Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ミヤシロ

    ベイXの短編小説を気まぐれにアップしています。BL要素有なんでも許せる人向けです。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 20

    ミヤシロ

    ☆quiet follow

    エクスとバードで桜ネタ。まだ桜には一足早いですがアップ。
    仮面騒動よりは後のお話。

    桜吹雪 マルチが一足先にベイカフェに向かい、少年二人が遅れてやってくる日のことだった。
     二人は河川敷を歩いていて、彼等の頭上では桜が盛りを迎えている。桜の花弁が舞い降り神秘的な景観を生み出す中、二人は道を早足で歩いていた。エクスは相変わらず朝が弱く、バードに急かされてようやく床を離れ。二人は本来ならばゆっくり歩いていける道を、いつもよりハイペースな歩行で過ぎるしかないのだった。
     その、なんということのない時間の中。花弁が吹雪となってエクスを包み込んだ。
    「――エクス!」
     恐ろしく、美しい花の嵐だった。
     突風が吹き桜の花がぶわりとエクスを呑み込み、バードは弾かれたように手を伸ばす。桜に覆い隠されたエクスに目を見開き、バードは恐れおののいて大事な少年の名を呼んだ。叫んだ、と言って良い鋭い声で。桜吹雪に手を突っ込みエクスを助け出さんとする。エクスの白い腕が“ガッ!”と、バードの手で掴まれた。
    「エクス…!」
     鳶色の目の子供は焦りの色濃い声で呟く。苦しげな息が彼の唇から零れていた。
    「どうしたの、バード」
    「――」
     どうということのない桜の花びらだ。目をまるくするエクスに、双眸を翳らせてバードが言う。
     お前が消えちまう、って思ったんだ、と。
    「――うん?」
     突拍子もない言葉にエクスは首を傾げ微笑んだが、バードの顔には冗談の雰囲気が微塵も感じられなかった。
     羽根頭の少年は空色の目の少年を離すまいと捉えたまま黙っている。鳶色の双眸は古傷が疼くような痛みを抱き、困惑するエクスに苦しい胸の内を語った。
    「あの、……バード…?」
    「なんていうか、その。
     桜吹雪にさらわれて……お前が消えちまうかと思った」
     あの時のように、と、バードは胸に苦味を広げながら振り返る。
     仮面YとZの騒動の頃、エクスはバードの前から一時消えた。
     一緒に居るのが当たり前の人間が居なくなって、バードは大慌てしたのは勿論、少なくないショックと不安を抱えた。キャンプのとき呼んでも居ないのについてきたエクスが、時に鬱陶しいと思える彼が居ない。マルチが寝込んでそれどころではなかったバードだが、ペルソナのリーダーとしての気負いがなければ自分も倒れてしまったかもしれなかった。彼は思う。唐突に居なくなったエクスがどれほど己にとって大切であったか。バードはあのときの不在により痛い程にわかってしまった。
     バードは恨めしそうに桜を仰ぎ、儚く美しい花を見据える。桜は散り際が潔く花弁もまた清らかだったが、一方で恐ろしい一面を持つ花でもあった。桜の下には死体が埋まっている、とどこぞの作家が記したが、桜には人の本能に訴える恐怖があった。桜吹雪が止んだ後そこには誰も居ない――ふとバードにはそう思えて、たまらなくなって呟いた。
    「お前がもし、消えちまったらって」
    「消えるわけないでしょ?」
     エクスは無邪気に目を細める。
    「バードってば、変なコトを言うね」
     エクスは親友の想像を否定し、無邪気に笑っている。つい先刻まで共に居た人が突然居なくなる。エクスは過去に龍宮クロムにそのような真似をしでかしていて、特に気にも留めなかった。子供は何処までも明るく、残酷で、他者に与えた痛みを意に介さなかった。バードの心境とはかけ離れた精神でもってエクスは笑う。色白の愛らしい顔は、バードの目にはとても綺麗に映った。
     まるでナイフで胸を刺すような、鋭い痛みを感じさせるほどに。バードは思わず顔をくしゃりと歪め、明るく笑う友の前でうつむいた。
     バードはエクスの腕掴む手を一旦離し、代わりにエクスの、柔らかで白い手に軽く触れる。掛ける力こそ抑えられていたが、バードの中でエクスの存在を感じようとする意志はむしろ強まっていた。大切な存在の熱と感触を存在を、手を通じて実感する。確かにここに居るのだと意識しながら、バードは苦し気に、まるで血を吐くように呻いた。
    「もう少し……このままでいさせてくれ。お前がオレの前から消えないように。お前を失うことがないように、……」
    「……バードってば、怖がりだね」
    「そうだな」
     色白の少年よりたくましい少年が、懇願するように手を握り続ける。
     エクスは親愛なる少年の恐れを受け止めるよう、バードの手を優しく包み込んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ミヤシロ

