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    na__dream0707

    @na__dream0707
    ハッピー五夏チャン

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    na__dream0707

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    五夏の他に虎伏が存在する転生パロ。
    こんなのいつか書きたいなぁって思ってる。
    本誌ネタにちょっと触れているので単行本派の方は読まないほうが良いです。

    会いたい 前世では呪術師として生きていた事を、物心ついた時から覚えていた。でもその記憶は所々黒い靄がかかったような、ぽっかりと何かが空いたような物足りなさがずっとずっと居座っていた。それにしても、前世では最強の呪術師だった自分が、今世では、俳優やモデルを仕事としながら生きている事は、とても笑えるなと思った。
     そう、今世の五条家は芸能一家だった。
     父親はミュージカル俳優。母親はカリスマモデル。そんな二人の間に産まれた俺は小さい頃から英才教育を受けた。子役で出演したドラマをきっかけに一般人らしい生活とはおさらばとなった。いや、この二人の間に産まれた時から普通の生活なんてありえなかっただろう。
    「さとるくん。今回共演する、すぐるくんだよ。仲良くしてね」
     六歳の頃に出たドラマは男子高校生の青春物語だった。ダブル主演の幼い頃を演じるのが俺とこのすぐるだった。俺とは正反対の少し長めの黒髪、切れ長の一重。その容姿は誰かを彷彿とさせたが明確に誰かなんて分からなかった。すぐるとの仕事は楽しかった。阿吽の呼吸、というのも何だか違うが自分が準備してきた演技をまたさらに良くしてくれる……切磋琢磨できるような相手だった。他にも共演していた人たちにちょっとイタズラして戯れてもらったり主演二人のクランクアップには大きな花束を一緒に手渡して泣き始めてしまった二人に釣られて俺たちも一緒に泣いたりなんかして。
    「さとる……ぼく、このおしごとがさいごなんだ」
    「えっ」
    「さいごのおしごとが、さとるといっしょでよかった」
     突然落とされたその言葉は、すぐに受け入れられるものではなかった。でもまだまだ子どもの俺には何もできなかった。また会えるよねって、言ったらきっとすぐるは困ってしまう。だから言えなかった。
    「おれも、すぐるとおしごとできてうれしかったし、楽しかったよ」
    「……ありがとう。さとるは、これからも頑張ってね」
     今思えばこれは俺の初恋だったのだろう。今ならそう思える。


    「なーーーーーんて言われたけどあれって傑じゃん! どう考えても俺の大好きな夏油傑! なんで今思い出した!? もしかしてアイツも記憶持ち!? 初恋どころかずっとずっと大好きだよ! もう最悪じゃん。今何処で何してるかなんて分かんねぇよ」
    「人の職場で騒がないでください」
     ローテーブルとソファが置かれた休憩室でブラックコーヒーに角砂糖を数個入れて喉を潤す。長い手脚を投げ出し天井を見上げれば無機質な白い壁が余計に虚しくさせた。
    「恵ぃ……想像してみなよ。大人になった今、小さい頃によく一緒に遊んだ子どもが悠仁だったと気付いた時の衝撃をさ」
    「なんで虎杖の名前が出てくるんですか」
    「例えばの話だって」
    「はぁ……さっさと帰ってください。仕事の邪魔です」
     今日と明日は珍しくオフだった俺は伏黒恵の元を訪れていた。それも彼の職場である動物病院。俺自身、彼とは血縁関係でもなんでもない。だがこの腐った業界に売り飛ばされそうになっていたところを今回はたまたま見つけた。あの頃のように親父自ら俺に託した訳でもないけれど、これも何かの縁と思いながら彼とその姉を引き取って育ててきた。姉のつみきは看護師として、弟の恵は獣医として一人立ちした後も、育ててくれた御礼として毎月仕送りまでしてくれる。いらないよって言っているのに、二人は「はい、分かりました」とは言ってくれなかった。
    「というか、五条さんですら記憶が欠けてる部分があったんですね」
    「なになにどういう意味?」
     恵はポツポツと溢し始めた。物心ついた時から前世の記憶があったこと。前世で何があったのか、何をしてしまったのか、それらを抱えながら生きることが苦しかったこと。そして、親友を自ら手に掛けた瞬間の様子が鮮明に思い出される度に、酷く自分を苦しめたくなったこと。
    「虎杖も同じように生きていたと知れたとしても、俺は五条さんのように会いたいとか好きだとか言えないし、言ってはいけないと思ってます」
    「別に前世の事を今も引きずる必要なくない? 何なら僕だって身体真っ二つにされてるし」
    「…………」
    「冗談だって! ま、そういう事だからあまり恵も気にし過ぎちゃダメだよ。お互い呪のない世界で有意義に生きようよ」
     ローテーブルに置かれたマグカップを手に取りコーヒーをグッと一気に流し込む。あの頃のように角砂糖をぼちゃぼちゃと入れることはない。でも、確かに変わらないものだってある。傑の事を忘れていた訳ではない。ずっとずっと物足りなかった何かが傑だっただけ。俺は確かに、前世も今世も夏油傑が好きなんだって、締め付けられるような胸の痛みと、前世の思い出たちが心を暖かくしてくれて、それを証明してくれる。
    呪のないこの世界で、心の底から一緒に笑いたい。
    「コーヒーごちそうさま。んじゃ! 午後もお仕事頑張って」
     部屋を後にする際に見た恵の顔は曇っていた。前世では若人たちの青春にとやかく首を突っ込む気はなかったから、何も言う事も無かった。でも見ていれば分かるくらいに、恵と悠仁は思い合っていただろう。二人がそれを、伝えあったかのかは分からないけれど。せめて今世では何も気にせず、二人が生きたいように生きていけるといいなと、前世の二人の様子を思い出しながら、そんな事を祈った。
     恵の動物病院を後にし、自宅へ戻ればやることは決まっていた。まずはあの頃共演した『すぐるくん』の情報を調べること。その『すぐるくん』が夏油傑だったと仮定して、今何処で何をしているのか、どうやって探し出そうか。生憎この世界では残穢なんて感じられないし、ストーカーじみたことなんてご法度だ。そう思うと傑から俺を見つけてもらう事が一番の近道な気がした。
    「あの時のドラマ名を検索して……うっわ懐かしい〜傑かわいー……」
     ノートパソコンを開いて懐かしいタイトルを検索する。撮影時の写真だとかネットの記事がずらりと出てくる中、俺とすぐるくんが一緒に写っている写真を見つけた。二人共くしゃくしゃの笑顔でカメラに向かってピースしていて、本当に本当に楽しかったんだろうなってその一枚から伝わってくる。そしてやっぱり彼は、夏油傑だ。根拠なんてない。でも俺の魂がそう告げる。何故この時に思い出せなかったのか。過去をいくら恨んでも仕方ない事は分かっているが、恨まずにはいられない。
    「この時の傑の名前は……瀬戸、傑……?」
     これは芸名だろうか。それとも今世では瀬戸、という苗字の家に産まれたのだろうか。カタカタとキーボードでその名前を打ち込みエンターを叩く。出てきた情報はやっぱり俺と共演した時のドラマの話ばかりで、当たり前だか今どうしているかなんて何も分からなかった。
    だが改めて調べてみると、どうやら傑は脇役の子役ばかりで出演していたようで、あのドラマで初めて大きな役を貰ったらしい。尚更あのドラマが最後なんて勿体無かっただろうに。でもそんな傑の大切な仕事に携われた事は幸せだった。
    「あー……傑に会いてぇ……」
     使い慣れた椅子の背もたれが大きく撓り、ギィと虚しく部屋に響いた。
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