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    udukihp

    進捗とか 進捗とか 進捗とかです
    時折完結したお話も載せます
    HL、もしくは夢の進捗を晒すことが多いです

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    22.サブリエ(庭、日記、散る) 5

    ##twstお話

    「何か買うもん決まった?」
     不意に、廊下で声をかけられる。声のした方へ視線を向けると、早足で近づいてくるラギー先輩の姿が見えた。ラギー先輩は私の横に並ぶと、「次なに?」とだけ言葉を続けた。
    「動物言語学です」
    「ああ。動物言語学は潰し効くし良いッスよねえ。俺、結構上手なんスよ」
     言いながら、ラギー先輩は猫の鳴き声を真似した。私にもわかる、明瞭で、簡単な単語だ。
    「おはよう、ですよね」
    「そうそう。ほら、監督生くんも返してよ」
    「ええっ」
    「ええって。驚くこと? 当然でしょ。練習ッスよ、練習」
     いつのまに練習が始まっていたのだろうか。正直な話、動物言語学はあまり得意ではないので、得意と明言するラギー先輩に披露するのは恥ずかしさの方が先に立つ。
     だが、こうやってまんじりとしていても、ラギー先輩は私の傍から去ったりしないだろことはなんとなく想像が出来た。多分、私が言葉を返すまで、ラギー先輩は着いてきそうである。
     心の中で決意を固めてから、私は猫語で言葉を返す。ラギー先輩の耳がひくひくと動いて、それからその表情に楽しげな色が滲んだ。
    「下手」
    「……ラギー先輩私のこと嫌いですよね」
    「あのね。それ前も言ってたけどさぁ。嫌いなやつにこんなに付きまとうと思う? どんな性格してんだかって話でしょ」
     ラギー先輩は呆れたように首を振った。嫌いではない、としても、好きでもない、だろう。境遇が似ているから、ラギー先輩は私のことを気にしてくれている。ただそれだけの話だ。
     ラギー先輩をじっと見る。先輩は小さく息をこぼすようにして笑うと、そっと囁くように言葉を発した。猫の、鳴き声に似ている。また何かを言われたらしい。うまく聞き取れなかった。
    「なんですか?」
    「さあ。なんでしょ」
     喉を鳴らすような笑い声が耳朶を打つ。どうやら教えてくれないらしい。自分で調べろ、ということだろう。頭の中でラギー先輩の発した動物言語を何度も繰り返し、刻み込みながら、私はラギー先輩と別れて、動物言語学の教室へ向かった。


