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    ミヤシロ

    ベイXの短編小説を気まぐれにアップしています。BL要素有なんでも許せる人向けです。

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    ミヤシロ

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    73話後のバーンと石山。
    昼間の桜も綺麗ですが、夜桜もまたいいですね。

    夜桜 宵闇に桜が朧に空を煙らせていた。
     白星決戦が幕を開け数日、ブレーダーは星を目当てにバトルを繰り広げている。白星オメガの布告から新たな戦いが始まり、この機に乗じてのし上がらんとする者の野心によってXシティは活気づいた。今までの戦いがぬるま湯に思えるほどにベイバトルはレベルを上げていく。激しい戦いの中、打ちのめされるプロブレーダーも少なくない――石山タクミもその一人であった。
    「全力を尽くしたからと言って報われるとは限らない」
    「わかっている」
     夜の桜並木を歩きながら、二人は斯くの如き言葉を交わす。石山はここに至る経緯を振り返り、自身の非力への許せなさと青年の労りへの感謝の二つを胸に抱いた。
    「君はここで終わる男ではない。そんなに落ち込むことはないさ」
     不死原バーンは柔らかな笑みを浮かべ、厳めしい表情の石山に言葉を紡ぐ。石山がカルラに敗れた話を聞きつけたバーンは、"どうだい? 気晴らしになるだろう?"と夜桜見物に誘った。石山にとってバーンはプロを続けられるよう手配してくれた恩人で、話し相手で、何だかんだで世間話をする相手だ。不愛想な男は渋面のままバーンの提案を受け入れる。二人並んで桜並木を歩く。敗北を引きずり暗い雰囲気の石山に対し、バーンは優しい微笑をたたえていた。
    「白星決戦……過酷な戦いになりそうだね」
    「そうだな」
    「もっとも。君も私も。自分のバトルをするだけだ」
    「ああ」
     石山は頷き、隣の男の横顔を一瞥する。白い髪、白蝋の肌。夕闇の中歩を進めるバーンは相変わらず優美な姿だ――同性ならば魅力的な容貌に気後れするものだった。だが石山は素直に美しい、と思う。妬みや嫉みといった負の感情を抱かず、青年をそのまま受け止める。満開の桜の下を、石山はバーンの横顔に視線を遣りながら足を進める。桜見物に赴いたにもかかわらず、彼は大して桜を見てはいなかった。
    (綺麗だ)
     石山は改めて傍らの男が美形であると感じ入る。最初はちらりと視線を送るだけが、いつの間にか食い入るように見つめていた。バーンは相手の視線を知らず、頭上の桜を眺めるのみ。"満開だね"と呟く美男子に"予報より少し早かったな"と、石山はかろうじて相槌を打つ。不意に口を開いた相手に取り繕うように出した一言は少し揺らいでいる。青年の横顔にすっかり意識を奪われていたがゆえに。己が発した声がブレていて少なからず驚く石山にバーンがすっ…と立ち止まる。夜風が吹き花弁を散らす中、バーンは"ほう"と感嘆の息を吐いた。
     何本も連なる満開の桜が、闇に淡い白を広げていた。
     青空の下の桜も美しいが、夜もまた幻想的で印象深い。桜は別名夢見草とも言うが、満開の桜が織り成す景色は夢幻の如きだった。石山は突然、別世界に隔離されたような錯覚を抱く。日々暮らすXシティでありながら、闇夜と桜の光景はひどく現実味が欠けていた。
    「綺麗だね……」
     傍らの男の存在が余計にそう感じさせるのかもしれない。うっとりと呟く男は、夢心地で桜を仰いでいた。
    「実に素晴らしい」
    「あんたの方が綺麗だ」
     率直過ぎて恥ずかしくなる台詞を、石山は無意識のうちに口にする。発言して数秒、石山はストレート過ぎる言葉に"しまった"と苦々しく顔を歪めた。挙動不審になる無骨な男にバーンは目口をまるくする。石山の言葉は第三者の視点ではひどく恥ずかしい。だがバーンは決してからかわず、むしろ愛おしいと顔をほころばせた。
    「嬉しいことを言うね」
     感動のあまりつい他人に抱きつく男は、このときも自然に両腕を広げる。石山は相手の反応にすっかり慣れてしまって、バーンのしたいようにさせた。美男子の細い腕ががっしりとした男の体を包む。青年の抱擁はいつものこと――だがこの時は普段より長く、抱きしめる腕も幾分熱を感じさせた。
    「――……」
     通常とは異なる気配を感じ、石山の本能的な部分が何かを悟る。相手の胸中を知ってか知らずか、バーンは甘く温かな声を聞かせた。
    「嫌かい?」
    「嫌じゃない」
     夜の闇に、わずかに紅を滲ませた白い花弁が散っていく。
     はらはらと舞い降りる花びらの中で、二人の男はしばらくの時間体を重ねていた。
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    ミヤシロ

