それが罪だというのなら今、僕は恋をしている。
僕の中の僕に。
それが罪だというのなら
自分を愛するってどんなことなのだろう。
***
翔ちゃんが教えてくれた。
僕にはもう一人の僕がいる。
名前は砂月。
きれいな名前だ。
でも、思い出したくない言葉だった。
僕と僕の記憶は
ひとつに繋がって。
僕は、気付かずに失っていた時間を
僕は、閉じ込めておかなければならなかった感情を
取り戻した。
***
僕が眠るときには眼鏡を外す。
外した後は本当に眠ってしまうことも
起きていて僕のその後の行動を見ていることもできる。
これまでに意識したことの無い感情。
叩きつける拳や蹴り上げる足の甲に伝わる破壊の感覚。
どれも自分のものなのに、
どこか自分のものでないような不思議な感覚。
水の中に居るみたいだと、いつも思う。
僕は眠ったまま、僕を護る人の目で世界を見る。
世界はこんなにも様々な感情に溢れている。
これまで読み取れなかった細かな感情が見える。
眼鏡越しの世界は以前と変わらず穏やかで、悲しいことも、不安なこともない。
みんなにこにこしている。
同じ僕なのに
向けられる感情も与えられる言葉も態度も
こんなにもちがってしまう。
世界はおだやかで、世界はこわい。
いつからか、僕は眼鏡を外すのをやめていた。
こわいから、僕は僕を閉じ込めた。
あの日のように。
でも、今度は眼鏡を渡して、僕にもちゃんと世界が見えるようにした。
押し付けるみたいな入れ替わりは、もう、しなくていい。
僕に護られている世界がすき。
ここから見える世界は、悲しいことも不安なことも、水の中の出来事の様で、穏やかな世界だと思う。
僕は、僕と一緒に居る時間が一番幸せ。
今、僕は恋をしている。
僕の中の僕に。
それが罪だというのなら、その罰を喜んで受けようと思う。
自分を愛するために。
僕と半分こで。
僕たちはひとりで、僕達はふたり。