    「遊び……、に、行こう……、ですか?」
     動物言語学の授業後、早速トレイン先生の元へ向かい、ラギー先輩から言われた言葉の意味を尋ねる。トレイン先生は少しばかり考えた後、私の手元に辞書を開いて置いた。調べて考えろ、ということなのだろう。
     動物言語学の授業後は放課後になるからか、トレイン先生は私が意味を理解するまで少し待っていてくれるようだった。次第に閑散としていく教室内で、私は辞書を探って見つけた言葉の意味を、ゆっくりと吐き出す。
    「そうだな。動物言語には、一つの単語に様々な感情が含まれることが多いが――君の推測が私も正しいと感じる」
    「遊びに……」
     思わず言葉を繰り返す。これはその通りの意味として、受け取っても良いのだろうか。
     まさかラギー先輩から、遊びの誘いを受けることになるだなんて、思ってもみなかった。郊外のバイトには誘ってもらったことはあるが、バイトと遊びでは全く違う気がする。
    「よろしい。それでは、他に聞きたいことは?」
    「あ、す、すみません。無いです、大丈夫です」
     慌てて言葉を返す。トレイン先生の時間をこれ以上奪うわけにもいかないだろう。私を見て、トレイン先生はかすかに顎を引いて、そのまま「いつでも訪ねると良い」とだけ続けた。
    「君たちのために、門扉を開いて待っている」
    「――ありがとうございます。また、わからないことがあったら、聞かせてください」
     トレイン先生は一つだけ頷くと、教壇の上を片付けて、ゆっくりときびすを返した。去って行く背中を眺めながら、私は小さく息を吐く。
     ……遊びに行こう。ラギー先輩が発した動物言語を、口の中でそっと繰り返す。多分きっと、冗談か何かの類いだろう。だってこの誘いは、私がトレイン先生に訊かなければ読み解くことの出来なかった誘いである。それはいつになるかわからないし、ともすれば一生解かない可能性だってあるのだ。
     多分、だから、冗談だろう。そう思う。
     そう思うのに、なぜだか喉の奥がきゅうっとすぼまるような感じがした。
     それを振り払うように、私は鞄をつかんで外へ出る。外廊下を歩いて、そのままオンボロ寮へ向かう。グレートセブンの像を抜けた、瞬間、道に影がさした。
     顔を上げるよりも先に、聞き知った声が耳朶を打つ。
    「わかった? 監督生くん」
    「――ラギー先輩」
     箒に乗ったくだんの人物は、ゆっくりと地面に降り立つ。そうして、意地悪そうな表情のまま、口を開いた。舌先がこぼれ落とすように、動物言語を紡ぐ。先ほども聞いた、言葉だった。だから多分、意味は変わらない。
    「まあ、監督生くんのことだし、すぐに意味とか聞きに行ってると思うけどね」
    「……私がそうしてなかったら、どうしてたんですか?」
    「いやいや、絶対するでしょ。オレの勘だけど、オレ、勘は外れたこと無いんスわぁ」
     ラギー先輩は表情をほころばせる。「それで、どうッスか?」とだけ続けた。
    「……なんで、私と、なんですか」
    「なんでって。気にかけてる後輩が、バイト代手に入ったのになーんにも買わないからさぁ。オレとしては、じゃあ外連れてって、買うもん一緒に探そうかなって思ったりするわけ」
    「貯めてる、かも、しれませんよ」
    「この世界に長く居る気が無いくせに?」
     図星だった。言葉に詰まると、ラギー先輩は笑う。
    「今週末とか。オレ暇だし、監督生くんも暇でしょ。今週末の朝、迎えに行くんで」
     それじゃあオレ、部活あるんで、とラギー先輩は箒にまたがる。部活動の最中に抜けてきたのか。――答えを、聞くためだけに。
     私が、ラギー先輩の言葉を放置して、答えられない。――そんなことは絶対無いのだと、思われているのだ。
     なんだろう。なんだか、手のひらの上で踊らされている気分である。
    「じゃあね、監督生くん。バイバイ!」
     ラギー先輩が上空から手を振る。振り返さないと、なんだかすねていることがばれてしまう気がして、私は大げさに手を振り返した。
     ラギー先輩が、少しだけ、笑ったような気がした。
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    Replies from the creator

    udukihp

    DONEリクエストありがとうございました~!もの凄く楽しく書けました!少しでも楽しんでいただけたならこれ以上に嬉しいことはありません。ネイチャやおじたんのお話もいつか機会があれば是非書かせてください……!!!!重ね重ね、ありがとうございました!
    ラギ監 今日は朝からついていなかった。
     どうしてか携帯のアラームが鳴らなくて、折角の休日なのに寝坊をしてしまった。今日は賢者の島に広がる市街地へ遊びに行くつもりで、前々から色々と予定を立てていたのに、である。
     朝から時間をロスしてしまったので、いくつかの予定は諦めて、それでも折角だし買い物くらいは、と少しだけおしゃれをして外へ出たのが運の尽きだろう。
     本屋へ行って、好きな作者の新刊を買おうとするものの、売り切れていたり。美味しそうなケーキ屋さんがあったので入ってみたら、目の前で目当てにしていたガトーが売り切れてしまったり。靴擦れが起きて慌てて絆創膏を購入する羽目になったり、散々だった。
     それだけでは飽き足らず、帰り道、前日の雨もあり、ぬかるんだ地面は、簡単に足を取った。あっと思った時には水たまりへ自らダイブしてしまい、衣類が汚れた。バイトして手に入れた一張羅が見るも無惨な姿になってしまって、それだけでもう心がハンマーで殴られたかのようにベコベコになってしまった。
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