    DONE82話『七色の決意』後のシエルのお話。
    引きこもっていた頃のシエルはやつれていて、ご飯食べてるのかなと心配になって思いついたお話です。
    決意を新たに シグルと別れ帰宅したシエルは、まずは荒れ果てた部屋を元に戻すことから着手した。
     メダルとトロフィーが床に散乱していた。
     ゾディアックとの戦いで大敗しどん底を味わったあの日、シエルはアマチュア時代の栄光を衝動のまま床に叩きつけた。500勝無敗、アマチュアの王、これらの賞賛は無意味でしかなく、彼はあの日自分が塵芥(ちりあくた)と思えるほどに打ちのめされた。クロム不在の間ペンドラゴンを守ろうという誓いは無残に打ち砕かれた――あの日の自分と決別するため、シエルは夕闇が窓に垂れ込める時間、惨憺(さんたん)たる部屋を凝視し硬い握り拳を作った。
     ひどいザマだ。だが時間さえ掛ければ原状回復は可能だ。幸いトロフィーもメダルも破損は見られず、ただ元の位置に戻せばいいだけだった。ひたひたと忍び寄る闇が苦しく、シエルはしんどい気持ちの中それでも自身のやらかしに向き合う。一つ一つ、昔の誓いを改めて胸に刻むように。彼は自分の歩みの証を、クロムの言葉を思い出しながら手に取った。
    2476

    ミヤシロ

    DONE80話『最遅の者』~81話『オールイン』の石山メインのお話。石山の部屋の描写は私的設定です。あとマルチが新ベイを完成させた日時がはっきり特定できない為、80話の翌日に完成したという設定にしています。
    石山は登場するたびに魅力的なキャラになっていますね…! 今回のお話を書いてみて、彼の歩みがアニメ本編でとても丁寧に描写されていると感じました。
    不変の道 石山は母親に頼んで手に入れたスイーツを、翌日ファランクスの二人と共に味わった。
    「すっげー!」
    「うまそうだな」
     昨日バーンの部屋で拒んだ甘味を、この日石山は仏頂面ながら親しき者にはわかる上機嫌で堪能する。母親に電話したあのとき“一人で三つ食べてしまおうか”と頭をよぎったものの、彼はすぐさま思い直し三人で食することにした。予定の空いていた二人は報せを聞き、喜んで石山の家を訪れた。石山の住まいはとある賃貸物件の一室であり、そこはさっぱりと片付いて私物がさしてない場所だった。
     十年間、無骨な男は簡素だが清潔な部屋で暮らしている。勝手知ったるファランクスの二人は用意されたスイーツに目を輝かせ、石山の淹れた紅茶と共に舌鼓を打った。その後は今後の予定やトレーニング内容を確認し、世間の話題にも触れる。彼等の話にはトーク番組の撮影やスタジオに乱入したカルラ、そして黒服への言及があった。
    5021

    ミヤシロ

    DONE『夢か現か』のシグル視点。シグルは台詞も少なく感情を表情から読み取りにくく、お話を書くのはとても難しかったです。彼女も彼女なりに二人を案じたり、ペンドラゴンを好きでいてくれたりするといいな、って。
    来週のアニメにシグルが登場しますね! 楽しみです。
    バイオレット シエルがクロムの中で大切な存在になっていく。
     彼がクロムにとってどれほど支えになっているのか。心の傷を癒してきたか。私は彼に感謝してもしきれないんだろう、上手く言葉に出来ないけど。
     私は何も出来なかった。見ているだけで、壊れていくクロムを気遣う言葉を持てなかった。
     でも、クロムが昔の自分を取り戻しつつある今、私は。今度こそ、何かあったら彼を支えたいと思う。シエルと共に。
     そしてチームのために戦おう。持てる限りの力を尽くして。

    「オレ達の、イメージ香水…!」
     私がモデルを務めるブランドの会議室で、シエルが上ずった声で言った。
     ペンドラゴンの三人をイメージして香水を作る。期間限定で販売される香水が完成したから、と、私達はこの日企業から呼び出しを受けた。雑誌に載せる写真を撮ってインタビューを受けて。私にはそう珍しくない仕事だけど、シエルにとっては初めてのコラボ企画だった。彼はベイについてのインタビューならたくさん受けてきたけど、香水については初めてだ。彼はそわそわしながらイメージ香水に向き合った。営業社員に勧められて香水を試す彼はおっかなびっくり、とても危なっかしかった。
    6901

    ミヤシロ

    DONEバーンと石山のお話。
    また香水のお話です。先月クロムの匂いがどうのと騒いでいましたので、つい書いてしまいます。実は現在も香水ネタでお話を考えていたり。
    彼の香りは 石山タクミが不死原バーンと会う約束をしたその日、バーンは珍しく遅刻してきた。
    「すまない。待たせてしまったね」
     いつもは早い時間に二人とも待ち合わせ場所に到着しているか、あるいはバーンの方が早いくらいだ。石山は“珍しいな”と意外に思うものの、相手に怒りや苛立ちを覚えはしなかった。バーンはベイバトルの時間には度々遅れていたが、石山との約束の時間を破ったことは今日以外に一度もない。そもそもほんの数分の遅れであってバーンが謝るほどでもないのだ。石山は謝罪をさらりと受け入れ相手が向かいに座るのを見つめる。優美な男性の所作は美しかった。
     二人はバーンがマウンテンラーメンを買収して以来定期的に顔を合わせ、互いの近況を報告し合う間柄となっている。彼等の関係は実に良好で、石山のまとう空気も彼が出せるものの中では穏やかである。彼は引退の窮地を救われたがゆえバーンに少なくない恩義を感じている。たかが数分の遅刻で文句を言う気は毛頭なかった。
    3166

    recommended works