龍馬さんが以蔵さんと付き合ってると思ってる話1「以蔵さん?」
忙しい通勤ラッシュ、また寝坊したと走って会社に向かっていた忙しい人達が行きかうスクランブル交差点。
相手は歩いていて、のんびりと思わず名前を呼び腕を掴んだ。
「龍馬?」
大きな琥珀の目を見開いてぱちくりとされた。
十年ぶりに再会した幼馴染だった。
「遅くなって、ごめんね」
指定された居酒屋は賑わっている。
比較的、会社から近かったので数分程度の遅刻で済んだ。
「会社勤め、大変じゃの」
テーブルを見れば、そこにあるのは冷えた水と温かいお茶だけだった、あとは喫煙者ゆえにその手に煙草を一本挟みふかして待っていたようだ。
喫煙席でくつろいで待ちながらいじっていたスマホをズボンの後ろポケットにしまう。
「ご苦労さん、ほいたら、再会を祝してやるかえ」
変わらぬ笑顔を見て疲れが一気に吹き飛んだ。
本当に懐かしい、その笑顔、昔から大好きだった、改めてそれを見て、今も好きだと自覚させられた。
幼い頃からの事を酒やつまみをつつきながら語り合い話を弾ませた。
こんなに楽しく会話できたのは久しぶりで、恥ずかしい思い出や楽しかった思い出、長く話をしながら、彼はいつの間にかこんなにも酒が飲めるようになっていたとお互い大人になったんだなと思った。
「以蔵さん、大丈夫?帰れる?」
「んぁ~、おう、帰れゆう」
テーブルに突っ伏し潰れてしまった、だけどもなんとか帰ろうと立とうとするがふらついて倒れそうになるのをかろうじて支え、
「タクシー呼ぶから待って」
「お~う」
薄っすらと閉じかけた瞼を開けて、
「くひひ、そがに慌てんでもえいよ~」
頬を酒で上気させ少しばかり潤んだ目で見上げて笑う。
タクシーを呼びスマホを押さえ、これはもうダメだと思った。生唾を飲み込み、
「その、以蔵さんが良ければ、僕の家に泊まらない?」
その言葉にぼんやりとした顔で見上げながら一つ笑み、
「おん」
「えっと、ごめんなさい」
朝になって大欠伸をしていると、いきなり全裸の幼馴染が土下座をしていた。
「?」
「酔っていたこととは言え、同意も得ずに…」
そう言って床に頭をこすりつけて本当に綺麗な絵にかいたような土下座をされる。
「いんや、別にえいけんど?」
全く全然気にした風もなくけろりと一言そう返される。
「いや、でも、酔ってたって言ってもね、その…」
「ほうじゃの、まあ、別にえいえい、気にしちょらんせんき、おまんも気にすんな」
軽く伸びをしてシャワーを借りると言ってスタスタと歩いてバスルームに向かっていかれてしまう。
以蔵はプライドが高い、だけどもこんな事、こんなにあっさりと許してもらえるとは思わなかった、あまりにあっさりとしすぎて…。
このあっさりさを龍馬は後悔する、ここできちんと話あっておけばよかったと心底後悔することになる。
再会してから番号とラインを交換しあって、昔のようにとは言わないが、時間をとって会うようになった。
基本的に以蔵の方から連絡すことは少なく時間があけば龍馬の方から連絡して飲んで身体を合わせての、いわゆる大人のお付き合いになった。
以蔵はシフト制の仕事にフリーターをしているようだ、龍馬の方は土日休みと決まった大手の企業に勤めている。
基本的に土日休みだが、今、龍馬は若くして信用され、自分をリーダーとしたチームを組みプロジェクトを進めていた。
なので土日の休み返上で会社に出ていることが多い、それでも以蔵に会いたいし身体を合わせたいしで少しの時間をとってでも無理でも会う。
「以蔵さん、ごめんね、いつも遅くて」
「ん~、明日休みに合わせてくれゆうきに別に気にしちょらんぜよ、ほれに、おまんとおるとえい酒も飲めゆうきな」
居酒屋に行くのも面倒で龍馬はきちんと以蔵に好きだと告白してさらっと以蔵の方も自分を好きだと言ってくれて両想いだと確認してから自分の住むマンションの合鍵を渡している。
なので、以蔵は龍馬に呼ばれた日、シフトが決まる前に龍馬と会うとわかっている時は翌日を休みにしている、居酒屋で飲むにしてもと龍馬のマンションで待っていることが多いので晩酌の準備をしているのだ。
疲れて戻ってくる龍馬にはそれが嬉しくて新婚気分になっていた。
仕事で疲れてずっと好きな人と再会して両想いになれて天国に上ったようになって……浮かれていたのだ…だから、目の前でスマホをいじっても全く気にしなかった気にならなかった。
たま~に自分と一緒にいるのに急に用事ができたから帰ると言われても、そんなこともあるよねと思って見逃していた。
浮かれすぎて幸せすぎて…。
何度も言うが、本当に心底龍馬はこの後後悔することになるのだ。