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    Lupinus

    @lupi_eggplant

    テキストを投げ込むスペース/主刀/ファンチェズ

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    Lupinus

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    https://privatter.net/p/8240524の日光くんサイド

    ##主刀

    さににこ未満「あ、あのね、日光くん」
     隣を歩く主が口を開く。敵襲の心配もないのだから後ろを歩くべきなのだが、どら猫曰く主は近侍に話し相手を望むから横に並ぶのがよいらしい。
     それにしても妙に遠慮がちな口調である。
     他の刀たちへの接し方を見るかぎり、付喪神という存在をそれほど恐れているふうではなかったが。新参者の自分が相手ではそうもいかないものか。
    「何だ」
     新入りの自分が主を待たせるのは好ましくない。即座に返答すると歯切れの悪いせりふが続く。
    「えーと、その。しばらくこの本丸にいて気付いてるかもしれないけど、私はあんまりこう、堅苦しいのは得意じゃないんだよね」
    「うむ」
     それも既に知っている。
     本丸を率いて数年となれば刀剣男士の扱いにも慣れているのだろうし、もともとおおらかで打ち解けやすい性質と聞いている。居並ぶ名刀、たとえば一文字一家の長たる山鳥毛を相手にしてさえ、まるで臆するところがない。だからこそなおさら、はっきりしない態度が気にかかる。
     とはいえ主が身構える理由に心当たりはある。
     そうした開放的な性質であれば、自分のように雑談できずも風雅な話題も持たない刀は扱いづらかろう。それでもこうして近侍を申しつけ、新たな刀と接する時間を設けようとする姿勢は好ましい。
     どら猫の言い分に納得し、今代の主のやり方に従うと決めてしまえば、奇妙な習慣もさほど苦ではなくなる。今もこうして、本来ならば立ち止まって拝聴すべき主君の言葉を、主が足を止めぬからとそのまま聴いている。
     「あなたは一文字の子たちの前では山鳥毛くんの片腕として、黒田家にいた子たちの前ではお兄さんとして振る舞っているよね。
     頼もしいけどいつもあんな感じでは疲れてしまいそうだし、私のところにいるあいだはもっと気楽にのんびりしてくれていいんだよ」
     ほんの数日のうちにこちらの動きをよく見ているものだ。
     それはそうとして、気がかりなのはむやみに心細げな声が何を言いたいかである。事情を知らぬ者が聴けば懇願としか思えないだろうが、一国一城の主が刀に依頼などするものではない。
     それともこの要領を得ない申し出は、戦のない時代に生まれた人にとっては別の意味を持つのか。
     加えて今ひとつ気になるのは、自分が疲弊しているのではないかという主の推測だ。しかし主が何をもってそのように判断したかなど、近侍が詮索するべきではないだろう。

