衣替え 僕と太宰さんが同居を始めて数年が経つ。
四月の末。最近日差しの強い暖かな気候が続くものだから、僕の提案で休日を利用して衣替えをしようという事になった。
「もうコートやセーターは要らないですよね」
「そうだね、仕舞っちゃおう」
太宰さんは、仕舞っちゃおう、とは云うものの動く気配がない。何時もの事だが、僕が全部やる羽目になりそうだ。
春夏物の衣類を引っ張り出し、反対に冬物を箪笥から出して押入れの方へ仕舞っていく。その後ろ、太宰さんは卓袱台の前で座布団に座って湯呑からお茶を飲んでいた。
入れ替えのために衣類を抱える度に思う。同じ洗濯洗剤を使っているのに、僕と太宰さんの服は少し違う匂いがする。それが不思議と少し嬉しい。
「……あっ」
僕は抽斗の奥からとある物を見つけて、手を止めてしまった。
「何? どうかした?」
そう云って太宰さんが僕の肩越しに覗き込んでくる。僕が取り出したのは、深い青色をした総レース製のランジェリー。これにまつわる話は去年の僕の誕生日になる。太宰さんがその夜にこっそり穿いていてくれたのだが、なんというかその……興奮しすぎた僕が事を始める前に暴発させてしまったし鼻血を出すしで、太宰さんの機嫌を損ねてしまったのだった。なんとも情けない話である。
「ああ、それかぁ。捨てちゃう?」
なんの感慨もなく太宰さんは言い捨てる。僕はあの時の汚名を返上したくて、そのランジェリーを握りしめると太宰さんの前に膝をついた。
「お願いします! 今夜じゃなくてもいい、今度もう一回だけ穿いてもらえませんか!?」
瞳が表情の読み取れない鳶色の瞳が僕をしばし見下ろして、太宰さんは呟いた。
「いいよ」
「本当ですか!?」
ただし、と太宰さんは付け加える。
「次は、期待していいんだよね?」
悪戯っぽく微笑んで訊かれ、僕は必死に頷いた。
「勿論です! きっと太宰さんを満足させてみせます!」
「じゃ、早く衣替え済ませちゃおう。私先にお風呂入ってくるから」
そう云うと、僕の手からランジェリーをぱっとさらって浴室の方へ向かっていった。ごくり、と僕は唾を飲む。