着いても気付くまでそのままだった この日、出かけないか?
いつもの補習を受けた後、引きこもりの先生が珍しく外出の提案をしてきた。ちなみに食事の仕込み中にシノの補習は終わっていたのでマンツーマンである。逃げ道はなかった。
この日、と示された日のスケジュールを頭の中で確認する。その日はちょうどカナリアと賢者が食事を担当する日。二人、特にカナリアの料理は段々と上達しており、大変そうなものは朝に仕込みをして引き継いでおけばいいので、そのまま了承の旨を伝えた。
「よかった」
「何か買いたい物がある感じ? どこに出かけるかは決まってんの?」
「あぁ」
「じゃあ俺は着いてけばいいのか」
「まぁ、そうだな」
そのまま、何時に出るのか、必要なものはあるか等を確認して、その場は解散になった。次のテストは○日だからな、忘れるなよ、と釘を刺すのも忘れずに。
「忘れ物はないか?」
「ん、大丈夫だよ」
それを聞いたファウストは箒を出して跨る。ネロもそれに倣い自分も箒を出そうとする。すると、ファウストはネロを見てほら、と手を差し伸べた。
「行くよ」
「え?」
「ここ」
察しの悪いネロにファウストは隣を指す。
「え、一緒に乗るの嫌じゃねぇの?」
「別にきみならいいよ」
任務の後はせんせー、乗せてよーと気だるそうに言っている彼が、いざ乗せるとなるとおずおずと、オネガイシマス、なんて縮こまる姿にファウストは笑みを溢す。ファウストは隣にネロが乗ったことを確認して箒を空へと飛ばした。
この箒の持ち主に合わせて横向きに乗ったネロは、慣れない様子の自分を見て彼が笑うので、なんだか気恥ずかしい気持ちになる。
「あんたな……」
いつもは乗せてくれないのにと、せめてもの抵抗で目をジトっとさせてみるが、ファウストからするとそれすらも可愛らしい。
ファウストがその様子を一通り愛でるとネロの方が羞恥心からか、そっぽを向いてしまう。それだって可愛いな、なんて思うが、これ以上恥ずかしさで顔を向けてもらえないのも困るので、流石に口を閉じた。
「今日はきみとデートのつもりだからね」
反対側を向いていたネロは、バッとファウストの方を向く。優しく愛おしいものを見るような顔に嬉しいと恥ずかしいが混ざり合い、タチ悪りぃ、と人に見せられないであろう顔を覆って呟いた。
付き合って初めての二人きりの外出。
薄っすら自分でもこれってデートに入るか? と意識していたが、あのファウストだし、そんなこと考えないだろう、なんて思っていた俺にとって、この言葉はとんだ不意打ちだった。
「で、どこ行くの?」
「西の国の市場。結構大きくてスパイスとか食器類もあるからきみも気に入ると思う」
「へぇ」
楽しみだな。
自分も彼も、初めてのデートに浮かれているようで、ふわふわとした空気のまま西の国へと向かう。
そっと繋いだ手を離すことなく。