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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    チェズモクワンライ「温泉/騙し騙され」。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■とある温泉旅館にて


    「いや~、いい湯だったねえ」
     浴衣のモクマが同じく浴衣姿のチェズレイの隣で笑う。
     ここはとある国の温泉旅館。最近チェズレイが根を詰めすぎなのを見かねたモクマが、半ば無理矢理に休みを取らせて連れてきたのだ。
     それでもチェズレイは少しうつむいて、晴れない顔をしている。
    「すみません、私のせいで足湯しか入れなくて」
    「いいのいいの。この旅行はお前さんのためなんだから」
     ひらひら手を振りながらモクマが笑う。
     チェズレイの潔癖症は一朝一夕で治るものではないとわかっている。足湯に入れるようになっただけでも大進歩だ。
    「なんならおじさんは、お前さんが寝た後にでも大浴場に行けばいいし」
     ここの温泉はアルカリ性単純泉で、肩こりなどに効果があるほか、美肌にもよいとされている。部屋にも源泉かけ流しの家族風呂がついているところを選んだので、チェズレイは後でそこに入ればいいだろうとモクマは考えた。
     そこでチェズレイがモクマの浴衣の袂を掴んで引っ張る。顔を上げれば、度々モクマにだけ見せる、『お願い事』をするときの顔をしている。
    「モクマさァん……ここまで連れてきておいて私をひとりにするんですかァ……?」
    「――あー……はいはい。あとで部屋の風呂に二人で入ろうね」
     ぽんぽんと優しく背中を叩かれて、チェズレイはやっと笑う。モクマも笑った。少なくともこの旅行の間は、この年下の相棒兼恋人を存分に甘やかしてやろうと考えていたのだ。自分にできることならなんだってしてやりたい。
    「それにしてもお前さん、背が高いから浴衣が寸足らずだねえ」
    「ええ。足が長いのも考えものだとはじめて思い知りました」
     旅館の三本ぐさり柄の浴衣はモクマにはちょうどいいが、チェズレイには少し丈が足りない。足首がすっかり見えてしまっている。袖の方も若干短いようだ。
     二人は並んで歩きながら旅館内の足湯コーナーを出た。そこでチェズレイがふと壁の一角を見つめて立ち止まる。
    「ん? どったのチェズレイ」
    「いえ……あれは、なんでしょうか?」
     チェズレイが指差すのは壁際に五台並んだガチャガチャの筐体だ。そういえばチェズレイはこういうのとは無縁だったんだろうな、なんて思うとモクマはその手を取り、軽く引っ張って筐体の前まで二人で行く。
    「これはね、ガチャガチャとかガチャポンとか言うの」
    「そうなんですか」
    「ここに小銭入れてレバーを回すとカプセルが出てきてね。その中身は、まあ開けてのお楽しみってやつだ」
     筐体の前でひとつひとつ指をさしながら説明する。
    「ミカグラにあるという福袋のようなものですね。
     ……なんだか楽しそうですね」
     チェズレイが興味を示したと感じたモクマは、湯上がりにコーヒー牛乳でも買おうと思って持ってきていた小銭入れを袂から取り出す。
     小銭入れから、この国で使われている銀色の硬貨を三枚取り出すとチェズレイの手に握らせた。
    「五台あるけど、どれがやりたい?」
    「そうですねェ……」
     海洋生物のフィギュア、可愛らしい猫の置物、色とりどりのスライム、押すと音が鳴るカエルのゴム人形などが入った筐体が並んでいる。その中でチェズレイは一番右端の、内側に白い紙が貼られて中身が見えない筐体を指さした。
    「あの中身が見えないのが気になります」
    「あはは。お前さんさすがの度胸だねえ。あれは闇ガチャだ。ほんとに何が出てくるかわからないやつ。まあハズレが多くて騙されることが多いけど、それでもいいならやってみなよ」
     モクマが目で促すので、チェズレイはその闇ガチャをやってみることにしたらしい。さっき説明されたとおりに筐体に小銭を入れ、レバーを回した。ガチャガチャ、とレバーの奥の歯車が回る音がして、ころんと丸い、半透明なカプセルが出てきた。チェズレイは少しの間カプセルを手の中で弄んでいたが、やがてそれを両手で持つと、少し力を込めてかぱっと割るように開ける。
    「……これは」
     チェズレイがカプセルから取り出したのは、ひとつのアクリルキーホルダーだった。虹色に輝くホログラムのニンジャジャンと、おなじみの手裏剣つきのロゴがプリントされている。モクマはそれを見て目を瞠る。
    「おお、すごいじゃないチェズレイ!
     それレア物だよ~。生産数も少なかった上に数年前に販売終了しててね。フリマサイトにでも出せば、ちょっといいどぶろくの一升瓶入りのが五本は買えちゃう値段で売れるよ」
     それを聞いて今度はチェズレイが目を丸くする。キーホルダーのチェーンをつまんでゆらゆらと揺らしながらモクマを見て微笑む。
    「じゃあ、私は大当たりを引いたってことでしょうか」
    「そうだよ、そうだよ! いやぁお前さんついてるねぇ」
     モクマがチェズレイを肘でつついて笑う。
    「じゃ、おじさんも闇ガチャやってみようかな?」
     チェズレイの強運にあやかろうと思って、モクマはまた小銭入れから小銭を取り出すと、今度は自分で闇ガチャを回した。ころん、とカプセルが出て落ちてくる。
    「何が出るかな、何が出るかな~♪」
     愉しそうにモクマが歌いながらカプセルを開けようとしている。それを隣でチェズレイも興味津々でモクマの手元を見つめていた。
     ぱかっ、とカプセルを開けるとモクマは、中身を覗き込んで「あれ?」と呟いたまま固まった。どうしたのだろうとチェズレイが少し距離を詰めて、一緒にカプセルの中を覗き込む。
    「……ありゃ~、こんなことあるんだねぇ」
     モクマが小さく笑いながら取り出すのは、チェズレイのと同じ、レインボーホログラムのニンジャジャンのキーホルダー。
    「――まさかこれの中、全部これだったりしないよね?」
     モクマは狐にでもつままれた気分で、色んな角度からそのガチャガチャの筐体の中身を覗こうとしてみる。チェズレイがその袂をまた引っ張った。
    「いいじゃありませんか。騙されることのほうが多いと言ったのはモクマさんですよ。ラッキーな方向に騙されたと思っておきましょう」
    「……ん。そうだね」
     二人はお互いにキーホルダーの鎖をつまんで、まるで乾杯するかのようにそれをこつんとぶつけた。目線を交わしてくすくす笑う。
    「帰ったら、どこに飾りましょうかね」
     チェズレイが目の前でキーホルダーを揺らして思案する。モクマはチェズレイと自分が持っていた空のカプセルを、近くのカプセル回収ボックスに入れながら言った。
    「キーホルダーなんだから、セーフハウスの鍵でもつければいいじゃない?」
    「あァ……モクマさんがそうしてくださるなら、私もそうしますよ」
     おそろいのレア物キーホルダー。それが示す夢への道のりは、幸先がいいような、そんな気がする。
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    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

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