藤堂さんと。「愛してるってお互い言い合って照れたほうが負けっていう遊び知ってる」
日中、見回りの時に寄った茶屋で客の女たちがそんな話をしているのを耳にした。
そういやぁ、お前からはその言葉はあまり聞けないまま今日までやってきた気がする、ぼんやりと考えながら土方さんのところへ報告へ行くと、ぼんやりしている場合じゃないとイライラした様子で叱られた。
「…そんな、怒んなくていいだろ…。」
部屋を出て小さく呟くと、その耳すら土方さんの耳に入ったのだろう、「平助、何か言いたいことがあるなら入ってこい。」と障子越しに声が掛かって、思わず返事の声が裏返った。
「…ったく、土方さんは地獄耳だよなぁ、どこに行ってもこれじゃ気が抜けな…っと、悪い。あぁ、お前か。」
慌てて部屋を通り過ぎ、自室に戻る途中お前にぶつかった。謝罪の言葉を口にするも、お前は不満そうに「私ではご不満ですか」と頬を膨らませる。
「…そうじゃなくて、ちょうどお前に用があったんだよ。後で茶を持ってきてくれるか手が空いたときでいいからさ。」
俺はこれから自分が好いている女に聞こうとしていることが急に恥ずかしくなって早口にそう告げてその場を離れた。
程なくして、お前はやって来た。
「藤堂さん。」
と控えめな声をかけて。
「入ってくれ。…でさ、唐突なんだけどお前今京の町で流行ってるらしい、愛してるってお互い言い合って照れたほうが負けっていう遊び知ってるか」
俺の問いかけに、女の茶を置こうとしていた手が止まる。
「いや、俺も今日ちょうど耳に挟んだんだだけなんだけど、その、なんつーか…俺ばっかり言ってる気がして、お前の気持ちが知りたいっつーか、そのそうっそうなん「藤堂さん。」なんだよっ」
「愛しております。」
「なっ…」
俺の必死な言葉を遮って、お前は真っ直ぐに俺を見つめて言うものだから、息が止まるかと思った。
「おまえその、不意打ちはずるいだろっもう一回だ、もう一回。俺から言うからな。…愛してるよ、ずっと、ずっとだ。」
「私も愛しております。…ふふっ、」
こんな昼間から、このように真剣な顔で何をしているのか、土方さんがいらしたら大変なことになりますね。
お前はそう言うと、ほんの少し赤らんだ顔を手で覆うのだった。