お題:横顔 ボーダーの隊員であれば気づかないはずがない視線。いや、これだけあからさまな視線を送って気づかなければ、逆に心配になるレベルには見ている。そして、気づかれているとわかっていても、つい見てしまうのは仕方がなかった。
個人ランク戦を繰り広げるA級上位の隊員たちが映し出されるモニターを真剣に見ている出水を、烏丸はじっと見ていた。モニターの中では出水と同じ隊の太刀川が、烏丸と同じ玉狛所属の迅と楽しそうに戦っている。出水も元々戦いには積極的な性格だけに、モニターの向こうが気になって仕方がないらしい。
そもそも烏丸がモニターではなく出水を見ているのには理由があった。
最近A級へと戻ってきた迅と戦えるのが嬉しいのか、太刀川は時間さえあれば迅をランク戦に誘っている。そして強い者同士の観戦はA級だけでなくB級やC級にも大きな影響を与えているらしく、観戦希望者が後を絶たない状態だった。時間が合えば出水も見ているのが現状だ。そこまでは良かった。
問題は出水と一緒にいられる時間が明らかに減ったことだ。もちろん予定が合わないことも多いので、会えないことに文句を言うほど子供でもない。けれど、会えるはずの時間が減ったことを許容できる程大人にもなり切れていなかった。少なくとも出水にとっては烏丸よりも優先するべきことなのだと、そういわれているようだった。
「……京介」
「はい」
「おまえ、見すぎ」
「ダメですか?」
二人で会う時間を我慢しているのだから、顔を見るくらいは許してほしい。それが烏丸の言い分だ。それすらも許してもらえなければ、力ずくで連れ帰ろうとも思っているくらいには烏丸も限界だった。
「ダメ」
「だったら!」
「あのな、これでも我慢してるのはおまえだけじゃねえの。最近太刀川さんにすぐ京介んとこに行くって言われて、多少は本部にいるようにしてんだよ」
「え……」
「だから、ちょっとだけ我慢しろよ。夜は時間作るから」
モニターから視線も逸らせず、そう告げられた出水の耳は少しだけ赤い。頑なに視線を合わそうとしないのが照れている時だと知っている烏丸は、仕方がないので出水を見るのを諦めた。前方にある大きなモニターには太刀川と迅の様子が映し出されている。その様子を今更ながらに見始めた烏丸の横顔を出水がチラリと盗み見ていたことには、あえて気づかないフリをした。