ボクに落書きしたのは。人形というのはいつか遊ばなくなって忘れられる。どんな人形と遊んだのか、どんなふうに遊んだのか、付けた名前すら忘れるのだから。
ニンゲンは、自分がされて嫌なことは相手にしないと教えられるのだそうだ。
なのに、人形というだけでボクらには何をしてもいいと思うのだろうか。
「赤、青、緑に、紫、さあ、今日は何色のメイクにする」
ヤメロ、ボクは女の子じゃない。
ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ。
どんなに叫んでもボクの声はニンゲンには届かないらしい。どんなに逃げたくてもこの体は自由には動かないらしい。
「キレイキレイ。」
そう口にして、軽い足取りで部屋を出ていくこの部屋の主を見送った後、ボクはようやくホッと息をついて休めるのだ。
来る日も来る日も、綺麗にペンのインクを取られることはなく別の色が肌に線を描く。
痛い、痛いって、痛いって言ってるだろ
それでも、やっぱり声は届かない。
来る日も来る日も、続いたそれはある日パタリと無くなった。部屋の主は部屋の外で過ごすことが増えボクに見向きもしなくなった。
しばらく平和な日々を過ごしたけど、ある日突然捨てられたことに気がついた。
あぁ、ボクは必要じゃなくなったのだと気がつくと怒りがふつふつと湧き始めた。
ボクに散々落書きをして、忘れるなよ。
痛かったんだ、嫌だったんだ、毎日毎日…
ボクは男の子だって言っていたのに
ユルサナイ…。
ユルサナイ。
お前のことはずっと、ボクが覚えている。
「ボクに、ラクガキ、ダーレダ」
お前が忘れているなら、何度でも思い出させてやる。
「オマエ。」
オマエ、オマエ、オマエ。
二度と忘れないように、言い続けてやる。