     確かめねばならないことは一点で事足りる。
    「それは主命か」
     廊下を踏みしめる主の足音が乱れる。何をそんなに焦ることがあるのか。
    「えっ。い、いや、命令ってわけじゃなくてお願いかな」
     命令でないのならば必ずしも従う必要はない。
     そう安堵すると同時に、これが事実として命令ではなく『お願い』でしかなかったことに驚愕していた。
    「ならば良い。主の命といえど、聞いてやれぬものは如何ともしがたいのでな」
     命令ならば是非もなく従うより他にないが、ただの願いであれば無理なものは無理と答えても問題はなかろう。そう理解していながら声音から動揺を消せない。
     無理なことは無理と伝えるのも臣下のつとめであるのに、事実を口にするだけでなぜこのような不安が生まれるのか。
     廊下のきしむ音がひどく耳障りだった。顕現してこのかた一度も気にしたことなどなかったものを。
    「俺のどこを見てそう感じたのかは知らんが、常に緊張を切らさずにいるのは何ら苦ではない。戦士とはそうあるべきものだ」
     何とはなしに腕を組んだのは判断に窮したため……というほどではないが、主の要求の意味をはかりかねての惑い故である。
    「そ、そうなの?」
     そうと決まっている。
     が、戦場に足を運ぶ機会のない主に理解を求めるのは酷であろう。
     そもそも、よりによって主の傍らにある折りに限ってこのような言葉をかけられることこそ心外だ。
    「しかしこうして近侍を務める日は、時折それが緩みそうになる。主の傍らに置かれることに安堵するのは刀の本能か」
     口にしてしまえばますます確信が深まる。
     緊張を切らさぬのが戦士の性質と語った舌の根も乾かぬうちに、緩みかけているとみずから申し出るなど。
     刀剣男士とはそういうもの、と開き直るのもおこがましい……もっとも今回については、主が望んでいるのだからそれで構わぬのか。
    「……あまり好ましいことではないと考えていたが、主がそう言うのならば問題はないな」
     口角を少しばかり上げてやれば主は満足するのだろうか、とふと思う。一方で、うかうかとその場しのぎを試みても見透かされるだけではないかとも考える。
     であれば結局、何もせずに置くのが得策ではないか。応対を考えあぐねて視線を逸らした先に、都合良く目的とする部屋がある。
    「さて、手入部屋だ」
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    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

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    PAST主般/さにはにゃ(男審神者×大般若)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

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    主に見せたのは最近巷で話題になっている俺たち刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。といっても髪色と同じ毛皮に戦装束の一部を身につけているだけだが、これがなかなか審神者の間で人気らしい。
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    うちの主は流行に疎い男だ。知らないものを見るときの癖で眉間にシワを寄せている。やめなって言ってるんだがどうにも治らないし、自分でも自覚してるらく指摘するとむっつりと不機嫌になる。そこがこの男の可愛いところでもあるがそれを口にすると似合わんと言ってさらにシワが深くなるからあまり言わないようにはしてる。厳しい顔も好きだがね。
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    主に手渡すと胴を両手で持ちながらしげしげと眺めている。耳を触ったり目元の装飾をいじったり。予想よりだいぶ興味を示してるなぁと見ているときだった。
    「ああ、可愛いな」
    主が力を抜くように息を吐く。
    あ、これは思ったより面白くないかもしれない。そ 874

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    PAST主肥/さにひぜ(男審神者×肥前)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    おじさん審神者がうさぎのぬいぐるみに向かって好きっていってるのを目撃した肥前
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    「ま、待っておくれ!」
    肥前くんに見られてしまった。くるっと回れ右して去って行こうとする赤いパーカーの腕をとっさに掴んで引き寄せようとした。けれども彼の脚はその場に根が張ったようにピクリとも動かない。
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    「何が違うってん 1061

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    PASTさに(→)←ちょも
    山鳥毛のピアスに目が行く審神者
    最近どうも気になることがある。気になることは突き詰めておきたい性分故か、見入ってしまっていた。
    「どうした、小鳥」
     一文字一家の長であるというこの刀は、顕現したばかりだが近侍としての能力全般に長けており気づけば持ち回りだった近侍の任が固定になった。
     一日の大半を一緒に過ごすようになって、つい目を引かれてしまうようになったのはいつからだったか。特に隠すことでもないので、問いかけに応えることにした。
    「ピアスが気になって」
    「この巣には装飾品を身につけているものは少なくないと思うが」
     言われてみれば確かにと気づく。80振りを越えた本丸内では趣向を凝らした戦装束をまとって顕現される。その中には当然のように現代の装飾品を身につけている刀もいて、大分親しみやすい形でいるのだなと妙に感心した記憶がある。たまにやれ片方落としただの金具が壊れただのというちょっとした騒動が起こることがあるのだが、それはまあおいておく。
     さて、ではなぜ山鳥毛にかぎってやたらと気になるのかと首を傾げていると、ずいと身を乗り出し耳元でささやかれた。
    「小鳥は私のことが気になっているのかな?」
    「あー……?」
    ちょっと 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555