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    ミヤシロ

    ベイXの短編小説を気まぐれにアップしています。BL要素有なんでも許せる人向けです。

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    ミヤシロ

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    86話『深紅の対決』直後のバーンと石山のお話です。
    バーンは親しい人の前では普段とは異なる面を見せる……かもしれません。

    不死鳥の止まり木 太陽が高層ビル群の間に沈みゆく頃、不死原バーンは独り歩いていた。
     ユグドラシル製薬へと帰る道を彼は神妙な表情で進んでいく。平素柔和な笑みをたたえる彼に、この時ばかりは笑みがなかった。金色カルラと戦い彼は敗れた――実力を鑑みれば対戦結果は予想出来たものの、実際にこの目で自身のベイを沈められるのを目の当たりにすると。試合直後は心から相手を賞賛出来るものの、時が経てば少なからず意気消沈するものであった。
     ゾナモス、ゆにと別れ、カルラとのバトルを思い出す。彼のベイ・フェニックスラダーは真っ二つにされ、弧を描いて地面に落ちていった。
    「――……」
     愛機が地に伏せた瞬間を、バーンはつい数秒前の出来事のように思い出す。脳内に再現される敗北は鮮明で、それゆえに彼は今頃になって胸に痛みを覚えた。
     と、そのとき。彼は前方に既知の人物が立っているのに気がついた。
     石山タクミ。チームファランクスのリーダーで、ソリダスタワーで活躍するブレーダー。彼は仮面Xに敗れスターバトルをリタイアしたが、彼の堅固な戦姿は大衆の心を揺さぶり彼の人気を一層高めた。優れたブレーダーへと成長した彼に、バーンはいつもの柔らかな微笑を顔に灯す。無理をしている、自分でもわかっている、だが親しい人物との再会は傷心の彼に温もりをもたらしたのだった。
    「……久しぶりだね」
    「ああ、――」
     石山は険しい表情のままバーンが歩み寄る姿を双眸に映す。二人の距離は縮まり、ほとんど触れ合うほどになった。石山は一歩も動かず、青年のその身を受け入れる。彼はユグドラシルとゴルディアスの配信動画を視聴済だった。
    「いいバトルだった」
    「ありがとう……」
     カルラに勝利出来なかったが、バーンの健闘は石山を含め誰の目にも明らかだった。青年は最善を尽くし、全力で戦って負けた。バトルに敗北はつきものであり、石山自身カルラに敗れている。彼女の強さは相当なものだ――石山は我が身をもって理解していた。
    「全力を尽くしたからといって報われるとは限らない」
     石山の言葉は以前バーン自身が口にしたもので、石山はその言葉を正確に覚えていた。スターバトル開始直後彼は初戦でカルラと当たり、惨敗とも言える結果に終わった。気晴らしにとバーンが外出に誘ったあの日、石山は青年からその言葉を掛けられた――労いと慈しみに満ちた言葉に、石山は心が安らいだのを記憶している。ありがたかった、本心から思っている。ゆえに彼は自分が慰められた言葉を当人に返す。少しでもバーンの痛みを消せるように……青年は頷き、悲しみに耐えるよう双眸を伏せた。
    「悔しいな」
     彼は涙ぐんでいた。
     感動しやすい青年は、感涙にむせぶことが多い。たとえ敗北を喫しようと、彼は相手を讃え美しい顔に熱い涙を伝わせた。だがこの日このとき、彼の目から溢れたのは違う涙だ。口は真一文字に結ばれ拳は小刻みに震えている。不死原バーンは珍しく歓喜以外の感情で落涙する。信頼を寄せる相手がそばに居るためだろうか、高貴なる彼が珍しい一面を見せた。
    「悔し涙など、流したくなかったな」
     顔をくしゃりと歪め、バーンは涙に湿った声を聞かせた。
    「勝ちたかった。実力差は、わかっていたはずだけど」
    「そうだな」
    「泣き言を言ってすまない」
    「構わない。オレでいいなら幾らでも言え」
     涙を流す青年を、石山はそっと両腕で包む。柔らかな抱擁はしかし鍛錬を積んだ男の腕によるものゆえ、それなりの力強さがあった。バーンは息を止め男の腕の中に収まる。抵抗はしない。嬉しいと示す無言の反応により、石山は回した腕に更に力を込めた。
    「君からこうされるのは初めてだ」
    「たまにはいいだろう」
    「……。そうだね」
     石山の胸の中で微笑み、青年はそっと双眸を閉じる。柔らかな表情を浮かべる彼を胸に抱き、石山はしばらくの間、バーンが満たされる時を保っていた。
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    ミヤシロ

    DONEクロムが風邪を引いたお話。ゆるめのクロシエです。
    クロムの性格がアニメとは大きく違っていて「誰ですかこの人」状態ですが、大目に見てください。
    明後日はシグルメイン回ですね。過去のペンドラゴンにも触れられるようですし、楽しみです。
    あなたのそばに 銅田産業の専務室にて夕刻、クロムはマネージャーを交えて専務と顔を合わせていた。
     先日のバトルの勝利への労いと、来週のエキシビションマッチについての打ち合わせだ。と言っても実際は専務が上機嫌でクロムを持ち上げるだけで、生産性のある会話は無いに等しかった。専務の戯画谷はビジネスとしてペンドラゴンを支援するのみであり、ベイブレードの発展やブレーダーの生活に関しては毛ほども気に掛けていない。クロムもまた調子のいい男の胸中を知り抜いていて、打ち解けているようでいて内心早く終われと思っていた。
    「来週もこの調子で頼むよ、クロム君!」
    「ええ。……必ず勝ちます」
     クロムはチームメイトならばわかる愛想笑いを、ほとんどの人間に悟られぬよう自然に浮かべる。彼はアマチュアの頃から外面を取り繕う術を身に着けており、取るに足らぬ話にも表面上は好意的に応じられるのだった。
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