彼羽織とワスレナ
斎藤「無いと思えばここにあったか。いや今宵は冷える羽織っていろ。」
今から届けに向かおうと思っていたのですが、と洗濯物を畳んでいる下女ちゃんが言うと、そのまま着ているよう手で制止する。
「何だか、皆さんの仲間になったみたいですね。」なんて下女ちゃんが言えば、「仲間だろう。お前が皆の世話を焼かなければ、皆飢え死んでいたかもしれない。」なんてすごく真面目な顔で言う斎藤さん。その真っすぐな言葉に笑顔を返そうとするも上手く笑えない下女ちゃん。
「…何だその顔は。」
「いえ、嬉しくて。」
「答えになっていない。」
それでも涙が止まらない下女ちゃんをちゃんと抱きしめてくれる斎藤さんでした。
藤堂「なんか、ちんちくりんに見えるな。あはは、嘘だよ、あんまりにもちんちくりんすぎて守ってやりたくなる。」
にっこりと笑顔を浮かべそう言う藤堂さんに対しなら、そばにいてもらわないと困りますね。なんて下女ちゃんは言うし、その言葉には含んでいるものはないものの、自分がそう遠くない未来新撰組を出るだろうと考えてる藤堂さんはうまく返事をできない。
「…藤堂さん」
「あ、いや、あははっ。なんか求婚されたのかと思ってびっくりしちまって。」
「求っ、」
求婚なんて言葉を出して、うまくはぐらかす藤堂さんと、案の定顔を真っ赤にして固まってしまう下女ちゃん。
そんな下女ちゃんを見て、本当にずっとそばにいられたらどんなにいいだろう、って思う藤堂さん。
「ま、いざとなったらその隊服貸してやるよ。それさえ持ってたら新撰組が守ってくれるからさ。」って言う藤堂さん。決して自分が守るとは言わない藤堂さん。
沖田「僕の羽織を羽織るなんて」
いい度胸してますね、なんて冷たく言う沖田さん。返してください、の言葉にすみませんとつぶやいてすぐに沖田さんに渡す下女ちゃん。
本当は、移したくないんです、君に。
そう言ってしまったら良いのに、そう言えば下女ちゃんは余計に悲しい顔をするだろうし、何より自分が病を認めるのがとても辛いから言えない。
「沖田さんの羽織、沖田さんの香りがしてすごく安心しました。」
その発言に、びっくりして「は何言ってるんですか変態なんですか」って返すしかない沖田さん。
永倉 「なんか、本当に小鳥みたい。お願いだからどこにも行かないでね」
小柄な体に、大きな長倉さんの羽織その姿があまりにも愛しくて、後ろからぎゅっと抱きしめる永倉さん。
「私にはここ以外行く場所なんてないですよ。」って笑って返事をする下女ちゃんに「そっか」って切なそうに笑う永倉さん。
下女ちゃんの体の異変に気づいたのは少し前、下女ちゃんがそれに気づいているのかはまだ永倉さんにはわからない。
「そんな、悲しそうな顔しないで下さい。こう見えてわたさ、逞しいので」
って出来ない力こぶを作って笑う下女ちゃん。
「うん、そっか…そうだね。小鳥ちゃんはずっと俺のそばにいるって決めてるんだね。」
ってもう一度きつくきつく下女ちゃんの体を抱きしめる永倉さんでした。