ってでも聞く価値があり、実際そうしたい人間が山程いるというのは分かる。だがレインの持つ教養と興味では「素晴らしかったです」と感想を表現するのが精一杯だったし、彼らも彼らでこちらのリアクションなどあまり気に留めていないようなので他には特に何も言わず二人が楽器をしまい終えるのを待った
きっかけはただの雑談だった
休憩室で「普段兄弟と何を話している」とオーターからの質問を受けたレインが、最近楽器に興味があると言っていたフィンの話をして、ちょうどやってきたランスも交えて二人が音楽経験者だということがわかった。レインは楽器というものに触った経験もなければ音楽もよくわからなかったので聞いてみたいとそう零した一言で急遽、終業後にこの小さな演奏会は開催されたのだ
「そんな、楽譜…?とかもなくて急に合わせられるもんなんですか?」
「今回みたいな簡単なメロディーなら即興でどうとでもなる。それに主線は高音のフルートだ、私が合わせてやれば形になる」
「おい、途中からイヤにクセの強いオブリガード挟んできたのは誰だ?付き合ってやったオレに感謝してほしいくらいだ」
師弟の言い合いが始まった
レインには二人が言っていることはさっぱり分からないが、あのメロディーが簡単ではないことと、オーターのクセが強いらしい演奏についていける人間はそんなには存在しないだろうということは十分理解できていた