    DONE82話『七色の決意』後のシエルのお話。
    引きこもっていた頃のシエルはやつれていて、ご飯食べてるのかなと心配になって思いついたお話です。
    決意を新たに シグルと別れ帰宅したシエルは、まずは荒れ果てた部屋を元に戻すことから着手した。
     メダルとトロフィーが床に散乱していた。
     ゾディアックとの戦いで大敗しどん底を味わったあの日、シエルはアマチュア時代の栄光を衝動のまま床に叩きつけた。500勝無敗、アマチュアの王、これらの賞賛は無意味でしかなく、彼はあの日自分が塵芥(ちりあくた)と思えるほどに打ちのめされた。クロム不在の間ペンドラゴンを守ろうという誓いは無残に打ち砕かれた――あの日の自分と決別するため、シエルは夕闇が窓に垂れ込める時間、惨憺(さんたん)たる部屋を凝視し硬い握り拳を作った。
     ひどいザマだ。だが時間さえ掛ければ原状回復は可能だ。幸いトロフィーもメダルも破損は見られず、ただ元の位置に戻せばいいだけだった。ひたひたと忍び寄る闇が苦しく、シエルはしんどい気持ちの中それでも自身のやらかしに向き合う。一つ一つ、昔の誓いを改めて胸に刻むように。彼は自分の歩みの証を、クロムの言葉を思い出しながら手に取った。
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    ミヤシロ

    DONE80話『最遅の者』~81話『オールイン』の石山メインのお話。石山の部屋の描写は私的設定です。あとマルチが新ベイを完成させた日時がはっきり特定できない為、80話の翌日に完成したという設定にしています。
    石山は登場するたびに魅力的なキャラになっていますね…! 今回のお話を書いてみて、彼の歩みがアニメ本編でとても丁寧に描写されていると感じました。
    不変の道 石山は母親に頼んで手に入れたスイーツを、翌日ファランクスの二人と共に味わった。
    「すっげー!」
    「うまそうだな」
     昨日バーンの部屋で拒んだ甘味を、この日石山は仏頂面ながら親しき者にはわかる上機嫌で堪能する。母親に電話したあのとき“一人で三つ食べてしまおうか”と頭をよぎったものの、彼はすぐさま思い直し三人で食することにした。予定の空いていた二人は報せを聞き、喜んで石山の家を訪れた。石山の住まいはとある賃貸物件の一室であり、そこはさっぱりと片付いて私物がさしてない場所だった。
     十年間、無骨な男は簡素だが清潔な部屋で暮らしている。勝手知ったるファランクスの二人は用意されたスイーツに目を輝かせ、石山の淹れた紅茶と共に舌鼓を打った。その後は今後の予定やトレーニング内容を確認し、世間の話題にも触れる。彼等の話にはトーク番組の撮影やスタジオに乱入したカルラ、そして黒服への言及があった。
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    ミヤシロ

    DONE『夢か現か』のシグル視点。シグルは台詞も少なく感情を表情から読み取りにくく、お話を書くのはとても難しかったです。彼女も彼女なりに二人を案じたり、ペンドラゴンを好きでいてくれたりするといいな、って。
    来週のアニメにシグルが登場しますね! 楽しみです。
    バイオレット シエルがクロムの中で大切な存在になっていく。
     彼がクロムにとってどれほど支えになっているのか。心の傷を癒してきたか。私は彼に感謝してもしきれないんだろう、上手く言葉に出来ないけど。
     私は何も出来なかった。見ているだけで、壊れていくクロムを気遣う言葉を持てなかった。
     でも、クロムが昔の自分を取り戻しつつある今、私は。今度こそ、何かあったら彼を支えたいと思う。シエルと共に。
     そしてチームのために戦おう。持てる限りの力を尽くして。

    「オレ達の、イメージ香水…!」
     私がモデルを務めるブランドの会議室で、シエルが上ずった声で言った。
     ペンドラゴンの三人をイメージして香水を作る。期間限定で販売される香水が完成したから、と、私達はこの日企業から呼び出しを受けた。雑誌に載せる写真を撮ってインタビューを受けて。私にはそう珍しくない仕事だけど、シエルにとっては初めてのコラボ企画だった。彼はベイについてのインタビューならたくさん受けてきたけど、香水については初めてだ。彼はそわそわしながらイメージ香水に向き合った。営業社員に勧められて香水を試す彼はおっかなびっくり、とても危なっかしかった。
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    ミヤシロ

    DONEバーンと石山のお話。
    また香水のお話です。先月クロムの匂いがどうのと騒いでいましたので、つい書いてしまいます。実は現在も香水ネタでお話を考えていたり。
    彼の香りは 石山タクミが不死原バーンと会う約束をしたその日、バーンは珍しく遅刻してきた。
    「すまない。待たせてしまったね」
     いつもは早い時間に二人とも待ち合わせ場所に到着しているか、あるいはバーンの方が早いくらいだ。石山は“珍しいな”と意外に思うものの、相手に怒りや苛立ちを覚えはしなかった。バーンはベイバトルの時間には度々遅れていたが、石山との約束の時間を破ったことは今日以外に一度もない。そもそもほんの数分の遅れであってバーンが謝るほどでもないのだ。石山は謝罪をさらりと受け入れ相手が向かいに座るのを見つめる。優美な男性の所作は美しかった。
     二人はバーンがマウンテンラーメンを買収して以来定期的に顔を合わせ、互いの近況を報告し合う間柄となっている。彼等の関係は実に良好で、石山のまとう空気も彼が出せるものの中では穏やかである。彼は引退の窮地を救われたがゆえバーンに少なくない恩義を感じている。たかが数分の遅刻で文句を言う気は毛頭なかった。
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